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認知症の親がお風呂に入らない…理由と対応法、声かけ例まで解説

「みんなの介護」ニュース

髙橋 秀明

認知症の方の介護において、「これまで毎日欠かさず入浴していた親が、突然入浴を拒否するようになった」「何度声をかけても、強く抵抗される」といった状況は、介護をされているご家族にとって大きな心配の種となっています。

このような入浴拒否は、認知症の進行に伴って現れる一般的な症状の一つではありますが、適切な対応方法を知ることで、より円滑な介護を実現できる可能性があります。

本記事では、認知症の方が入浴を拒否される背景にある理由を解説したうえで、実践的な対応方法をご紹介します。

認知症の方がお風呂に入らない理由

認知機能の低下による入浴の必要性の認識低下

認知症による記憶障害は、日常生活における時間の感覚や出来事の記憶に大きな影響を及ぼします。特に「入浴」という日常的な行為に関する記憶は、その影響を顕著に受けやすい領域の一つです。

例えば、実際には一週間以上入浴されていない状況であっても、認知症の方の認識の中では「つい昨日、入浴したばかりだ」という明確な記憶として存在していることがあります。

これは決して嘘をついているわけでも、入浴を避けるための言い訳をしているわけでもありません。認知症の方にとって、それが紛れもない「現実」なのです。その時の記憶が、本人の中では「昨日」という最近の出来事として認識されているのです。

また、認知症による判断力の低下は、より複雑な影響をもたらします。自分の体の状態を客観的に理解し、評価することが徐々に困難になっていきます。

例えば、

汗をかいて体が蒸れている状態でも、不快感を感じにくくなる
体の汚れに気付きにくくなる
季節や気温に応じた体の手入れの必要性を理解しづらくなる

このような状況下で、介護者が「体が汚いから」「臭いがするから」といった理由で入浴を促すことは、思いがけない結果をもたらす可能性があります。なぜなら、そのような声かけは、本人の現実認識と真っ向から対立してしまうためです。

本人は「つい先ほど入浴したばかりで、体は清潔だ」と認識している中で、「体が汚いから入浴しましょう」と言われることは、単に入浴を促されるだけではなく、自分の認識そのものを否定されるような深い精神的ショックとなり得ます。これは本人の自尊心を大きく傷つけ、強い不信感や拒否反応を引き起こす原因となります。

さらに、このような経験が重なると、入浴という行為自体に対して不安や恐れを感じるようになり、より一層入浴を避けるようになってしまう可能性があります。これは、単なる清潔保持の問題を超えて、認知症の方との信頼関係にも影響を及ぼす重要な課題となります。

このように、認知症の方の入浴拒否は、単純な「わがまま」や「非協力的な態度」ではなく、認知症による記憶障害と判断力の低下が複雑に絡み合って生じる現象として理解する必要があります。

羞恥心と自尊心からくる入浴拒否

入浴という行為は、私たちの日常生活の中で最も私的かつ無防備な状況の一つです。全裸になり、他者の目に触れる可能性がある状況は、年齢や認知症の有無に関わらず、誰もが自然な不安や羞恥心を感じる場面です。

特に、これまで自分の力で入浴を行ってこられた方が、突然介助を必要とする状況に直面した場合、その心理的影響は非常に大きなものとなります。

また、他者の手を借りなければならないという現実は、単なる物理的な依存以上の意味を持ちます。家族に迷惑をかけているという罪悪感や、介護される立場になることへの精神的な抵抗感は、入浴という行為自体への強い拒否へとつながっていきます。

認知症の方の場合、これらの感情はさらに複雑な様相を呈します。環境の変化に対する特有の脆弱性により、普段と異なる手順や状況に強い不安を感じやすくなります。見慣れない介助者の存在や、慣れ親しんだ入浴パターンの変更は、大きなストレス要因となるのです。

環境変化による不安と恐怖心

認知症の進行に伴う空間認識能力の低下は、日常生活のさまざまな場面で影響を及ぼします。

長年使い慣れた自宅の浴室であっても、認知症の進行により、ある日突然、全く見知らぬ不安な空間として認識されることがあります。この感覚は、私たちが初めて訪れた見知らぬ場所で感じる戸惑いや不安に近いものですが、それが毎日の入浴の度に繰り返される可能性があるのです。

