どのような条件で<種分化>や<種内多型>が維持される? 「種」の謎を考察した総説が発表
「種」とは生物を分類する際に用いられる基本単位です。
これまで、見た目が明らかに異なる生物を別種とし分類されてきましたが、現在は互いに遺伝子を交換できない生物集団を種として定義するのが一般的とされています。それでは、どのような条件で種分化が起こったり、種内での変異として維持されたりするのでしょうか。
意外にも、種分化や種内多型などを統一的に理解しようという視点は、これまでほとんどなかったといいます。
そうした中、生態遺伝学研究室の北野潤教授らから成る研究グループはこれらの疑問を考察し、『Trends in Ecology & Evolution』にその総説が発表されました(論文タイトル:The genomics of discrete polymorphisms maintained by disruptive selection)。
種とは
生物を分類する基本単位として用いられる「種」。従来、見た目が明らかに異なる種を別種として分類していました。
しかし、現在では互いに遺伝子を交換できない生物集団を種として定義することが一般的になっています。
見た目が違うのに同じ種
自然界には様々な生物が存在しています。そして、その中には見た目が明らかに異なるにもかかわらず、同じ種であることもあるのです。
シロオビアゲハはその一例で、シロオビアゲハのメスには後翅に白い帯がある「通常型」と、白い帯に加え赤い斑点を持つ「擬態型」が知られています。
後者は毒を持ったベニモンアゲハに見た目が似ており、天敵から身を守るための擬態と考えられているようです。これをベイツ型擬態といいます。
また、トゲウオ科のイトヨは鱗が変形した「鱗板」という鎧のような構造を持ちますが、この鱗板が体を覆う「完全型」と体の後半に鱗板がない「低形成型」が知られています。
種分化などの条件は?
こうした生物たちがいる中で、疑問とされてきたのが「いったいどのような条件が揃えば種分化したり、種内多型として維持されたりするのか」ということ。
意外にも、これまで種分化や種内多型、性的二型までを統一的に理解しようとする視点はほとんどありませんでした。
そこで、生態遺伝学研究室の北野潤教授と香川幸太郎研究員から成る研究グループは、こられの疑問を考察。進化分野における先導的な役割を持った雑誌『Trends in Ecology & Evolution』に総説を発表しました。
うまい遺伝的仕組み
少数の限られた形態などが有利な状態において、それぞれに適応した生物が進化するとされています。
その際に遺伝子の交換をしつつ、異なる型も作れるような“ちょうどうまい遺伝的仕組み”が進化できれば種分化せずに済む一方で、そのような仕組みが進化できない場合はお互いの遺伝子交換を止めて、それぞれに適応した遺伝的組み合わせを持つ型に進化する(種分化)と考察されました。
そのため、「うまい遺伝的仕組み」がどのように進化するのか、またはどれほど早く進化し得るのかなどを解明することが、種分化を誘導・抑制する要因を明らかにするためには必要であるとされています。
新しい研究の方向性を示す
論文の筆頭者である北野教授はトゲウオなどの魚類を中心に種内多型、種分化、性的二型などの研究をしてきたそうです。
しかし、これらをどのように統合的に理解するのかが長年の疑問だったといいます。そのため、今回の論文はこれらの統合に向けた方向性が示された点で大きな成果となったようです。
さらに総説が今後、北野教授の研究室を含めた世界の研究に潮流を生み出すきっかけにつながることが期待されています。
(サカナト編集部)