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上野万太郎の「この人がいるからここに行く」脱サラして志賀島で自然派農業を始めた元料理人「IN THE FARM」の浜野貴志さん

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新規就農した人の話

最近、若者の新規就農が話題になることが多い。昭和の頃は、農業に就くというのは先祖代々から続く農家の跡を継ぐというのが一般的だったような気がする。その後日本でも大型農業が推進され農業生産法人が誕生し、その会社に就職するというパターンも増えてきた。しかし、最近はまったくの未経験者が新規就農して農家として独立するケースが増えている。

志賀島で農業をしながら東区御島崎の店舗で自らが作った野菜を販売している青年がいる。レストランで勤務中に農業に興味を持ち、青果業や農家での修業を経て、2022年に新規就農したばかりの浜野貴志さん39歳だ。

IN THE FARM seasonal store 浜野貴志さん

今回は浜野さんが何故農業に興味を持ち、農家として独立するに至ったのかという話を聞いてみた。

福岡で生まれ縁があって札幌で農業に興味をもった浜野さん

1984年に生まれた浜野さんは、高校卒業までの大半を福岡市東区で過ごした。大学で上京したものの特に目的もなく大学生活を送っていた。どうにか5年で卒業し、とりあえず就職はしたそうだ。しかし、ガソリンスタンドや豆腐屋で働いた後、26歳で退職。
ちょうどその頃、友人が東京を離れて北海道に帰るというので、浜野さんも住まいを引き払ってついていくことにした。今後のことも決めていなかったので数週間の予定で北海道に行ってみようと思ったのだった。そのちょっとした軽い気持ちでの旅行が後の浜野さんの人生にとって大きな意味を持つことになるとは本人も想像していなかった。

北海道は友達の家に居候する貧乏旅行だった。「お金もすぐに底をついたので日雇いのバイトをしながらその日暮らしをしていたんですよ。というか実家の福岡に帰る旅費さえもなくなったので働くしかなかったんですよね。なんも考えてなかったんです(笑)」と当時を振り返る。

そのうち友達と共同生活を続けてみようかということになり2人で住める家に引っ越し、ちゃんとしたアルバイトで固定給をもらうようになったそうだ。そんな時にたまたまレストランの社員募集の貼り紙を目にして申し込んだという。

飲食業は未経験だったが「一日何時間でも働けます。休日なんて要りません!!」と面接で「やる気だけはあります!!」と激アピールした。それが良かったのか、幸いにも採用された。しばらくすると料理まで任せられるようになり結果的に6年半その店でお世話になり、最後には店長になったそうだ。

レストランが仕入れる契約農家の野菜に興味が湧いた浜野さん

レストランの仕事に慣れてくると、料理だけではなく素材である北海道産の野菜にも興味が湧いてきた。当時働いていたレストランでは使用する野菜を北海道各地の農家から直接仕入れていたのだが、その野菜の美味しさに感動した浜野さんは、どうしても農家さんに会いたくなった。

まずは洞爺湖町にある「佐々木ファーム」だ。「佐々木ファーム」の野菜は化学的な肥料・農薬に頼らない循環型農法で栽培される人参などの土もの根物野菜が中心だった。「こんなに美味しい人参は食べたことない!!と思うほど美味しかったんですよね。とにかく生産者に会ってみたい!畑を見てみたい!と今思えばあれが農業に興味を持った入口でしたね」
もちろん農業については素人だった浜野さんだったが、美味しさだけでなく、健康や環境に優しい農業の考え方に感動したそうだ。

その後、ニセコ町にある「LaLaLaFARM」のトマトの美味しさに感動した浜野さんは、「LaLaLaFARM」の服部社長に会いに行った。服部社長は、名古屋出身で土木の会社で働いていたが30歳前にニセコ町に移住して「循環型農業」を目指して新規就農した人だという。浜野さんはこの2社で話しを聞くうちに、「農業ってかっこいいぞ!!」と「いつの日か自分も農家になりたい!!」と思い始めたという。

そして本気で農家になりたいと思った浜野さんは、レストランの店長をしながら、週に3日、「LaLaLaFARM」に泊まり込みで農業研修をさせてもらうようになった。春夏秋の1シーズンをスタッフとして働いた浜野さんは決意する。
「よし!!農家になる。どうせやるなら地元福岡に帰って農業をやるぞ!!」と、お世話になったレストランを退職し福岡に帰ることにした。

