【あんぱん】のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)の関係に変化の兆し...?史実の「スタート地点」が描かれた第15週
毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「史実のスタート地点」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
ヒロイン・のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)が幼馴染だったというオリジナル設定で進んできた朝ドラ『あんぱん』。モデルとなった『アンパンマン』の作者やなせたかしと妻・小松暢さんの史実での出会いは高知新報であり、史実と重なったのはなんと第15週。改めてかなり大胆なアレンジだと思う。
廃品回収をしていた嵩(北村匠海)は、米国の古雑誌などの美しい印刷物に目を奪われ、日本が戦争に負けただけでなく、娯楽でも負けていたことを知り、悔しさを感じて、絵や漫画を描きたいと思い始めていた。そんな中、高知新報の記者募集を知り、父・清(二宮和也)が新聞記者をしていたこともあり、入社試験を受けることにしたのだ。
嵩の入社試験は不調に終わった。面接では高知新報で気になった記事を聞かれると「漫画」を挙げ、「受ける会社を間違えたのでは」とまで言われてしまった。試験会場でのぶと再会した嵩は、夫を亡くしたばかりで、弱音も吐かず、新聞記者として新たな場で必死に前を向こうとしているのぶを見て、「また差が開いちゃった」と弱音を吐く。しかし、嵩は自分の中で再び生まれてきている創作活動への意欲を語り、のぶに「いつか世界で一番面白いものを作りたい」と語った。
その日の夜、のぶはメイコ(原菜乃華)との会話の中で、嵩の漫画がかつて新聞のコンクールで入選したことを思い出した。それを採用担当者達に伝えようと会社に戻ると、翌日の新聞に穴が空くトラブルが発生。そこで、東海林(津田健次郎)らにのぶが嵩の漫画を見せると、嵩は夜遅くに編集局に連れて来られ、言われるがまま挿絵で埋めることに。無事に描き上げた嵩は1週間後、高知新報に採用される。
のぶは雑誌「月刊くじら」創刊号の発刊に向け大忙しの日々を送っていた。しかし、入稿日に執筆者の作家が逃げた関係で、またしても嵩に白羽の矢が立ち、「50分以内に漫画を描く」という無茶ぶりに見事応える。社会部ではダメ出しされてばかりだった嵩が、それを機に「月刊くじら」に引っ張られ、のぶと一緒に仕事をすることになった。雑誌は無事創刊、予想外の売れ行きを見せる。
ところで、やなせが自力で高知新聞社に入社した史実に対し、ドラマでは面接で絶望的だった嵩をのぶがプッシュし、嵩の挿絵がトラブルを解消したことで「即戦力」として採用されるという展開に違和感を覚えた視聴者もいたようだ。確かに朝ドラで「ヒロインのおかげ」が発動すると、反感を覚える視聴者は多い。特に、採用のくだりでは、嵩の実力が軽視されているように見え、不憫に思った人が多数いたのだろう。
さらに幼馴染設定にしたことで、幼少期から続く「のぶ>嵩」という力関係がフラットになる日は来るのかも気になるところだが、その兆しは見え始めている。
雑誌の広告費集金でのぶと嵩が質屋を訪ねた際、店員に漫画をくだらないと言われたのぶがキレて、ハンドバッグをぶつける。ハンドバッグをぶつけるという「事件」はモデル・暢さんの史実通りで、実際にはその毅然とした態度を見た人に求婚されるという事態もあったようだ。しかし、ドラマでは店員がのぶに手をあげようとした瞬間、嵩がかばい、盾になってぶたれる。
幼少期にはいじめっ子たちから嵩を守り、惨めになるからもう守らないでと嵩に言われてしまったのぶが、嵩に守られる日が来るとは。思えば、嵩は戦地で先輩達からビンタなどの激しい暴力を受けたことで、鍛えられていたのだ。本来、暴力も戦争も許されないことだが、繊細で弱々しかった嵩は皮肉にも大嫌いな戦争によってたくましくなっている。
「月刊くじら」の売り上げが好調だったことで、編集部員達は東京に取材に行くことになる。東京取材を前に、嵩はのぶに思いを伝えるよう健太郎(高橋文哉)に背中を押される。のぶをすごいと言い、自分なんかが好きになってはいけない人だと言う嵩のことを、健太郎は「同じところをグルグルグルグル回ってる駒」「自分が傷つきたくないだけ」と言い、銀座という嵩にとっての庭(ホーム)で伝えるべきだと言うのだ。
さらに、二人の会話を背中越しに聞いていたのぶの同僚記者・小田琴子(鳴海唯)が乱入。嵩が高知新報に入れたのは、のぶが嵩の漫画を上司達に見せ、バックアップしたからだと明かしてしまう。親友・健太郎の前でそんな内情を詳らかにされたら、傷つき、場合によっては琴子に怒りそうなものだが、嵩はここでものぶに感謝するだけ。
そもそも高知新報の入社試験でのぶと再会した際にも、面と向かって「また差が開いちゃった」と、率直な思いを明かす。自分が思いを寄せ、自分を一番良く見せたい相手に対して、負けてみせる嵩。自分の見栄やプライドの優先順位が低い男性は、現代でも意外とレアだと思うのだが、嵩はそうした意味で弱音を吐かないのぶよりも、本当の意味で強く、器も大きいのではないか。
東京出張では、のぶと嵩は「ガード下の女王」と呼ばれる婦人代議士を探すが、なかなか見つからず。「月刊くじら」の編集部員4人で屋台のおでんを食べた後、嵩がのぶを呼び止めてお礼を伝えるが、ふいに腹痛が襲い掛かる。見ると、東海林と岩清水(倉悠貴)も腹痛で悶えていた。慌てるのぶに声を掛けてきた女性(戸田恵子)に連れられ、一同は部屋で介抱してもらうが......。この女性こそがおそらく探していた女性代議士だったというところで15週は終了。
ちなみに、史実ではやなせと暢さんが急接近したのは、この「おでん事件」がきっかけだったが、ドラマではこの事件を機に出会った女性が実際に暢さんに大きな影響を与えた女性であることから、のぶをさらに遠くに連れて行ってしまいそうな予感もある。
ようやく史実の「スタート地点」と重なり、同僚になったのぶと嵩だが、二人が夫婦になるのはまだまだ先のようだ。
文/田幸和歌子