1年生から始めた子と4年生から始めた子がいてレベル差がある、歴の浅い子はチームを分けて基礎から教えるべき?
未就学児や1年生から始めた子もいれば、4年生からサッカーを始めた子もいるチーム。技術差があるけど一緒に練習しても大丈夫?
レベル差で分けて、基礎から教えたほうがいいの? という質問をいただきました。
今回もジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウン
アカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、レベル差のあるチームでみんながうまくなる方法を、具体的な練習メニューとともにお伝えします。
(取材・文 島沢優子)
親が変われば子どもも変わる!?
サッカー少年の親の心得LINEで配信中>>
<<ケンカやいさかいが絶えないチーム、真面目な子に迷惑がかかるから解決したいけど、どうすればいい?
<お父さんコーチからの質問>
初めまして。
今年の2月からサッカーの指導者(見習い)をはじめた者です。(指導年代:U-10)
同じような質問がこれまでもあったと思いますが、改めて教えて欲しいです。
1年生からサッカーをしている子と4年生から始めた子では実力差があるのですが、どういう練習方法がいいですか?
練習でサッカー経験の長い子と短い子を混ぜてもよいものですか? レベル別にグループ分けをして、歴の短い子たちに基礎から教えた方が良いのでしょうか?
また個人によりやる気の差があるのですが、小学生のやる気を上げられる練習方法もお願いします。
<池上さんからのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
皆さんがおっしゃるところの「実力差」は主に止める蹴るという足元の技術かと思われます。
でも、私はその技術のあるなしにかかわらず、戦術的な練習をしてもらいます。講習会などで「技術がないのにそんな練習をしていいの?」といった意見は多く聞かれます。
よって、そこに来た子どもたちに「今から試合するよ」と言うと「え? 試合するの?」と不思議そうな顔をします。
■技術=止める、蹴る だけではない サッカーの成り立ちを理解させる練習をして
対面パスをしたり、コーンドリブルをして足元がうまくならないと試合をしてはいけないと思い込んでいるようにも見えます。
大人から「うまくなるためには練習しろ」と言われるので、そのためには止める・蹴るができないといけない。技術をそんなふうにとらえているようです。
どうかそのような考え方をやめてください。低学年からでもサッカーの成り立ちを理解するために、ゲームや2対1などオープンスキルの練習をたくさんやらせてください。
サカイク公式LINEアカウントで
子どもを伸ばす親の心得をお届け!
■仲間に「教える」というのも学びになる
初心者の子どもには、先にサッカーを始めていてある程度できる子たちが教えてあげればいいのです。うまくいかない仲間をどう助けるか。そんなことを考えて工夫するのも大きな学びになります。
例えば、初心者の子がボールを止められなかったら、ミスしたその子を責めるのではなく、パスしたほうの子にも「名前を呼んだり、パスするよって言ってあげるとやりやすくなるね」と大人がアドバイスしてください。
また、4年生くらいならばレベル分けせずにやったほうがいいでしょう。5年生ならば高学年とやることもあるので、時には分けてやる必要はあるかもしれません。いずれにしても、子どもたち個々のプライドもあるのでそこを考慮して大人は動きましょう。
■楽しくなることが最優先! トレーニング中の様子をよく観察しよう
モチベーションアップについては、最初は外発的な動機付けからスタートしてもいいでしょう。楽しくなることを最優先します。提案したトレーニングが楽しそうかどうかをよく観察してください。そして楽しくなるのはどうしたらいいか? を考え続けることです。
とはいえ、どの子でも楽しめる万能な練習はありません。ほとんどの場合、その練習がはまる子、はまらない子に分かれます。
はまるトレーニングが多くなっていくと、「やりたくない」という子は減ります。半分以上の子が楽しんでくれれば、最初はそうでもなかった子どもたちもつられて一緒にやるようになります。
■考案した練習メニューがはまらないときには......
それでも、そうじゃない子は出てくるので、そういった子どもとどう向き合うかが課題になります。まずはそういう子たちに気づいてあげましょう。
コーチが「あまり楽しくないかな? じゃあ、メニューちょっと変えてみよう」とか「やり方をもう少しやさしくするね」と提案してください。
そうすることで「コーチは自分を見てくれている」という信頼感にもつながります。
■全員が参加できて楽しめる、結果的に上達する練習メニュー例
その逆で、練習がうまくいかなかったり、子どもが楽しめず集中できないと「やる気がない!」などと子どものせいにする指導者は少なくありません。どうかベクトルを自分に向けて工夫してください。
工夫のひとつは、勝ち負けがあるメニューにして、そこにペナルティをつけることです。
例えばあとで入ってきた子どもたちがシュートを入れると10点にする。あるいは、その子たちからパスをもらってゴールを決めたら10点にする。
遅れて入ったためまだ力が追い付いていない子どもたちを主役にします。そうすれば孤立することなく、一緒に楽しめます。
パスがたくさん集まるため、そういった子どもたちの練習になり結果的に上達します。
このように、あるルールでやったとき、子たちがどう考えてくるか。そこを観察します。じゃあ次はこんなふうにしてみるけど、どうかな? と、子どもたちに提案し意見を聞きます。
より全員が参加できて、全員がより楽しくなるかたちを追求するのです。
■日本サッカー協会が伝えている「練習のオーガナイズ」とは
以前、小学校の巡回指導の際にサッカー経験のある男子はゴールしても0点で、サッカー経験のない女子が決めたら2点という設定にしました。
すると得点にならないのに、サッカークラブに通っている子どもたちが終始自分たちだけでサッカーをし続けました。他の子どもはほぼコートに立っているだけでした。
そんなときは、さらにまたルールを変えます。
「じゃあ、次はこんなルールにしたら君達はどう考えますか?」と問いかけます。若干ストレートな表現になりますが、子どもたちを困らせるような提案をする。それが、サッカー協会が皆さんに伝えている「練習のオーガナイズ」です。
私の練習を見に来られた方々が「めちゃめちゃカオスな時間ですね」と感想を述べられます。何が起きてるかわからない。でも、確実にサッカーをしている、と。とはいえ、そもそもサッカーの試合はカオスになります。
親が変われば子どもも変わる!?
サッカー少年の親の心得LINEで配信中>>■中学生でも鳥かごでダイレクトの指示が入ると動き方がわからなくなる
先日、私が指導する中学生に5対2の鳥かごをしてもらいました。5人は移動しながら、動きながらパスを回してもらいます。途中で私が「はい、ダイレクトで回して」と伝えると、全くできなくなりました。
集めて「どうしましたか?」と聞いたら、「難しい」と首をひねっています。5人が動くから、ごちゃごちゃになって「どこに行けばいいかわからない」と言います。そこで、「相手が上手くもらえるところを探してみよう」と伝えました。
もうひとつ「最初からできなくて当たり前だから。できなくていいんだよ。こんなときどうしようかなって考えることが一番大切なんだよ」と伝えました。
考えてやってみたけどうまくいかなかった。相手に何度も取られる。でも、そこで投げ出さず、失敗を繰り返さなくてはうまくならないのです。
池上 正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさい サッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。