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いのちのときめきが仕事になる|自然教育の先駆者・高濱正伸さん(花まる学習会)に聞く vol.2

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YAMAP Magazine | いのちのときめきが仕事になる|自然教育の先駆者・高濱正伸さん(花まる学習会)に聞く vol.2

「いのちのときめき」に素直に生きると、それが「仕事」になる

花まる学習会代表・高濱正伸(以下、高濱)
春山さん編著の『こどもを野に放て!』(集英社)では、「いのちのときめきに素直に生きると、それがやがて仕事になる」という言葉が書かれていました。

とはいえ、「いのちのときめき」に素直に生きること自体が難しい。まだそれを感じ取れない大人や子どもたちも多いと感じます。春山さんは、そうした感覚をどのように育てていけばいいとお考えでしょうか。

YAMAP代表・春山慶彦(以下、春山)
アメリカの神話学者ジョセフ・キャンベルさんが『神話の力』という本の中で、“Follow Your Bliss.”という言葉を使っています。

私はこの言葉が大好きです。「いのちのときめきに素直に生きる」と私は解釈しています。「いのちのときめき」はここから着想を得て、『こどもを野に放て!』でも紹介しました。

私は子どもたちに「将来何になりたいか?」を絶対に聞かないようにしています。この質問をされると、子どもたちは先生や弁護士、プロ野球選手など、今ある職業で答えてしまいます。これは子どもたちの可能性を閉じてしまうことになってしまう。

20年前にはスマートフォンアプリの開発やYouTuber、eスポーツ選手という職業は存在していませんでした。今では立派な職業です。どんなことが仕事になるかは、時間がたたないとわからない。

今は自分の生き方がそのまま仕事になる時代です。こういう時代に楽しく生きるためには、自分は何が好きで、何にいのちがときめくのかをつかんでおくことが重要です。

私はいつも「車輪」をイメージしています。生き方というかいのちのときめきは車輪の真ん中です。職業や収入、肩書はどちらかといえば車輪の外側です。車輪の真ん中に生き方の軸を置いている人は、車輪がグルグル回っても、そんなにぶれない。車輪の真ん中を大事にしていれば、起業しようが、会社に所属して働いていようが、その人なりの活躍ができる。

逆に、職業や肩書きなど、生き方の軸を車輪の外側の方に置いてしまうと、他人の評価や時代の変化に振り回されて、浮き沈みの激しい人生になるような気がします。

高濱
私も同じ話をよくしています。大人になると、数値化できる物差しで物事を考えてしまうので、「何が好きか」と聞かれても答えられない人が多い。大人たちがいのちのときめきを見失っているんです。

本当に感動した人は、それを軸に生きていける。だからこそ私は若い人たちに、芸術や音楽などに触れることを勧めています。心が動く経験をすることで、くだらないことに振り回されなくなるんです。そして、その軸を持つことで社会の変化にも左右されずに生きていけます。

そして、いろいろなことを経験した末にたどり着いた結論ですが、大自然こそが自分だけの物差しを育てられる場所だと思っています。

私が会社を立ち上げた1993年は、日本でバブルが崩壊した後、経済的に行き詰まっていた時代でした。でも、不況だったからといって困った記憶はありません。むしろ、「どうにでもなる」と楽しく過ごしてきました。

世の中で「不況だ」「子どもが減っている」と条件を並べられて悲観的になる人もいますが、そうなったらなったで、新しいゲームを考えればいい。金銭は、必要であればついてくるし、ついてこなければ工夫すればいい。それくらいシンプルな気持ちでいいんじゃないですか。

私は職業柄、「やりたいことが見当たりません」という相談をよく受けますが、その時には「幼い頃の気持ちを思い出してみてください」と返答しています。2、3歳児が見ている世界は面白い。

「これは何?」「どうなっているの?」と、世界の全てに感動している。ところが、学校に通う年齢になると、評価基準がジリジリと心の中に迫ってきて「いい点数を取らなくてはいけない」という価値観に変わってしまいます。

春山
いのちのときめきは日々あるんです。今日、福岡から都内に来たのですが、空港から虹が見えました。自分が住んでる街から虹が出てて、そのタイミングで妻から「かぼちゃスープがなくなって、1歳の娘が泣いてる」というLINEのメッセージが来ました。泣いてる娘の上に虹が出ている… なんという奇跡…(笑)。

高濱
いいですね、もうそれだけで1日が幸せになる。私も教育現場における評価制度自体を否定したいのではなく、虹を見て「うわ、最高だ!」と思える純粋さを失ってはいけないと思っています。

