<水族館貸切のススメ>好きな水族館を貸し切ってみたら想像以上の幸福感だった
水族館を貸し切ることができるのを知っていますか?
筆者は2023年1月から2025年3月にかけて、おおよそ半年ごとに計5回、「水族館を有志で貸し切ってみる」という自主イベントを企画。第1回はサンシャイン水族館、第2回はしながわ水族館、第3回はマリホ水族館、第4回は竹島水族館、第5回はしながわ水族館での開催でした。
この大変貴重で、かつ幸福感の高い経験である「貸切水族館」の魅力について、お伝えできればと思います。
仲間同士で心ゆくまで水族館を楽しみたい
「水族館を貸し切ってみたい」と思ったきっかけは、「水族館が好きな仲間同士で、心ゆくまで水族館を楽しみたい」という思いつきでした。
私は年間50~60回ほど、全国各地の水族館に足を運んでいます。一方、平日勤務の私が水族館訪問に時間を割けるのは、ほぼ間違いなく休日である土・日曜日。
仕方のないことなのですが、空いていて快適な館内をいつも味わえるとは限りません。時には「大声で騒ぐ」「水槽を叩く」「水槽台によじ登る」なんていう場面にも出くわし、ちょっと残念な気持ちになることも。
そういった要素をできる限り回避し、大好きな水族館を心ゆくまで楽しむにはどうしたらいいだろうか。「平日休みの職種に転職する」なんてことも、真剣に考えました。
同じ熱量を持った人だけが集まる空間は幸せ
そう考えていたときに、いくつかの水族館で「貸切プラン」が用意されていることを知りました。
もちろん1人では大きすぎる出費なので、ある程度の人数を集められる算段をつけ、決行してみたのです。
結果、水族館や生き物に対して同じような熱量を持つ人々で占められた空間は、まさに幸せそのもの。
大声で走り回る人も水槽を叩く人も、生き物を見ながらネガティブな言葉を言う人もおらず、「水族館が好き」という同じ気持ちを持つ面々で穏やかな鑑賞体験ができました。
撮影に没頭する“撮影勢”の比率はやや高いのですが、互いに自然と譲り合い、水槽前を1人で独占するようなこともほとんどありません。
ときおり穏やかな談笑とシャッター音が聞こえる館内で、思い思いにそれぞれの推し生物や推し展示に没頭している空間は、さながらユートピアのようでした。
水族館を大切に思う気持ちに感動
象徴的な出来事をひとつ。第4回「竹島水族館」での貸切のときのこと。
2時間の貸切タイム終了後に撤収準備をしていると、閉館作業をしていた飼育員の方が水槽のアクリルについて「拭く必要がないくらいだ!」と言いました。聞けば、水槽のアクリル面にほとんど手垢汚れがついていないというのです。
参加してくれた方々のマナーの良さや水族館を大切に思う気持ちが本当に嬉しく、ありがたく感じました。
「水族館好き」の多様性 他の人の“変態的な視点”に気付く
これまでに水族館を貸し切る企画を5回開催し、水族館の規模や開催時期にもよりますが、各回30名~90名ほどの「水族館を本気で好きな人々」が参加してくれました。
そのくらいの人数が集まると、「水族館好き」といっても興味の対象や水族館を見る視点はさまざま。
私のようにずっと魚類展示を眺めている人もいれば、ひたすらにカエルアンコウを愛でる人、イルカやアザラシなどの推し個体とじっと見つめ合う人、普段はなかなか撮れないような構図で水槽の写真を撮る人、水槽の設備部分をじっと眺めている人──。
「水族館好き」というジャンルがこれほどまでに多様なんだということに、改めて気付かされました。
そして、そんな参加者の方々のユニークな視点や鋭い観察眼から、自分ひとりでは気付かなかった新しい発見もたくさんありました。
多様な「水族館好き」に気づかせてもらったこと
例えば、第2回と第5回の企画で利用した「しながわ水族館」の入口すぐの<淡水魚コーナー>にある擬木。実はこの足元に、とても小さな水槽がいくつか埋め込まれているのです!
