注意欠如・多動症(ADHD)の特徴と対応②自分の感情や欲求を抑える事が苦手な子供の対応策とは?【心と行動がよくわかる 図解 発達障害の話】
感情や欲求のコントロールが苦手(衝動性)
自分の気持ちや欲求をうまくコントロールすることができず、周囲の状況などお構いなく、自由気ままに行動してしまう子どもがいます。これはADHDの特性のひとつである「衝動性」によるものかもしれません。たとえば人の話を聞かず、自分の言いたいことだけを一方的に話す、列や順番を守らない、思い通りにならないと癇癪を起こすなど、自分の行動や発言を抑えることができません。突然の言動に周囲の人々を驚かせてしまうこともよくあります。
スペシャリストコラム
成長とともに変化するADHD
走り回る、泣き叫ぶ、他の子に乱暴をするといった行動が目立つ子どもがADHD (注意欠如・多動症)と診断されることがある。
1歳を過ぎ、歩けるようになって間もなく、消火器に向かって走り、倒そうとした子がいた。小さいときに心配なのは「危ない」ことだ。保護者は常に目を離すことができないと嘆く。
しかし、こうした行動は成長と共に落ち着いてくる。小学4年生まで椅子に座り続けることのできない子がいた。あるとき、急に椅子から立ち上がって逆立ちをしたので、理由を尋ねると「したかったから」と話した。衝動的と言える。その1年後、彼は着席行動が安定してできるようになり、中学生になると「図書館の本を全部読む」と宣言。大変な読書家になり、読書感想文で賞をとるほどになっている。
多動な子どもには「過度な集中」ともいえる姿が見られることがある。「好きこそものの上手なれ」という言葉があるが、まさしくそのとおりで自分の興味のあるものには脇目も振らずに突き進んでいく。かつて消火器に突っ込んでいった子も同じ理由だったのかもしれない。
ADHDの子が成長に従って落ち着いてくるのは間違いない。その境目は小学校3、4年あたりともいわれている。この時期は脳が子どもから大人へと成長し、変化する時期でもあることから、脳の成長が行動の安定に少なからず影響しているようだ。
一方で、大人になってから「自分は多動ではないか」と相談に訪れる人もいる。子どもの頃は正反対で大人しかったという人もいるが、これは多動ではなく、成長に連れて活発になっていっただけかもしれない。
多動の特性は大人の主観に影響される部分が大きい。たとえば多動症は「活発」に、衝動性は「好奇心が旺盛」に、感情のコントロールができないのは「感情が豊か」と言い換えることもできる。実際このように表現したほうが子どもの本来の姿や個性をより的確に表わしていると感じられるだろう。
【出典】『心と行動がよくわかる 図解 発達障害の話』
監修:湯汲英史(ゆくみえいし) 日本文芸社刊
監修者プロフィール
公認心理師・精神保健福祉士・言語聴覚士。早稲田大学第一文学部心理学専攻卒。現在、公益社団法人発達協会常務理事、早稲田大学非常勤講師、練馬区保育園巡回指導員などを務める。 著書に『0歳~6歳 子どもの発達とレジリエンス保育の本―子どもの「立ち直る力」を育てる』(学研プラス)、『子どもが伸びる関わりことば26―発達が気になる子へのことばかけ』(鈴木出版)、『ことばの力を伸ばす考え方・教え方 ―話す前から一・二語文まで― 』(明石書店)など多数。