一緒にこのミッションを達成しよう! 森崎ウィン、和希そら など出演のミュージカル『SPY×FAMILY』プレビュー公演レポート
2023年の初演に続き待望の再演が実現したミュージカル『SPY×FAMILY』。原作コミックの世界観をきっちりと守りながら幅広い世代に愛されるミュージカルとして大いに喝采を浴びた本作は、すでにミュージカルファンの“定番作品”の仲間入りを果たす1作と言ってもよいだろう。現在は10月の日生劇場での本公演、そして11月からの5大都市全国ツアーを前に、ここでは2025年9月25日(木)ウェスタ川越大ホールでのプレビュー公演をレポート。“2025年版ミュージカル『SPY×FAMILY』”も、やっぱり「わくわく」に満ちている!
ミュージカル『SPY×FAMILY』PV
東国(オスタニア)と西国(ウェスタリス)の間に鉄のカーテンが下りて十余年、表面上は平和に暮らしている人々の陰で暗躍するのがスパイである。中でも西国きっての凄腕スパイがコードネーム〈黄昏〉(森崎ウィン)。数々のミッションをこなす変装の名人は、今、東国へと潜入している。目下の任務はオペレーション〈梟(ストリクス)〉。まずは本作戦の要となる東国の大物政治家と接触するため、彼の息子が通う名門イーデン校に父兄の一人として紛れ込もうという算段だ。〈黄昏〉は精神科医のロイド・フォージャーと名乗り、任務に欠かせない仮初めの“我が子”と“妻”を調達することとなるが——。
序盤の見どころは、これまでどんな難題も持ち前の高いスキルで乗り越えてきた〈黄昏〉が、綿密な作戦やテクニックだけでは乗りこなせない“自分の家族”を獲得するまでの波乱の数々。孤児院で見つけたアーニャ(月野未羚)は実は他人の心が読める超能力者だし、ハプニングから互いの利害が一致した役所勤めのヨル(和希そら)もまた、実は凄腕の殺し屋(!)だ。他人には決して話すことのできない秘密を抱えたモノ同士、ある意味孤独な3人が奇跡のような巡り合わせで結成したインスタントファミリー。そこに生まれる危うさと愛しさは観客を彼らの応援団にしてしまう魅力に溢れ、気づけば「一緒にこの秘密を守りミッションを達成するぞ」と思わずにはいられない。
〈黄昏〉の上司・シルヴィア(朝夏まなと)の「これぞ女スパイ」な艶めき、ヨルの弟ユーリ(瀧澤 翼)の強火のシスコンっぷり、黄昏の後輩のフィオナ(山口乃々華)の秘めすぎる先輩への強烈な恋心、「エレガント」へのこだわりが突出しているヘンダーソン先生(鈴木壮麻)、〈黄昏〉の良き協力者だがまだ謎も多いモジャモジャ頭のフランキー(鈴木勝吾)などなど、フォージャー家を取り巻くキャラのたちの個性の強さも楽しく、全編にわたるスパイものらしいスタイリッシュなサウンドやキレッキレのアクションシーンも当然心躍るエンターテインメント。だが、最も緊張感が漂うスリリングなシーンがアーニャの入学試験の面接=フォージャー家vs曲者教師たちの攻防というのも、シリアスとコメディーの背中合わせ感が絶妙なホームドラマである本作ならではの面白さ。そして、「世界の平和」という大テーマがあり、そこから物語全体を包む「戦争の影」と「普通の家族の日常の大切さ」とのコントラストが際立つ瞬間瞬間にギュッと掴まれる感覚があることもまた忘れられない。
ハンサムでカッコよくて何でもスマートにこなす「ちち」、働き者で慎み深く愛情豊かだがちょっと天然な「はは」、ずっと3人で一緒にいたいと願う純真でわくわくの冒険好きな「むすめ」。難関の入学試験を突破し、いよいよ正式にイーデン校へと足を踏み入れたフォージャー家。共に奏でるハーモニーを次はどこに響かせるのか。さらなるミッションの行方も気になりつつ、彼らの笑顔にまずはスタオベを!
取材・文=横澤由香