以前から何度も足を運んでいた水族館ですが、通常営業時にはこんな床面ギリギリのところに目が届かず、まったく気付いていませんでした。
そして、仮に気付いたとしても、この水槽をじっくり観察しようとすれば床に這いつくばるか膝をつく必要があり、混雑した館内ではちょっと躊躇してしまうところ。
貸し切ってしまえば、そんな心配もご無用。周りも同じような“変態”だらけなのですから……。
このほかにも、第3回で貸し切ったマリホ水族館では、トビヌメリの求愛行動を参加者が発見。口コミで周囲の人に伝わり、入れ替わり立ち替わりでトビヌメリの求愛行動を見守る……なんていう超局所的でマニアックなムーブメントが発生したことも。
誰かが見つけた「面白い!」が、自然と周囲にシェアされる空間は、これまた幸せでした。
得られた幸せは……「水族館好き」同士の繋がり
企画した当初はあまり想定していなかったことも起きました。
この「貸切水族館」を企画した当初は、どちらかというと「みんな個人行動で、思い思いに静かに過ごし、そして解散する」といった雰囲気を想像していました。
自分自身も水族館に行くときは基本的に“ぼっち勢”。家族や友人と水族館に行くときも、入場後すぐ解散して、各自でほぼ単独行動です。
回を重ねるごとに生まれた交流・繋がり
ところが実際には、回を重ねるごとに「同じ趣味の界隈内での交流」が少なからず生まれているようです。
個人企画であるがゆえ、友人・知人か、そのまたご友人くらいまで、という半分クローズドな運営スタンスを採っており、結果として、ある種のゆるい繋がりが生まれているのかもしれません。
そんな雰囲気を考慮して、直近の開催回では日中に有志による交流会を開催したり、貸切中の館内に交流スペースを設けたりといった新たなことも試みています。
「水族館や生き物が好き」という同じ熱量を持った方々同士の会話は、ときにとんでもなくマニアックな内容になっていたり、水族館巡りにまつわる面白ネタに満ちていたり。
マウントの取り合いや言い争いになるようなこともなく、この点も参加者の方々のマナーとモラルの良さに守られています。
とはいえ、自分も含めて「ひとり静かに水族館を楽しみたい」というニーズを最重要視しているので、その個人主義的なところはこれからも守り続けたいところ。また「交流の場」といっても、恋愛・婚活的な意味での「出会いの場」ではないので、勘違いされないように運営していければと思います。
「貸切プラン」がある水族館は意外と多い
2025年4月現在で「貸切プラン」を用意している水族館を一部ピックアップしてみました。
「水族館の貸切って面白そう」と感じてくれた皆さま、ぜひ参考にしてみてください!
しながわ水族館(東京都品川区)
しながわ水族館では、公式サイトに「貸切利用のご案内」として記載があります。
18時~20時の2時間の貸切利用が可能。屋外の海獣エリアなど一部施設は見学不可です。
私も過去2回(第2回と第5回)にわたり利用しました。
名古屋港水族館(愛知県名古屋市)
名古屋港水族館は、公式サイトに「貸切・時間外利用」の記載があります。
北館・南館それぞれ、閉館後なんと22時までの貸切利用が可能。言わずと知れた国内最大級の巨大水族館。全館貸切は夢がありすぎる……!
マリンワールド海の中道(福岡県福岡市)
マリンワールド海の中道は、公式サイトに「貸切プラン」の記載があります。
閉館後の2時間程度、貸切利用が可能。九州最大級の大型水族館、2時間で見学しきれるのだろうか……?
アクアワールド茨城県大洗水族館(茨城県大洗町)
アクアワールド茨城県大洗水族館は、公式サイトに<貸切サービスプラン>の記載があります。
「ユニークベニュー」という形で、エリアごとまたは全館での貸切利用が可能。その他、ふるさと納税の返礼品での貸切提供を行っていたこともあります。
仙台うみの杜水族館(宮城県仙台市)
仙台うみの杜水族館は、公式サイトに「貸切パーティプラン」として記載があります。
閉館後90分間の貸切可能。飲食込みでの利用が必須で、会場のみの利用はNGとのことです。
普段とは違う水族館を楽しめる!
各園館ごとに貸切規定や禁止事項、夜間見学NGエリアといった決まりがあるので、詳細は公式サイトなどを確認しましょう。
普段の水族館訪問とはちょっと違った雰囲気を味わえる「水族館貸切」の世界。ご興味を持たれた方は、ぜひチェックしてみてください!
(サカナトライター:アル)