2大NGワード「ダメでしょ」「早くしなさい」はこう言い換えるのが正解 その答えは?
「ダメでしょ!」「早くしなさい」と、子どもにいってしまう親は多いもの。しかし、親のひと言が、子どもの成長の妨げになっていることがあります。否定的な言葉を断ち切り、肯定的で子どもを伸ばすフレーズに変える方法を、教育評論家の親野智可等先生が解説します。
広島公立小学校発 「自由進度学習」で劇的成果!「学習意欲と成績向上」の実例公開「ダメでしょ!」「早くしなさい!」親が日常的に繰り返し使っている言葉が、実は子どもを傷つけ、成長の妨げになっていることがあります。
親の言葉は子どもにとって最大の環境であり、子どもの成長に環境が与える影響は非常に大きいと語るのは、教育評論家の親野智可等(おやの ちから)先生です。
多くの子育て世代を具体的なアドバイスで救ってきた親野先生が、親の残念な口癖が子どもの成長に与えるデメリットと、それをやめる方法を解説します(全3回の1回目)。
「走っちゃダメでしょ」→「歩こうね」 3ページ目でくわしく解説します!
否定的な言葉のシャワーが、子どもにもたらすデメリット
かつて小学校の教師をしていた親野先生は、長い教師生活の中で、否定的な言葉を浴び続けてきた子どもが、親に対してどのような気持ちを持つのか、目の当たりにしたことがあるといいます。
「私が小学校1年生を受け持ったときの話です。
親御さんに、我が子を宿したときや生まれたときにどんな気持ちだったか、といった手紙をそれぞれのお子さん宛に書いてもらい、子どもたちにパパママの手紙を読んでもらうという授業をしたことがありました。
みんなすごく感動するわけですけれど、一人の女の子が私のところに来て、『ママがね、私のこと大好きなんだって』といって、泣くんです。
『そうなんだ、良かったね』と私がいってあげると、『(親が自分を好きなことを)今、初めてわかった』とその子は続けました。
この女の子は、親御さんが日常的に否定的な言葉を使っていたご家庭のお子さんです。
親としては愛情のつもりで𠮟ったり、指摘をしていたと思いますが、子ども自身はいつも親から否定され続けていたので、『こんなダメな自分は、パパママに愛されていない』と思っていたのでしょう。
それが手紙を読むことで、ようやく親の愛情を感じることができたというのです。
このケースは、親の言葉によって愛情を実感できない子がどれだけの不安や不信感を抱えるか、その大きさを示した出来事です」(親野先生)
以前から、懇談会のたびに子どもには肯定的な言葉をかけるように親御さんに訴えていた親野先生でしたが、その必要性を改めて強く感じた事例だと話します。
否定的な言葉は、子どもを不安にさせ、親子関係も揺るがします。
残念な言葉は、無意識で口から出ている親御さんが多いため、変えていくには意識的な取り組みが必要です。
肯定的な言葉を使うメリットとは?
「肯定的な言葉を使う最大のメリットは、親子関係が良くなることです。
私はかねがね、子育てで一番大事なことは親子関係だといってきました。勉強やしつけの優先順位は、親子関係よりもずっと低くても構わないと思っています。
親子関係が良くなることは、つまり親子の信頼感だけでなく、子どもの自己肯定感、そして他者への信頼感も高めます。
子どもはそもそも親御さんのことが大好きですが、肯定的な言葉が向けられると、ますます大好きになります。
『パパママは私(ぼく)のことが大好きで、認めてくれている』という安心と信頼感が、自分も他人も信じられる『基本的信頼感』を醸成して、子どもの自信を形成していくのです」(親野先生)
肯定的な言葉のシャワーを子どもに浴びせることは、いいことずくめです。さっそく、子どもを伸ばす言葉を使っていきましょう。
2大NGワードは、どう言い換えればいい? 写真:mon_printemps_fleuri/イメージマート
2大NGワード「ダメでしょ」「早くしなさい」は、こう言い換えるのが正解!