浴室には、健康な方にとっては当たり前となっている特有の環境要因が数多く存在します。滑りやすい床の感触、脱衣所から浴室に入る際の急激な温度変化、シャワーや給湯の水音、立ち込める湯気など、これらは日常的な入浴には不可欠な要素です。しかし、認知症の方にとって、これらの要素一つ一つが不安を引き起こす大きな原因となり得ます。

特に浴室内に立ち込める湯気は視界を大きく妨げ、それによって方向感覚を失いやすくなります。「どちらが出口だったか」「どこに手すりがあったか」といった空間把握が困難になることで、強い不安を感じることがあります。また、シャワーの水音や浴室特有の反響音は、家族や介護者の声が聞き取りにくくなる原因となり、コミュニケーションを難しくすると同時に、孤立感や不安感をさらに強める要因となります。

このような状況の中で、特に慎重な配慮が必要となるのが、過去の転倒経験です。認知症による記憶障害は、日常的な出来事の記憶に大きく影響を与えますが、注目すべき特徴として、強い感情を伴う経験、特に不安や恐怖といった感情の記憶は、比較的長期間にわたって保持される傾向があります。そのため、たった一度の転倒経験であっても、その時に感じた恐怖や不安の感情が強く記憶に刻まれ、その後の入浴に対する強い恐怖心として定着してしまうことがあります。

入浴中の転倒は、認知症の有無に関わらず、誰にとっても深刻で恐ろしい経験です。しかし、認知症の方の場合、その恐怖体験が理性的に整理されることなく、漠然とした不安として心に残り続けやすい特徴があります。その結果、本人自身も明確に説明することができない入浴への強い抵抗感として表出することがあります。時には「なぜ怖いのかわからないけど、怖い」という漠然とした不安として表現されることもあります。

認知症の方の入浴拒否への効果的な対応方法

入浴環境の整備と不安の軽減

過去の転倒経験や水への恐怖、温度変化に対する違和感を感じる場合、入浴に拒絶反応を抱くことは不自然ではありません。

これらの不安を軽減するためには、浴室と脱衣所の温度差をなくすヒーターの設置、滑り止めマットや手すりの配置、浴槽の出入りを助ける踏み台の用意など、安全性を高める環境整備が重要です。照明を明るくして視認性を向上させることも、不安軽減につながります。

また、入浴への関心や楽しさを引き出す工夫として、好みの香りの入浴剤を使用したり、「今日は温泉気分を味わいましょう」といった声かけをするのも効果的です。以前から温泉が好きだった方であれば、温泉の話題から入浴への興味を引き出せることもあります。

入浴介助者への不安がある場合は、信頼関係のある家族や介護者が担当したり、同性介助を基本とするなど、羞恥心や不安を軽減する配慮も必要です。

言葉やイラストを使った理解の促進

認知症の方が入浴を拒否する主な原因の一つに、認知機能の低下による「入浴」という概念が理解できなくなっているケースがあります。特に言語障害がある場合、「お風呂に入りましょう」という声かけの意味が伝わらないことがあります。

このような状況では、別の言葉で説明したり、お風呂のイラストカードを見せるといった視覚的なアプローチが効果的です。入浴に使用するタオルや石鹸、洗面器などの実物を見せることで、何をするのかをイメージしやすくなります。

また、記憶障害により「すでに入浴した」と思い込んでいる場合は、カレンダーを活用して入浴日を視覚的に確認する方法も有効です。

認知症の方の理解度に合わせたコミュニケーションを心がけ、一方的な説明ではなく、本人の反応を見ながら丁寧に意思疎通を図ることが大切です。

例えば、ご本人が「お風呂は昨日入ったから、入りません」と主張された場合、「お風呂は毎日入らないと」などと否定的な言葉をかけるのではなく、「確かに昨日も体を洗ったけれど、シャワーだけだったよね。今日はゆっくり湯舟に浸かってみませんか?」などと提案してあげるとよいでしょう。

無理に入浴させず、代替手段を活用しよう

入浴に強い抵抗を示す場合は、いきなり全身浴を促すのではなく、段階的なアプローチが有効です。まずは温かいタオルでの部分清拭から始め、手浴や足浴など部分的な洗浄に慣れてもらいましょう。