福岡に帰ってさらに野菜の勉強の日々

実家のある福岡市東区に帰った浜野さん。地元の知り合いの紹介で志賀島の農家さんでアルバイトをさせてもらうことになった。
「北海道で研修したとはいえ、まだまだ野菜を育てる技術は全然ないし、北海道と福岡では作れる野菜と季節も違うんです。しばらくはこちらの農家さんでお世話になっていろいろ勉強させてもらうことにしたんです」

そもそも農業をしたい!!と言っても農地がない事には何もできない。地元のツテを使って農地を貸してくれる地主さんがいないとどうしようもないのが現状だ。浜野さんにとってこの時間は志賀島で農業アルバイトをしながら農地も探すことが大事な期間だった。さらに野菜を作ることになっても販売が出来なければ農業は成立しない。浜野さんは、青果物流のことも勉強したくて、福岡市中央卸売市場青果市場(東区みなと香椎)内にある仲卸業者でも働きだした。北海道でレストランの店長をしながら農業研修をしていたように、福岡に戻ってからも農業の現場を勉強しながら市場の中でも働き勉強した。

奥様との出会い

話はちょっと横道にそれて奥様の話。現在、浜野さんは奥様の広恵さんともうすぐ2歳になるお子さんと暮らしている。実は、この広恵さんは、函館市の出身で北海道のレストランで働いていた時の同僚だそうだ。同僚と言ってもあまり話したこともなく友達でもなかったとのこと。

浜野さんが農業のために福岡に帰るとなった時に、初めて連絡先を交換したらしい。というのも、広恵さんはいつかコーヒーに携わる仕事をしたいと思っていた。そしてコーヒー業界においては、福岡市は全国的にも有名なコーヒー店が軒を連ねる街である。福岡にいつか行ってみたいと思っていたが特に知り合いがいない広恵さんは、これ幸いと浜野さんの連絡先を聞いたらしい。

その数ケ月後に浜野さんを頼りに福岡にコーヒー旅行に来た広恵さん。それがきっかけでなんとなく遠距離恋愛が始まり、その後交際をきっかけに北海道から福岡市へ引っ越してきた。そして結婚、出産とつながるのだから、本当に何がきっかけで、また誰と出会うかで人生はどうにでも変わるモノだと改めて思う。

2022年新規就農した浜野さん

さて話を戻すが、いよいよ浜野さんは2022年9月に新規就農を果たした。農地は志賀島の北側にある勝馬という地区。小さな島なので海水浴場のある海岸から車で5分とかからない山中に数か所の農地を借りることが出来た。志賀島は島在住の人のみならず、東区中心部に住んでいて農業のために志賀島に通っている人もいる。島と言っても陸続きなので混んでない時間なら車で30分ほどで通勤できるのだ。

浜野さんは現在、季節の野菜を中心に20種類以上の栽培に取り組んでいる。もちろん、土作りから種まき、成育管理、収獲という流れなので、20種類以上の野菜がいつも採れるわけではない。いまはオクラ、唐辛子、ニンニク、ミニトマト、胡瓜、パプリカなどが出荷中だった。

農業へのこだわり

北海道で味わった美味しい野菜。それに感動して農家になりたいと思った浜野さんは「佐々木ファーム」や「LaLaLaFARM」が取り組んでいた自然派農業を見習って無農薬、無化学肥料での栽培を行っている。

日本の農業では通常は法律で認められた農薬などを使って栽培する「慣行栽培」が中心で、その使用料を基準値より50%減らして栽培することを「減農薬・減化学肥料栽培」と言う。そして農薬や化学肥料をまったく使わない農業のことを、「有機(オーガニック)栽培」という。その他にその実践方法の違いにより、無肥料栽培、不耕起栽培など、その呼び方や種類は様々である。有機栽培以降のものを総称して自然派農業と考えてもらったら分かりやすいと思う。

農薬には殺虫剤(害虫対策)、殺菌剤(病気対策)、除草剤(雑草対策)があるが、これをどれも使わないのは大変なことである。自然派農業とは浜野さんが目指すようなメリットはあるものの、経済活動として農業を考えたら、作業量は増えるし収穫量が安定せず相当な努力が必要なのである。