誰にでも毎日が楽しかった時代があったはずです。それを取り戻すために私がおすすめしているのは、日記です。

例えば、サッカー観戦。ただ「楽しかった」とだけ書くのではなく、本当に自分が何を感じたのかを掘り下げてみる。

自分の心の内をよく見てみたら、「みんながワーワーと歓声を上げていたシーンはそんなに面白くなかった」「別に勝ったからって、そんな感動はない」「でも、みんなが帰りに客席のゴミを拾って帰るような、何気ない振る舞いがいいと思った」とかですね。ちょっとした自分の感じたことが積み重なっていくと、それがあなたの生きる基準となっていきます。

虹ひとつに感動した、そんなことでも構いません。そうすると、日常が些細な気付きにあふれて、自分の中の基準が見えてくるはずです。

春山
「書く」習慣は本当に大事ですよね。書くという行為は単にメモを取っているのではなく、釣り糸を垂らすように、自分のいのちの深いところから感情や気付きを引き出す行為です。日々膨大な情報に触れていると自分の軸が鈍ってしまいがちですが、書くことで自分との対話が生まれる。自分が何を好きで、何に違和感を覚えるのか、書くことでいのちの感度が高まります。

日本語は、ひらがな、カタカナ、漢字という3つの文字体系を扱います。これらの文字を手で書くことで発想力や妄想力が磨かれる。クリエイティビティが育まれる。突拍子もなく聞こえるかもしれませんが、起業家やクリエイターを目指すのであれば、自分の手で日本語を書く習慣を身につけることが何より大事だと思います。

高濱
自分自身が「書くこと」で軸を形成してきた実感があるので、うちでも国語力には力を入れています。多くの子どもたちは、形式的な作文や褒められるための作文、長く立派に見える作文を書きがちなんです。

それでは本当に自分の心に焦点を当てた言葉にはなりません。だからこそ、「自分が感じたことを書く」ことを重視して作文の指導をしています。

衣食住から生きるワクワク感を取り戻す

高濱
『こどもを野に放て!』にも「衣食住から生きるワクワク感を取り戻す」というテーマがありました。大人たちの中には「生きるワクワク感」を手放してしまっている人もいますが、それを取り戻すにはどうすれば良いとお考えでしょうか。

春山
「生きるワクワク感」が減っているのは、私たちが消費するだけの存在になってしまっていることと関係があると思います。私たちは消費者ではなく、生きものであり、生活者です。

にも関わらず、資本主義社会の中では、私たちは「消費者」と呼ばれ、何も生み出さず、ただ消費するだけの存在と見なされる。存在が消費者になると生きがいを見出すのは難しい。現代は消費者としての人格が大きくなりすぎて、バランスが崩れてしまっている人が多いような気がします。

また、SNS時代において、傍観者が増えたように思います。観客席からヤジを飛ばすように愚痴や不満をぶつけるだけで、当事者としてピッチにおりないのは、生きものとしてかっこ悪い姿だと思います。

消費者の人格と傍観者の人格が強くなっていること、生きがいや生きているときめきが感じにくくなっていることは、つながっているように思います。

一人ひとりが、その人の人生の当事者であり、経営者です。当事者であること、生活者であることを手放さないためにも、詩を書いたり、絵を描いたり、踊ったり、歩いたり、走ったり、音楽を奏でたり……。生きているよろこびを表現する方法や機会があるといいなと思います。

高濱
今の時代は消費者であり、傍観者でもある人が多いですよね。そういう人たちは面白くないから、誰かを攻撃したくなる。でも、当事者でいられたら毎日が面白いから、そんなことをする暇はないはずです。

どうやって子どもたちに「当事者性」を感じさせ続けるかが重要です。子どもたちが「自分の人生は自分のものだ」と実感できるようにすること。評価基準に飲み込まれて、「どうせ私なんて」と卑屈になったり、「バカだと思われるんじゃないか」と萎縮してしまうのは、システムに飲み込まれた考え方です。

春山
おっしゃる通りですね。

春山
私は20代の頃、アラスカを拠点に活動していた写真家の星野道夫さんに大きな影響を受けました。彼の世界観や作品に触れ、こみ上げてくるものがあったんです。作品を見ているうちに「自分もアラスカに行かないと、次の人生が始まらない」と強く思うようになりました。

でも、家族を含めて周囲の人に「アラスカに行きたい」と言った時、ほとんどが「はぁ?」という反応でした(笑)。その時に気づいたのが、「命」と「人生」は分けて考えた方がいいということでした。

「命」は与えられたものです。だから「命」の観点で考えると、家族を含め、関わりのある人とは仲よくした方がいい。一方で、「人生」は自分で決めて歩むものです。自分がどう生きるかという人生の道を、親を含め他の人に任せたり、他責にすることはできません。

