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「女性だけでなく、すべての人に優しかった」内藤剛志、在りし日の火野正平を偲ぶ。

文化放送

野村邦丸アナウンサーが大将を務める「くにまる食堂」(文化放送・毎週金曜9時~13時)。11月21日(木)のオープニングでは、パートナーで俳優の内藤剛志が、14日に亡くなったことが伝えられた俳優・火野正平の思い出を語った。

野村邦丸アナ「火野正平さんといえば、内藤剛志さんからすれば、先輩なわけですよね?」

内藤剛志「大好きでした。火野さんといえば『女性に優しい』っていうでしょう? 確かに女性に優しいけど、人に優しいんですよ。こんなことをいわれたことがあります。初めて共演した時のことはちょっと覚えてないんですけどね、ある時『おまえ、ちゃんと台詞は優しくいうなあ』っていわれたんですよ。台詞の中に、人間の優しさがあるって。これ、優しい台詞をいってるわけじゃないんですよ。その時は全然わからなかったの。色んな仕事をさせてもらっている中に、たとえばですけども、京都に松竹京都映画っていう撮影所がありまして。ここは、主役がみんなにバーベキューをふるまうという伝統があるんですよ」

邦丸「一座の座長が!」

内藤「そうですそうです。色んな人の座長の作品に、僕も火野さんも一緒にいた場合です。火野さんが『内藤ちょっと来い。今、座長がちょっと来るのが遅れてるだろ? 座長はスタッフより前に来て、先に火の前にいなきゃダメだ』っていうんですよ」

邦丸「火野さんが?」

内藤「そうです。『肉を焼く場所に常に座長はいなきゃいけない。スタッフよりもちょっとでも早く顔を出しておく。これが大事なんだぞ』っていわれるんですよ。だから僕、そのあとも松竹京都映画で主役をさせてもらいましたけども、絶対にそうしてました。5分でも10分でもみんなより早く行って、『内藤さんずっといるんですか?』『おう、俺はずっとここで火の番をしてたんだ』って。冗談でもなんでもいい、その心構えが大事だっていうんですよ」

邦丸「へえ~っ!」

内藤「こんなこともありました。『赤い月』という長いドラマがありましてね。作詞家のなかにし礼さんのお父さんの話なんですね。これは、造り酒屋のなかにし一家が満州に行って、軍と取引して大金持ちになるんですが、終戦になることによって紙幣が全部紙になってしまって、没落して日本に帰って来る。その途中でお父さんが死んでいくっていう、そんなドラマっていうか史実があるんです。で、僕がお父さんの役で、お母さん役が高島礼子なんですが、造り酒屋ですから、杜氏を連れていくことによって、満州でも日本と同じクオリティのお酒を造ることが出来るわけです。それで僕は『杜氏役は火野さんを呼ぼう!』と。プロデューサーを通して『火野さんにお願いしたいんですけど』っていうと、火野さんは『内藤がやるのか、いいよいいよ、やるよ!』っておっしゃって」

邦丸「ベテランの杜氏役で」

内藤「そうです。杜氏だから撮影中ずーっと一緒にいられるじゃないですか。火野さんがOKしてくれて『お~っ、乗ってくれたじゃん!』ってすごく嬉しかったんですよ。それで、決まったと。でもちょっと経ってから火野さんが『内藤、申し訳ないことがあるんだ。出来ないんだよ!』とおっしゃるわけ。『あ、どうしました? スケジュールですか?』『そうなんだよ。3日だけ引っ掛かるんだよ!』って。『何スか?』っていったら、確か8月だったと思うんだけど、8月は1日から31日まで、ちょっと言葉悪いですけど、『女房とトイレ以外はずっと一緒にいるというのが毎年の恒例なんだ。8月の1、2、3日にロケが入ってるだろ? ごめん、降ろさせてくれ』っていわれて。わかりましたと。わかるから、気持ちが。『女房とずーっと一緒にいるから、その何日間かが引っ掛かるんだよ。ごめんな、内藤』って。泣きますよね、そんなの。もちろん他の方に代わりをやっていただいたから素晴らしいドラマになりましたけども、『えっ、火野さんってそういう風に仕事を捉えるんだ』と。僕との関係もそう、奥さんとの関係もそう。火野さんが『人に優しい』っていわれるのは、そういうことじゃないんですか? これは『いい思い出』として今語ってますしね。『一緒にやれなくて残念でした』っていってるわけじゃないんですよ。やれなかったことによって僕の中の何かが豊かになったんですよ、もっと」

邦丸「そうですね」

内藤「芝居を一番大事にしていたのは火野さんだと思います。厳しかったですから。現場で彼が台本をチェックする様子なんて、僕、一回も見たことが無い。それぐらい芝居に賭けている人。だから僕以外の関係者でも火野さんの訃報に接して『ああっ!』って思って、心が抜けていくような、そんな気分だと思います。火野さんに影響を与えられたっていうことが、みんなあると思うんです」

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