浜野さんも「目指していることは良い事だと思っていても、おかげで仕事の半分以上は草刈りですよ。毎日毎日が草との戦いと言っても過言ではないです(笑)」

それでも自然派農業に精力的に取り組む浜野さんにあらためてその意義とは何かと聞いてみた。
「実際にやってみたら思っていた以上に大変ですが、僕が作った野菜を買ってくれるお客様や家族や友人など大事な人たちの健康を考えると、出来れば少しでも安全な野菜を食べてもらいたいと思って頑張っています」とのこと。

さらに「とにかく僕が最初に感動したあの美味しさをお客さんに伝えたいんですよね。まだまだそういう野菜を作れるまでには時間がかかるかもしれませんが、あの味を目指して頑張りたいです。そして、環境的なことを考えると持続可能な循環型農業として少しでも地球に優しい農業が出来ればと思っています」

販売について

さて、野菜は作ったら終わりではない。それをどう売るかで自分たちの生活が大きく変わってくる。農協に出荷するか市場に出荷するかというのが昭和の頃からの大きな流れだったが、現在はその選択肢が増えている。

冒頭に新規就農者が増えているという話をしたが、農地法の改正により農家でない人の農業参入のやりやすさというのもあるが、動画サイトによる栽培技術の共有化やインターネットによる通信販売プラットフォームの普及や道の駅の人気による販売チャネルの多様化などの時代背景も新規就農者の増加に寄与していると思う。

では浜野さんはどうやっていくのか。
「自分が作った野菜を販売するために東区御島崎に『IN THE FARM』という名前のお店を作りました。季節のよって販売できる野菜が違うので、“seasonal store”としています。知り合いの農家さんのお米や加工品なども販売しています」とのこと。基本的に、自店は土日のみの営業で、土曜日は広恵さん、日曜日は浜野さんが店に立っているそうだ。

「さらに自店以外の販売方法としては、自然派食品販売店や、東区のレストランへ納品させてもらっています。さらには通信販売もしていますし、マルシェへの出店なども増えてきました。ゆくゆくは販売ロスによって野菜を無駄にすることをなくすために加工品製造にも取り組む予定です。そのために店舗では保健所の許可も取れるように設計しているんです」と、しっかりと事業設計が出来ているのがすごい。

新規就農して2年

新規就農して2年が経過したが農家をやってみてどうだったか、聞いてみた。
「技術的にもまだまだ覚えなきゃいけないことやレベルを上げていくべきところがたくさんあります。そしてなかなか簡単には儲からないですね(笑)。それでもまだまだやりたいことはたくさんあります」

厳しいことも多いが、良かった点は何かと聞いてみると、「自分のペースで仕事が出来ることです。子育てをちゃんとやりたいので、家族との時間は作れますね。自分のペースで仕事が出来るというと楽そうですが、家族との時間を優先した他の時間は、逆にしっかり働きます。自営業なので何時間働いても自由ですからね。頑張った分が返って来ると思うと聞こえはよいですが、まだまだずるしたり手抜きしたりする余裕はないし頑張るしかないです。とにかく工夫や努力が必要な仕事ですから、生活そのものも工夫するようになりました」

今後の夢について聞いてみた。
「子どもたちが農業体験できるような農園にしたいですね。またレストランや個人のお客さんが畑に見学に来てくれて納得して野菜を買ってもらえるようにしたいです。野菜を通じて交流を深められるような農業がしたいです」と語る笑顔から夢があふれそうだ。

厳しい仕事ではあると思うが、まだまだ夢がいっぱいの浜野さんだ。ちなみに、奥様の広恵さんは現在東区千早にある「バスキングコーヒー」でバリスタとして働いている。とりあえず2人とも人生の夢をしっかり見つけてスタートできているのは素晴らしいと思う。2人ともふんわりとした優しい雰囲気なのに、夢を夢で終わらせないで一つ一つ考えて行動して形にしている。

新規就農した2022年の12月にはお子さんも生れた。さあこれからが本番、家族3人東区で夢に向かって大きく羽ばたいてほしいものだ。

店名 : IN THE FARM seasonal store
住所 : 福岡市東区御島崎1-6-5
営業日 : 土曜日・日曜日のみ
時間 : 10:00~15:00
メニュー : 自家栽培の季節の野菜、知り合いの生産者の商品(米、ジビエ、魚の干物など)

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