人気水族館の展示テーマ? 巨大な火山地帯<リング・オブ・ファイヤー>が作り出す海洋環境
「奥深く、荒ぶる海の合間には、これまでに私たちが解明したどんなものよりもはるかに大きな謎が隠されている」──『われらをめぐる海』(著:レイチェル・カーソン、ハヤカワ文庫NF)より
「リング・オブ・ファイヤー(環太平洋火山帯)」とは、太平洋の周囲を取り巻く、火山活動が非常に活発な地域のことです。
リング・オブ・ファイヤーという言葉を初めて聞いた人もいるかもしれませんが、この大きな火山帯は太平洋に様々な影響を及ぼしています。そして、この火山帯には日本列島も含まれています。
さらには、リング・オブ・ファイヤーはよく知られている、あの水族館のテーマにも深く関係しているのです。
リング・オブ・ファイヤーとは
リング・オブ・ファイヤー(環太平洋火山帯)は、その名の通り太平洋の周囲を取り巻く火山帯のことで、日本列島も含めた火山列島や火山群の総称です。
太平洋ではこうした火山や海山(海中にそびえる山)が太平洋を取り囲むように連なっているのです。
リング・オブ・ファイヤーは地球上で8割ほどの火山を有しており、最大レベルの火山の噴火と地震が頻繁に起こります。
日本もリング・オブ・ファイヤーの一部です。日本の東岸沖では、巨大な太平洋プレートが日本海溝に沿ってアジア大陸に衝突し、絶えずその下に押し込まれています。
日本が地震の多い国というのは有名ですが、その理由にはリング・オブ・ファイヤーが深く関係していたのです。
世界一“高い”山はエベレストではない?
突然ですが、クイズです。世界で一番高い「山」はなんでしょうか?
エベレスト……と思いますが、実は見方によっては不正解になります。
「世界一“標高が高い”山は?」の答えは標高8848メートルのエベレストですが、「世界一“高い”山は?」の答えは海底からの距離が1万203メートルとなるハワイの<マウナ・ケア火山>になります。
標高(地上に顔を出している部分の高さ)で言えば、マウナ・ケア火山は4205メートルですが、海底から測った“高さ”で言えばエベレストよりもはるかに高い山になるのです。
つまり、世界一高い山は私たちも住む太平洋にあると言えます。
ハワイにいる火山下のサカナたち
マウナ・ケア火山のあるハワイの海中では一風変わった水景があるのです。
ハワイの海と言うと綺麗なサンゴ礁、南国の海を想像すると思います。しかし場所によっては、黒い岩に囲まれた殺風景な場所をカラフルな魚が泳いでいるという、少し変わった水景が見られます。
これは火山から流れ出た溶岩が影響しているのです。皆さんが想像するような透明度の高い南国の海もありますが、ごつごつの黒い溶岩に囲まれた海も同じハワイに存在します。
実はこの溶岩の海中世界を模したハワイの展示を、東京都江戸川区の水族館「葛西臨海水族園」の<世界の海エリア>で見ることができます。筆者が同園の実習生だった頃に、飼育スタッフさんから教えてもらいました。
しっかりと現地の特色を展示に反映し、かつ、展示する魚もハワイの固有種が見られるなど、ぱっと見では分かりにくいこだわりも多い展示となっています。
葛西臨海水族園を訪れる機会があったら、ぜひじっくりと観察してみてください。
あの有名水族館の展示テーマは<リング・オブ・ファイヤー>?
葛西臨海水族園ではハワイのこだわり展示を見ることができますが、実はリング・オブ・ファイヤーそのものを展示テーマにしている有名な水族館があります。
それが、大阪府大阪市にある巨大水族館「海遊館」です。
「太平洋をめぐる2つの環。ひとつは『リング・オブ・ファイア』。今も活動する火山が環のように連なることから環太平洋火山帯と呼ばれています。環太平洋火山帯の活動が各地域に様々な環境を生みだした結果、そこには環太平洋生命帯『リング・オブ・ライフ』と呼ばれる多種多様な生命が暮らすようになりました。ここには、火山がおりなす地球と生命の物語があります」(展示紹介│海遊館について-海遊館より)
巨大なジンベエザメやかわいいワモンアザラシなどが有名な海遊館ですが、実はこうしたテーマ設定があるのです。
前述の通り、日本もリング・オブ・ファイヤーの影響下にあります。その広大さ、生命の尊さを感じてもらうための水族館が海遊館だったのですね。
館内の展示がスロープでグルグルと回りながら展開していくのも、リング・オブ・ファイヤーのような「輪」を感じられますし、その輪の内側にジンベエザメのいる太平洋水槽があるのもこだわりぬいています。
リング・オブ・ファイヤーに興味を持った人は、ぜひジンベエザメを見ると同時に、海遊館の展示テーマにも注目しながら回ってみてください。
(サカナトライター:みのり)