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国宝「源氏物語絵巻」「初音の調度」をはじめとする徳川美術館の名品(レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

紀伊徳川家・水戸徳川家とともに御三家の一つに数えられる尾張徳川家。家康の遺品「駿府御分物」や歴代当主や夫人たちの遺愛品など、尾張徳川家に伝えられた大名道具を所蔵している徳川美術館のコレクションを紹介する「徳川美術館展 尾張徳川家の至宝」が、サントリー美術館で開催中です。


「徳川美術館展 尾張徳川家の至宝」会場


家康の九男・義直(1600~50)を初代とする御三家筆頭の大名家だった尾張徳川家では特に、家康や歴代当主ゆかりの品々を宝物として大切に守り伝えてきました。泰平の世にあっても武士として常に備えを怠らず、江戸時代を通じて刀剣や鉄炮などの武器や、甲冑などの武具類を取り揃えていた大名たち。

第1章「尚武 もののふの備え」の最初に飾られているのは、義直が参勤交代などの移動の際に必ず携帯していたと伝えられている具足です。


第1章「尚武 もののふの備え」


第2章は「清雅 ―茶・能・香―」。政治を担い文化を庇護する立場にあった大名は、礼法や教養が求められました。なかでも必ず習得すべき芸道だったのが公的な場で行われた茶・能・香です。

茶の湯道具は、家の格を表したため大名家では競って名物茶器を蒐集しました。天正4(1576)年に完成した安土城天守の祝賀の品として信長へ贈ったとされる《唐物茶壺 銘 金花 大名物》は、「信長公記」に信長が喜んだことも記されている、古来名高い名物の茶壷です。


(手前)《唐物茶壺 銘 金花 大名物》南宋-元時代 13-14世紀 【通期展示】


足利将軍家の庇護を契機に武家から愛好された「能」は、江戸時代には武家の正式な音楽、式楽となりました。能には、観世・宝生・金春・金剛・喜多などの流派がありますが、大名はそれぞれが愛好する流派にちなむ面を作らせました。また、豊かな財力と染織技術の向上により、上等な裂を用いた華麗で独自の意匠の能装束も作られました。

現在、徳川美術館には尾張家に伝えられた能面が126面、狂言面が30面保存されています。なかには、日光や越智吉舟作と伝えられている伝説的な能面の作者のものをはじめ、名高い面打師の作品を多く含んでいます。


第2章「清雅 ―茶・能・香―」能面は、(左から)狂言面 狐 金漆銘 「狐」 朱漆銘「出目若狭大掾入道 藤原寿満(花押)作」 出目寿満 一面 江戸時代 17-18世紀、能面 孫次郎 伝 出目満茂 江戸時代 18世紀、 能面 小尉 朱漆花押 伝 井関 一面 桃山時代 16世紀 いずれも【展示期間:7/3~7/29】


武具をはじめとする公的な「表道具」に対して、大名やその家族が私的な生活の場で使用した道具や、趣味や遊びに用いた道具は「奥道具」と言われています。和歌を詠み、絵や音楽、文学に親しむことは、一つの価値観、人生観として、数多くの作品や道具類が大名家に所蔵されました。第3章「求美」では、武家女性の華やかな遊戯具や、書や絵画などの尾張徳川家の由緒ある奥道具が並んでいます。

大名家で旧暦の9月9日から3月末までの冬の節供や式日のなどの午前中に着用されたのは、綸子の打掛です。間着の上から羽織って着用する打掛は、裾が長く歩くときに手で引き上げるため、公家風に掻取(かいどり)とも言われています。


(左から)《松橘蒔絵貝桶・合貝》江戸時代 安永9(1780)年 / 《白綸子地鼓に藤・杜若文打掛》江戸時代 19世紀 【いずれも展示期間:7/29まで】


寛永16(1639)年に三代将軍家光の娘・千代姫が尾張家二代光友に嫁いだ際の婚礼調度とされているものが、純金の調度です。千代姫の金銀の調度類は名古屋城内におよそ1000種あったいわれ、膨大な数量が江戸時代後期まで伝えられていたとされています。

ここでは、金独特な派手な照り返しは抑えられながらも、緻密な文様がみられる金無垢の盃と皿を紹介しています。


(左から)重要文化財《純金葵紋牡丹唐草文盃》江戸時代 寛永16(1639)年 / 重要文化財《純金葵紋蜀江文皿》江戸時代 寛永16(1639)年 【いずれも通期展示】


千代姫の婚礼調度は、「初音の調度」の名で親しまれています。「源氏物語」第二十三帖の「初音」に題材をとった「初音蒔絵調度」や、同じく第二十四帖「胡蝶」に基づく「胡蝶蒔絵調度」、その他の蒔絵調度や染織品、刀剣など合わせて70件は、平成8(1996)年に一括して国宝に指定されました。会場では、国宝「初音の調度」の中から初音蒔絵旅眉作箱が展示されています(展示替あり。7/31からは胡蝶蒔絵将棋盤・駒箱を展示)。


特別公開 国宝 初音の調度 国宝 初音蒔絵旅眉作箱 一具 江戸時代 寛永16年(1639) 【展示期間:7/3~7/29】


同じく特別公開となった国宝の「源氏物語絵巻」は、11世紀初頭に紫式部が著した『源氏物語』を絵画化した現存最古の作例です。

華麗な彩色と、「作り絵」という技法や「引目鉤鼻」と呼ばれる人物の顔の表現などを用いた繊細緻密な描写。屋根や天井を取り払い、俯瞰的に描く「吹抜屋台」の手法を取り入れた画面構成で、物語の世界観や登場人物の心理の動きまで、細かく描き出しています。会期中は、柏木(三)、横笛、橋姫、宿木(二)のに4場面を順次展示替えをしながら公開しています。


国宝《源氏物語絵巻 柏木(三)》平安時代 12世紀 【展示:7/15まで】


尾張徳川家の歴史と華やかな大名文化を感じられる展覧会。隣接するカフェ 加賀麩不室屋では、展覧会とコラボレーションした金箔で覆った黄金の輝きの豪華な「初音の調べパフェ」(展覧会限定メニュー)もお楽しみいただけます。

※会期中展示替えあり。作品はすべて徳川美術館所蔵

[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2024年7月2日 ]

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