ブルータルに次ぐブルータルの連続! 兀突骨ライヴ 2025.1.25@新宿WildSide Tokyo
“突き抜けた”境地を見せるJoe-Gの驚愕プレイ
昨年(2024年)末、ベスト・アルバム『血塗ラレタ旅路』(CDとアナログで若干収録曲違い)と新曲含むレア音源集『疾風ノ如ク』を発表し、デビュー15周年を祝ったテクニカルでブルータルなトリオ:兀突骨。“川越の残虐王”と異名をとる国内最強・最凶デス・メタラーが、その2枚のリリースに伴い、去る1月下旬にWildSide Tokyoにてレコ発ワンマン・ライヴを行なった。
2000年結成からは何と25年──その間には幾度ものメンバー・チェンジがあり、現バンド・ラインナップは、唯一のオリジナル・メンバーである首魁:高畑治央(b,vo)以下、いずれも’14年加入のJoe-Gこと円城寺慶一(g)&秋田浩樹(dr)という面々に。『血塗ラレタ旅路』CDには今のメンバーによる過去曲の再録が2曲、『疾風ノ如ク』には新曲と未発表曲がそれぞれ1曲ずつ、そして再録も1曲収められているのも要注目だ。また後者3曲は、『血塗ラレタ旅路』のアナログ盤でも聴くことが出来る。
『疾風ノ如ク』
『血塗ラレタ旅路』
ところで──今回のワンマンでは、Potalist with Joe-Gがオープニング・アクトを務めたのだが、ネーミングからも分かるように、実はそれってJoe-Gのソロ・プロジェクトだったり。つまり彼はこの日、2ステージをコナすこととなったのだ。昨年アルバム『OBSERVABLE UNIVERSE』でデビューを飾ったPotalist with Joe-Gは、兀突骨とは違い、スペーシーで一部フュージョン寄りや鍵盤入り曲もあるオール・インスト・バンド。超絶テクを要するトリオ編成という点では、兀突骨と同じかそれ以上ではあるが、目指す方向性はかなり違っている。
『OBSERABLE UNIVERSE』Potalist with Joe-G
メンバーはJoe-Gに加えて、Bluetus(b)、Julien(dr)で、Joe-Gによれば「ソロ・プロジェクトであり、バンドでもある」のだそう。ただ、この日はJulienが諸事情で参加出来ず、打ち込みを駆使してのライヴとなったが、元々同期音源を使っていることもあり、生ドラムなしでもそう違和感はなかった。
17時半に開演してすぐ、オーディエンスはJoe-Gの技巧にただひたすら酔い痴れることとなる。驚くべきは、バッキングもソロもエグさハンパないそんな高難度の楽曲群を、Joe-Gがずっと笑顔でプレイしていたこと。もっと血生臭い激烈曲をやっている兀突骨でも、基本笑顔を絶やさないJoe-Gではあるが、テクニカルという点ではよりブルータルとも言え、相当な集中力が求められる中、文字通り表情豊かに、そして楽しそうに弾きまくる姿は、色々と“突き抜けた”境地に到っているからこそ…だったか。
MCでも飄々としていて、「どうも、“川越の毘沙門天”です」と言ったり、「このあと出る筋肉の人とは違う設定なので」「終わったらポータリスト星に帰ります」と言い放ったりもしていたJoe-G。但し、演目は超速リフ&フレーズ満載で、ベースとの鬼ユニゾンもテンコ盛り! 観る者すべてに「こんなのJoe-Gじゃないと弾けない…!」と驚愕させまくっていたのであった。
Joe-G(g)
Bluetus(b)
本人曰く「血反吐きそうになる(笑)」ユニゾンはショウ冒頭曲「Andromeda」から炸裂し、Bluetusもまた並外れたプレイヤーであると、序盤から全観客が確信させられたのである。
とはいえ、全編を息が詰まるようなテク押しだけで通したワケではなく、終盤にはJoe-Gの初ソロ作『CIRCLE CASTLE TEMPLE』(2020年)からの「River Side」と、『OBSERVABLE UNIVERSE』の中でもメロディ志向の強い「Enceladus」で、エモーショナルにギターを歌わせていたことを(その両曲とて難曲には違いないのだが)最後に強調しておきたい。
Potalist with Joe-G セットリスト
1. SE〜Andromeda
2. Quantum Telepotation
3. Farside
4. Blackhole
5. River Side(Joe-G)
