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せんとぴゅあⅠ、せんとぴゅあⅡ|北海道・東川町が育てあげたソフトパワーを落とし込んだ施設

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せんとぴゅあⅠ、せんとぴゅあⅡ|北海道・東川町が育てあげたソフトパワーを落とし込んだ施設

「適疎な町」を空間で体現する、理想のビジターセンター。

過疎でも過密でもなく、ほどよいゆとりを持った「適疎」な地域社会を本気で目指している北海道・東川町。

家具コンペの審査員を務めている縁で、年に1回は東川町を訪れているのだが、行くたびに驚くのは、町役場の人たちのフットワークの軽さと熱意だ。役所の人が陥りがちな縦割り感、他人事感がまったくない。新しいことにチャレンジするのが楽しくて仕方がないという感覚はもはや伝統として育っていて、その結果、家具・木工産業、「写真の町」、「東川米」、「大雪旭岳源水」など、地域が育ててあげてきたソフトパワーが着実に成果となっている。

建築家として感心するのは、それらソフトパワーを都市空間としてきちんと落とし込もうとしている点だ。お薦めはいろいろあるが、今回は町のまん中にある『せんとぴゅあⅠ』と『せんとぴゅあⅡ』を紹介したい。旧・東川小学校の校舎に対して大胆に減築と増築を行い、ギャラリー・コミュニティカフェ・講堂・日本語学校・宿泊施設・ライブラリー、交流ラウンジ、ミュージアム、ショップが一体に複合している。

まず建築の構えがよい。芝生の広場に対して、L字にすっと囲んだ空間構成をしていて、奇をてらわず人を迎え入れる立ち姿をしている。空間が大きく伸びやかなので、多様なプログラムが複合的に同居していても混み合った印象は全くない。移住者が多い町なので、この混在した空間性がコミュニティを育むきっかけとしても機能しているようだ。

設計は北海道大学の小篠隆生先生ほか多くの設計者の協働によるものだが、各所に用意された心地よい人間的なスケール感からていねいにつくりあげられたことが伝わってくる。運営も部局を越えて横串的な体制になっているようで、それも居心地のよさを向上させている理由だろう。

せんとぴゅあⅡ
せんとぴゅあⅠ
せんとぴゅあⅡ
せんとぴゅあⅠ
写真提供:北海道・東川町

『せんとぴゅあⅠ』北海道上川郡東川町北町1-1-1 施工年: 2016年
『せんとぴゅあⅡ』北海道上川郡東川町北町1-1-2 施工年: 2018年

藤原徹平
ふじわら・てっぺい●建築家。1975年横浜生まれ。2009年より『フジワラテッペイアーキテクツラボ一級建築士事務所』主宰。2010年より『一般社団法人ドリフターズインターナショナル』理事。建築、地域計画、まちづくり、展覧会空間デザイン、芸術祭空間デザインと領域を越境していくプロジェクトを多数手がける。2012年より横浜国立大学大学院Y-GSA准教授。受賞に横浜文化賞 文化・芸術奨励賞など。

記事は雑誌ソトコト2024年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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