「全身を洗う」という目標にこだわらず、その日の体調や気分に合わせて清潔を保つ方法を柔軟に変えることが大切です。例えば、汗をかきやすい夏場は背中や脇の下を重点的に拭く、排泄後は陰部のみを清潔にするなど、優先順位をつけて対応していきましょう。

入浴の負担を軽減するために、洗髪と体を洗う日を分ける、シャワーのみの簡易入浴を取り入れるなどの工夫も有効です。できることは本人にやってもらい、難しい部分のみ介助するというアプローチは、自尊心を守りながら清潔を保つことができます。

入浴のタイミングも重要です。本人の生活リズムや体調の良い時間帯を見極め、テレビ番組などの楽しみを中断せずに入浴できるよう配慮しましょう。日中の活動後や夕食前など、本人が受け入れやすいタイミングを見つけることが大切です。

無理強いは避け、今日拒否されても明日また声をかけるという柔軟な姿勢で、根気強く対応することが、長期的には入浴拒否の改善につながります。家族だけで抱え込まず、介護サービスの利用や専門家への相談を検討することも、持続可能なケアには欠かせません。

認知症の方の入浴支援に活用できる介護サービス

自宅での入浴介助に限界を感じたとき、介護保険サービスの利用を検討することも一つの選択肢です。ここでは、具体的な介護サービスの内容と、それぞれの特徴についてご説明します。

デイサービスでの入浴支援

デイサービス(通所介護)は、要介護認定を受けた高齢者が日帰りで通う介護施設です。日中の時間帯(通常8時〜17時頃)に自宅から施設へ通い、食事やレクリエーションなどのサービスを受けながら、日常生活の支援と機能訓練を行うサービスで、その中のメニューの一つとして入浴介助も提供されています。

特筆すべきは、単なる入浴介助だけでなく、入浴前後の活動も含めて総合的にアプローチで切る点です。レクリエーションなどの活動を通じて心身をリラックスさせてから入浴することで、自然な流れで入浴を受け入れやすくなります。

また、銭湯が好きだった方には大浴場のある施設を、一人でゆっくり入りたい方には個別浴室のある施設を選ぶなど、その方の好みや習慣に合わせた選択が可能なので、利用を検討する際には調べてみてください。

訪問入浴サービスの活用法

訪問入浴は、看護師と介護職のチームで自宅を訪問し、専用の浴槽で入浴介助を行うサービスです。

特徴的なのは、入浴前後の健康チェックを看護師が行うため、体調管理の面でも安心なことです。

訪問入浴は、外出が困難な方や、環境の変化に強い不安を感じる方に特に適しています。慣れ親しんだ自宅で入浴できることで、心理的な負担が少なくなります。

しかし、訪問入浴は入浴に特化したサービスのため、入浴以外の活動や交流の機会は限られます。その方の状態や希望に応じて、他のサービスと組み合わせることも検討しましょう。

介護施設での専門的な入浴介助

短期入所生活介護(ショートステイ)や特別養護老人ホームでは、認知症の方への入浴介助の経験が豊富な職員が対応します。施設での入浴には以下のような特徴があります。

まず、入浴時間を柔軟に設定できることです。その日の体調や気分に合わせて、最適なタイミングで入浴を促すことができます。また、複数の職員が連携して対応するため、安全面でも安心です。

さらに、施設では継続的な関わりの中で信頼関係を築くことができます。この信頼関係が、スムーズな入浴介助につながっていきます。入浴拒否が強い場合でも、時間をかけて少しずつ関係性を築きながら、その方に合ったペースで入浴を支援することができます。

大切なのは、これらのサービスを上手く組み合わせて活用することです。例えば、週の半分はデイサービスでの入浴、残りは訪問入浴を利用するなど、その方の状態や家族の状況に応じて、柔軟にサービスを選択することができます。

最後に強調したいのは、どのサービスを選ぶにしても、その方の気持ちに寄り添った支援が基本となることです。サービスの利用を検討する際は、担当のケアマネジャーに相談し、その方に最適なプランを立てることをおすすめします。

まとめ

認知症の方の入浴拒否は、認知機能低下や恐怖心など複数の理由から起こります。

環境整備や段階的アプローチで対応しつつ、必要に応じてデイサービスなどの介護サービスを活用しましょう。本人の気持ちに寄り添いながら、柔軟な姿勢で介助することが大切です。

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