6. Enceladus
2時間超で全20曲を熱奏&激奏
その後、転換を挟んで──18時15分を少し回った頃、いよいよ兀突骨が登場! 荘厳なSEに導かれ、スクリーンも駆使したそのショウは、『血塗ラレタ旅路』でリメイクされた「復讐ノ祝詞」(オリジナルは2013年『影ノ伝説』収録)で幕開けると、以降もうひたすら激烈に次ぐ激烈、ブルータルに次ぐブルータルの連続で、観客は思う存分ヘドバンしまくり、フロアでは軽くモッシュも発生していた。
円城寺“Joe-G”慶一(g)
高畑治央(b, vo)
秋田浩樹(dr)
注目は、「復讐ノ祝詞」以外にも、『血塗ラレタ旅路』と『疾風ノ如ク』でリレコされたナンバーがガッツリ披露されたこと。そこにはJoe-Gの加入から10年を経た努力・研鑽の積み重ねが、たっぷりと込められている。オリジナルのフレーズを殺すことなく、遂に完成形へと到った独自ソロ・パートは、どれも入魂っぷりが伝わってきて眩しいばかり。いや…冗談でなく、どの曲もbpmが凄まじ過ぎて、フル・ピッキングがあまりに速過ぎるが故に、右手が見えなくなるという驚愕の事態まで引き起こしていたのだ。
いやはや、“凄まじい”という言葉すら生ぬるく感じられるほど。しかもJoe-Gが規格外なのは、とてつもない超速ソロや怒涛の刻みを、ショウ全編にわたり安定感抜群でやりきってしまうところ。
力任せのように見えて、そのプレイは実に冷静沈着で正確無比。それを長時間続けるためには、やはり普通ではないフィジカルが必須なのだろう。本誌読者にも激マッチョな筋肉ギタリストとしてお馴染みのJoe-G。当たり前だが、あの上腕二頭筋は決して見せかけだけではない。そのプレイ姿はまさにアスリート。より速く、もっと速く、さらに速く──その境地にはJoe-Gだから辿り着けるのだ。
速いといえば、高畑のトレードマークのひとつであるスラッピングも凄まじいことこの上ナシ! 「壬生狼ノ剣」などベースから始まる曲は、自分でテンポを決めることになるのだが、思わずスタジオ・ヴァージョンの何割か増しで突っ走ってしまい、あとから後悔の念を吐露する自虐MC「(速過ぎて)このあとメンバーに謝っておく」で笑いをとるところまでがセットになっている。
そう、まるで三国志の英雄:関羽を思わせる風貌で一見コワモテの高畑──実は、なかなかお茶目なキャラなのだ。無論、演奏中は鬼気迫る表情を浮かべ、「殺シテヤル〜」「殺シテクレ〜」などと恐ろし気な歌詞を野太く吐き出しているものの、MCとなると真面目な顔でギャグをカマしたり、ステージ・ドリンクをピロピロ飲みしたり…と、意外過ぎる一面を見せる。そのギャップもファンには堪らないのだろう。
結局、この日は2度のアンコールを含め、2時間超で全20曲を熱奏&激奏。周年ライヴならではのスペシャルな演目にて、速いだけ、激しいだけではない多彩な面も、「別レノ子守唄」「血塗ラレタ旅路」などでしっかりアピールしていた。終盤には、『疾風ノ如ク』から新曲「生前葬」も飛び出し、最初のアンコールでは、高畑のマイケル・シェンカー愛に満ちた「Into The Arena」オマージュ曲「籠城鉢形」(曲名にも注目!)が…!
途中、気合が昂ぶり過ぎてか鼻血が出てしまった高畑は、「(今後)もっともっとやりたいことがあるんだ」とMCしていたが、現在絶賛新曲を書いているそうで、早くも『黄泉ガヘリ』(2023年)に続くニュー・アルバムにも期待出来そうだ。今年に入ってからも既にアジア圏にて何度もライヴを行なっている彼等には、さらに20周年、25周年…と、もっともっと上を目指して邁進してもらわねば…!!
兀突骨 2025.1.25@新宿WildSide Tokyo セットリスト
1. 戦雲ノ静寂(SE)
2. 復讐ノ祝詞
3. 川越ノ残虐王
4. 争乱ノ死地ヘ
5. 狂気ノ戦野
6. 反撃ノ時
7. 壬生狼ノ剣
8. 文物ト戦
9. 疾風ノ如ク
10. 血気ニハヤラバ
11. 疫神
12. 別レノ子守唄
13. 血塗ラレタ旅路
14. 生前葬
15. 殉教者
16. 是非ニ及バズ
[Encore 1]
17. 籠城鉢形
18. 兵ドモガ夢ノ跡
[Encore 2]
19. 因果応報
20. カミソリ
(レポート&撮影●奥村裕司 Yuzi Okumura)