アラスカに行くことを「親に反対されたから」と諦めてしまったら、自分は一生、他責にして人生を送ることになってしまうかもしれない。それはとても格好悪い。今理解してもらえなくても、自分がときめく人生を歩んでいれば、5年後、10年後には周りもわかってくれるだろう。そう信じていました。

「命」と「人生」を分けて考えると、自ずと進むべき道が見えてくる。この気づきは、今でも大切にしています。

高濱
本当にそうですよね。若者たちはその部分で悩むことが多い。「この仕事に進みたいけれど、親が反対する」とか「アラスカに行きたいと言ったら、さっさと就職しろと言われた」とか。

でも、春山さんのお話のように「命」と「人生」を分けて考えられたら、大きな指針になりますね。親も悪気があるわけではなく、安定や無事を願って反対するのです。

でも、時代が変わればその反対も的外れになることがあります。30年前に「Googleに就職したい」と言ったら、「何それ? やめなさい」と言われたでしょう。でも今ではそんな選択が大成功につながっていますよね。

最終的には自分の心に従い、自分で決めるしかない。そして、その結果を引き受ける覚悟があれば何も怖くない。迷ったら、今日のような対談に出ているおじさんたちに相談してみるのもいいかもしれません(笑)。

まずは誰かと自然を楽しむだけでいい

司会
事前にいただいた質問を紹介させてください。小4男子の保護者から質問が来ています。「自然経験をさせたいのですが、私たち夫婦は知識や経験があまりなく、キャンプや登山はハードルが高く感じてしまいます。身近な公園や川、海などでも自然経験を楽しませてあげられるのでしょうか。その際、どんな点に着目すれば良いのか教えてください」とのことです。

春山
親に自然経験がないと不安になることもあると思います。ですが、難しく考えなくて大丈夫。自然を楽しんでいる人と一緒に行くのが、何よりの経験になります。友達でもガイドさんでも構いません。

自然は人間を通してこそ、より深く知ることができます。

私はアラスカでイヌイットの人たちと一緒に過ごしたことで、アラスカの自然を知ることができました。彼らと過ごす中で、「この原野は何もないように見えるかもしれないけど、定住が当たり前になる前の時代、夏の時期によく訪れていた場所だ」とか、「向こうの原野に行けば、秋はエスキモーポテトという小さな芋が収穫できるんだよ」と教わりました。

イヌイットの人たちの自然観というか、生き方を通じて、アラスカの自然を経験し、知ることができました。もし私がアラスカの原野を一人で過ごしていたら、アラスカの自然は語りかけてこなかったかもしれません。

人の背中越しに自然を経験することができれば、自分では想像もしていなかった自然の楽しみや表情が見えてきます。ぜひ、自然を楽しんでいる方を見つけて、まずはその方と一緒に自然経験を深めていってください。

高濱
私も、地元の子どもたちから自然の遊び方を教わったことがあります。彼らは川で魚を捕まえるのが得意で、僕たちがやっても捕まえられない魚をひと潜りで捕まえてしまうんです。「何、君、どうやってそんなことやってんのよ」と聞けば「いや、簡単だよ」みたいに釣りを教えてくれた。要するに、満喫してる人に教えてもらうのが一番なんです。

都会に住んでいる親子なら、まずは浅い川に行って、ただ上流に向かって歩くだけでも十分です。景色が変われば子どもたちは自然に遊びを見つけ出します。親としては、危険な点だけを教えて、子どもたちが夢中で遊ぶ様子を見守ってあげてください。

子どもたちへのバトン

春山
自然教育の価値に気づき、実践されてきた高濱先生とお話しできて、夢のような時間でした。YAMAPは登山地図アプリではありますが、事業の核ははなまる学習塾と通じるものがあると、あらためて感じました。今回は貴重な対談の機会をいただき、ありがとうございました。

高濱
子どもたちに春山さんのような大人を見せたいですね。実際に生きている人の言葉や姿勢に触れるだけで、子どもたちはガラッと変わるんです。「こうやって生きていけばいいんだ」と思える。春山さんはまさに子どもたちにバトンを渡す人なので、今後もいろいろ協力できればと思います。

前編:自然経験こそ最上の教育。|自然教育の先駆者・高濱正伸さん(花まる学習会)に聞く vol.1

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\シリーズ「地球とつながる対談」の一部が本になりました!/
『こどもを野に放て! AI時代に活きる知性の育て方』(集英社/編著・春山慶彦)
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撮影・藤田慎一郎
執筆・嘉島唯

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