スペイン語ってどんな言語なの? ~スペイン語をめぐる「素朴な疑問」【まいにちスペイン語】
テキスト『まいにちスペイン語』に連載されている木越 勉さんの『スペイン語をめぐる「素朴な疑問」』は、スペイン語にまつわるちょっとした疑問について、木越さんが分かりやすく解説しています。
今回ご紹介するテーマは、「スペイン語はどんな言語か?」(2025年4月号)です。
※本記事は、デジタルマガジン用に編集しています。
※記事内容は2025年3月発売当時のものです。
話者人口はどのくらいいるの?
世界の言語ランキングを見ると、母語話者人口では、中国語は約9億人、スペイン語は約5億人で世界第2位*1です。母語話者に非母語話者人口を加えると、英語の約15億人が断トツで、次に中国語の約11億人、ヒンディー語の約6億人、スペイン語の約6億人と続きます。スペイン語は世界第4位です。
英語が国際的に最も話されている言語であることは間違いないですが、スペイン語は国連公用語(アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語)の1つでもあります。英語とスペイン語を話せると、世界人口のだいたい4分の1に相当する約21億の人たちとコミュニケーションが図れるって、すごいことですよね?
スペイン語が使われている国は?
スペインのほか、アメリカ大陸の19か国・地域、アフリカ大陸にある赤道ギニアを合わせて世界の21の国と地域でスペイン語が公用語として使用されています。
これほどスペイン語の使用地域が広がったのは、1492年にスペインがイスラム勢力との戦いである国土回復運動(レコンキスタ)を完遂し、コロブスによるアメリカ大陸到達を契機にキリスト教の海外布教に乗り出したという歴史の流れによるものですが、これによりスペイン語は、これら公用語として使用されている国・地域以外にも影響を及ぼしました。
米国には2023年時点で、総人口の19.5%に相当する6520万人のヒスパニック(中南米系)がいて*2、米国最大のマイノリティとなっていますが、このうち4000万人以上が家庭でスペイン語を話していると言われています。
かつて19世紀前半まではメキシコの領土だった現在の米国テキサス州、カリフォルニア州、ニューメキシコ州やその周辺地域にはスペイン語の地名が数多く残っています。例えば、サンアントニオ、サンディエゴ、サンフランシスコ、サンタフェなど「聖人」、「聖女」を意味する「サン」、「サンタ」がつく地名や、サクラメント(秘跡)、ロサンゼルス(天使)、ラスベガス(肥えた平野)、シエラネバダ(雪に覆われた山脈)、リオグランデ(大きな川)などです。
また、アジアでは、フィリピン、グアム、サイパンが、1898年の米西戦争で米国に敗れるまでの約300年間スペインの植民地でしたので、フィリピンの公用語の1つであるピリピノ語 (タガログ語を基礎とした言語)にはスペイン語を語源とする語彙が数多くあります。また、グアムの公用語の1つであるチャモロ語も同様です。
これらの国や地域はスペインがかつて有していた広大な領土の名残であり、スペインがその昔「太陽の沈まぬ国」と呼ばれた所以でもあります。
スペイン語=カスティーリャ語? そのルーツと位置づけは?
スペイン語のルーツはラテン語です。共通の祖先をもつ姉妹語に、ポルトガル語、フランス語、イタリア語、ルーマニア語といった国レベルの公用語となっている言語があるほか、スペインで話されているガリシア語、カタルーニャ語などもラテン語がルーツの姉妹語です。これらの言語はみなよく似ていますから、お互いにある程度の意思疎通が図れます。なお、同じくスペインで話されているバスク語は、ラテン語をルーツとしない言語です。
スペイン語は、もともとはカスティーリャ語といって、スペイン中央部のカスティーリャ地方で話されていた言語ですが、スペイン憲法により国家公用語として定められ、すべての国民はスペイン語を使用しています。また、ガリシア語、バスク語、カタルーニャ語、バレンシア語*3はそれぞれの自治州法により自治州公用語として定められています。
スペイン語の地域差
スペイン語は、使用地域が広い割に地域差は決して大きくありません。語彙面では少なからぬ地域差はありますが、これは日本語でも地域によって物の呼び方などが変わるのと同じことです。音声面では、スペイン北中部にはある英語の濁らないth音がスペイン南部とアメリカ大陸にはない、文法面では、スペインでは使う2人称複数の人称代名詞と動詞活用形をアメリカ大陸では使わない、という違いがあるぐらいで、スペインとアメリカ大陸とで意思疎通が図れないような大差はありません。
一方、スペイン語に「標準語」や「共通語」的なものは存在しません。スペインのスペイン語も、アメリカ大陸のスペイン語も、あるいはもっと細かく分けて、メキシコのスペイン語も、アルゼンチンのスペイン語も、スペイン南部アンダルシア地方のスペイン語も、それぞれが「スペイン語」で、その国、地域による特徴があり、尊重されています。
*1 Instituto Cervantesによる2023年度調査データ
*2 アメリカ合衆国国勢調査局2023年度データ、2024年8月15日広報
*3 バレンシア語は、言語的にはカタルーニャ語バレンシア方言ですが、バレンシア自治州では「バレンシア語」と呼ばれています。
著者:木越 勉
きごし・つとむ。筑波大学非常勤講師。東京外国語大学大学院博士後期課程満期退学。元中京大学教授。NHKラジオ『まいにちスペイン語』元講師「(応用編)日本のことをお話ししましょう」(2012、2013、2014年)。著書『どみなーる Dominio del español』(朝日出版社、2018年)ほか。
◆『まいにちスペイン語』2025年4月号より
◆文 木越 勉