ついつい口から出てしまう「ダメでしょ」「早くしなさい」という言葉。これらが子どもに与える影響や言い換えフレーズを、親野先生が徹底解説します。今日から、意識的に言葉を変えていきましょう。
2大NGワード① 「ダメでしょ」
ダメという言葉は否定語で、それだけでインパクトがあるワードです。これを親からいわれてしまうと、子どもは「自分はダメな子なんだ」と全否定されたように思い込んで、自己肯定感を下げてしまいます。
これでは「○○をやってみよう!」と大人や友だちが誘っても、「自分はダメな子だから、そんなことできるわけがない」と、すべてのことに消極的になってしまいます。
親が心がけたい言い換えフレーズ
「走っちゃダメでしょ」→「歩こうね」
「触っちゃダメでしょ」→「見るだけだよ」
「丁寧に書かないとダメでしょ」→「前よりもこの字は上手に書けたね。こっちの字も丁寧に書いてみようか」
ダメな行動をわざわざ指摘して無理やり矯正するのではなく、具体的にどんな行動をすればいいのか子どもに伝えてあげましょう。上からガツンと言い渡すのではなく、子どもの行動を導いてあげることが大切です。
2大NGワード② 「早くしなさい」
「早くしなさい」には、「早く着替えなさい」「早く宿題やりなさい」など、さまざまなバージョンがありますが、どの行動についても子どもには子どものペースがあります。まずはその子のオリジナルペースを尊重してあげてください。
特にマイペースな子は、生まれつきの資質もありますから、親が「早くして! 遅いんだから!」と資質を𠮟りすぎると自信をなくし、穏やかな性質という長所を消してしまうことになりかねません。
親が心がけたい言い換えフレーズ
「早く着替えなさい」→「7時になったらパジャマを脱ぐよ」
「早く算数のプリントやりなさい」→「算数のプリント、今のうちに1問だけやっておこうか」
「着替えなさい」という表現は、実は子どもにはとても抽象的なので否定的な言葉です。小学校の低学年でも、何をどうすればいいのか戸惑うことがあります。この場合も、何をどうするか具体的な行動を伝えてあげましょう。
子どもが宿題にとりかからないときは、とりかかりのハードルを下げてあげると効果的です。「今のうちに1問だけ」という言葉であれば、子どもは「1問だけ」ならやってみようかなという気になりやすいですし、1問やることで全体量の見通しがつきます。
見通しがつくと、本格的にとりかかるときの心理的なハードルが下がります。また、1問やることでエンジンがかかり、ついでに2問、3問、半分、全部やってしまうということもあり得ます。
時間をしっかりと理解できていない子や時間管理ができない子には「5分後」は難しい量
「7時になったら着替えるよ」というのも、「5分後に出るよ」というのも、「早く」よりは具体的ですが、これでもまだ動けない子もいます。
「着替えるよ」をより具体的に「靴下を脱ぐよ」にしたり、「5分後」を「長い針が6のところ」と表現してあげればより具体的になり、行動につながりやすくなります。
「7時になったら着替えるよ」→「7時になったら靴下を脱ぐよ」
「5分後に出るよ」→「長い針が6のところにきたら、靴を履いておうちを出るよ」
ルーティンのことで、朝7時30分までに登校や登園の支度を終わらせたいなら、画用紙に針が7時30分を指した模擬時計を描き、それを本物のアナログ時計の横に貼っておくのもおすすめです。
本物の時計と絵で描いた時計を見比べ、残り時間が減っていくという時間の量を見える形で子どもに伝えて、行動をうながすといいでしょう。
次回は、「先生に𠮟られた」「友だちとケンカしちゃった」といって、しょんぼりしている子どもに対して、親がかけるべき言葉やとるべき行動について解説します。
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◆親野 智可等(おやの ちから)
教育評論家
長年の教師経験をもとに、子育て、しつけ、親子関係、勉強法、学力向上、家庭教育について具体的に提案。子育て世代に寄り添ったSNS投稿も話題で、「ハッとした」「泣けた」という声が多数寄せられている。全国各地の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会、先生や保育士の研修会でも講師を務め、オンライン講演も経験豊富。著書に『親の言葉100 ちょっとしたひと言が、子どもを伸ばす・傷つける』(グラフィック社)など。人気マンガ『ドラゴン桜』(講談社刊)の指南役としても知られている。
取材・文/梶原知恵