「ちゃんと考えてないでしょ」って言われないようにするための処方箋【トップビジネスパーソンに聞く】
「ちゃんと考えてよ」——言われた瞬間、胸がざわつく 。
しかし、いざ「ちゃんと考える」とは何かと問われると、その答えは案外あいまいなものです。
今回は、12年間にわたり経営コンサルティングに従事し、WEBメディアの運営支援や記事執筆などを行うティネクト株式会社の代表・安達裕哉さんに、仕事の現場でよく飛び交うこの言葉の本質をひも解きつつ、思考の質を高め「ちゃんと考えている」と評価されるための具体的な習慣や視点をご紹介いただきます。
忙しいビジネスパーソンほど陥りがちな“思考の省略”を防ぎ、成果につながる“考え方のクセ”を身につけるヒントとなるでしょう 。
「ちゃんと考える」とは何か?
「あのさあ、ちゃんと考えてよ」と、仕事の中で先輩や上司から言われたことがある人は多いのではないかと思います。
辛辣ですよね。
言われると辛いやつです。
ただ、いざ「ちゃんと考えなさい」と言われても
「じゃあ何をすれば“ちゃんと考えている”ことになるの?」
と疑問に思った人、いますよね。
私もそうでした。
怒られているときには、「ちゃんとって、どういう意味ですか?」と聞くのをすっかり忘れてて、席に戻ると
「結局、どーすればいいの?」
って思うあれです。
ただこれ、実際に先輩が「ちゃんと考える」の意味を知っているかどうかと言うと、けっこう微妙でして、
「ちゃんと」ってどういう意味ですか?と、真っ向から聞くと、多分怒られます。
相手もわかっていないので 。
でも、仕事の中では、こういうのは結局、力関係なので、「ちゃんと考えてない」という烙印を押されてしまうのです。これは損ですよね。
なので、この記事ではあらためて、「ちゃんと考える」という言葉の本質を考察しながら、会社で「ちゃんと考えた?」と、二度と言われないようにするための処方箋を作っていきたいと思います。
人間はできるだけ考えたくない
そもそも、ほとんどの人間は「考える」のが嫌いです。
ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの著作「ファスト&スロー」では、このことについて言及されており、「最小努力の法則」と名前がついています。
要は、人間はついつい少ないエネルギーで物事を済ませようとしがちなのです。
これについて、有名な実験があります。コロンビア大学のシーナ・アイエンガーは著書『選択の科学』で次のようなスーパーマーケットでの実験を紹介しました。
ジャムの試食コーナーを作り、6種類並べた場合と24種類並べた場合の二つのケースでそれがどう売上につながるかを比較しました。
試食コーナーに寄ったのは、24種類の方が242人中145人で約60%となり、一方、6種類の場合は260人中104人で40%となりました。
これは選択肢が多い方が好感をもたれたことを示すものです。
ところが、寄った客が現実に購入したのはどうだったかというと、24種類の方が145人中わずか4人の約3%にとどまり、6種類の方が104人中31人の約30%もいたのです。
アイエンガーの実験では、 選択肢が多すぎて選べない、あるいは選んだとしても「あっちのほうが良かったんじゃないか」という迷いが生じる ことが示されています。
これは日常においては、「あるある」だと思います。
人間の本質は「できる限り考えずに済ませたい」。
そこを無理やり、「考える」ように仕向けるのが「ちゃんと考える」行為です。
したがって「ちゃんと考える」ことにはまず
注意深さ忍耐一回立ち止まる
といった「思考」以前の、「心構え」「クセ」「態度」のような話が必要です。
たとえば、資料作成をするとき数値の正確さや用途をあらためて確認することも「ちゃんと考える」ことの一つです。
資料のタイトルを、いったん寝かせて、数日後にあらためて受け手の気持ちで再考することも「ちゃんと考える」です。
誤字脱字のチェックを2回、3回と分けて行うことも「ちゃんと考える」です。
このように、 ちゃんと考える人は、結果にいたるまでの過程で「これで正しいか?」と何度も点検し、認知リソースをきちんと使うことを惜しみません 。
一方で、「ちゃんと考えてない」状態というのは、「最小努力の法則」通りに、確認や論理を詰めることなく、「まあ、これでいいかあ~」と、なんとなく結論などを出している状態といえます。
仕事上のルーティンなどはその最たるもので、「今までこうしてきたから大丈夫」と考えてしまうと、新たな観点で問題を発見できなくなります 。
たとえばリスク管理。
「もしこんなことが起きたら」をきちんと詰めずに、プロジェクトを進めると、当初はスピードが速くても、後で全体を大幅に修正しなければならない可能性があります。
こうした思考停止が、積もり積もるうちに思考のクセとなって表面化し、「本当にちゃんと考えた?」と言われてしまうことにつながるのです。
様々な人から言われる「ちゃんと考えた?」という質問は、
「認知のリソースを割いてないだろ」
「怠けているだろ」
「いい加減にやってない?」
という警告だとも言えるでしょう。
「ちゃんと考える人」になるための習慣
したがって、 「ちゃんと考える人」になるには、日常の小さな場面から注意深さを意識して訓練することが重要 となります。
たとえば上司に報告する前には、論理的な思考の流れを書き出し、資料の中身をしっかりチェックしなければなりません。
コミュニケーション能力を高めるためには、立ち止まって相手の立場を想像します。
この仕事はどうしてやる必要があるのか、取り掛かる前にかならず考えます。
ふと気になった疑問や思いつきを逐一、メモします。
大きな課題を、いくつかの小さな要素に分けて考えます。
最終的にどうすれば「解決」と言えるかをハッキリさせます。
複数の選択肢を比較検討します。
このように考えていくと、「ちゃんと考える人」という言葉の重みは、「考える」ではないことに気づくでしょう。
そうです。 この話は「ちゃんと」の方に重みがあるのです 。
「ちゃんと考える」は、
時間と認知リソースを使って、網羅的 に考える。
の言い換えなのです。
結果的に「ちゃんと考えている」人というのは、 他者の時間や思考を肩代わりしていますから、サービスの質が高い人 でもあります。
「相手にとっての“わかりやすさ”や“判断しやすさ”まで含めて、自分が思考を肩代わりすること」
実は仕事において評価の高い人というのは、そういうことを常に考えている人なのです。
プロフィール
安達裕哉
1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、デロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。 品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。 大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。
現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」および生成AIコンサルティング会社「ワークワンダース」 の代表として、コンサルティング、webメディアの運営、記事執筆などを行う。
代表著書
『仕事ができる人が見えないところで必ずしていること(日本実業出版社)』
『頭のいい人が話す前に考えていること(ダイヤモンド社)』
X(旧Twitter)
安達裕哉