【第4回】体験談から学ぶ「水をなめるなかれ」という戒め
HEATでは魚釣りを末永く楽しむために、また、魚釣りの社会的地位をより盤石にするため、「釣りのルールやマナー」に関して、日ごろから協力してくれているライターさん向けにアンケートを実施。その結果と貴重な意見をまとめ、今後の釣り人への指針となるようお伝えしていこうという当企画。
今回はHEATライターの堀籠賢志さんから寄せられた「思い出せば今でも背筋が凍る」大事故寸前の出来事。釣りの安全対策ついてあらためて肝に銘じよう。
釣り場でヒヤリといた経験をお持ちの方はどれぐらいおられるだろう? この記事をまとめている私(スタッフF)も、かつて磯から海に落水したこと1回、アユ釣りの川で深みにはまり肝をつぶしたこと1回、同じくアユ釣りの大河で対岸に向かう途中、予想以上に深く竿をかついだまま必死で泳いだこと1回と苦い思い出がある…。いずれも大事には至らなかったが、二度とそんな目には会いたくないものだ。
今回紹介するのは堀籠さんからいただいたリバーシーバスでの苦い体験談だ。
楽しい釣行のはずが……
仲間との楽しい釣行のはずが一転して大事故になってしまったかもしれない……いまでも冷や汗が出る体験をしました。その経験をもとにあらためて釣り、水に対する安全対策を考えてみたいと思います。
夕方からのナイトゲームはなおさら注意が必要
その日は友人2人とリバーシーバスを楽しもうと日本海側の中規模河川へ釣行しました。川の中流域まで遡上してきたシーバスをねらうプランです。事前にロッドも購入して準備は万全。ネットでの情報やアプリを活用して広範囲に点在するポイントを効率よくランガンする予定でした。
水はクリア。流れも速くない?
季節は6月、新緑を映しキラキラと日光を反する明るい川縁に到着すると、田んぼからの濁り水の影響もなく、クリアで深い緑色の水がゆったり流れていました。水量は豊富で川の流れには大したスピード感はないものの、全体が大きく移動するような「押しの強さ」が感じられました。
カーナビを頼りに車で移動しながらポイントを回っていくと、釣果、魚のコンディションともによく、移動中の車内は友人たちの明るい声が響いていたのが記憶に残っています。
一見、何でもなさそうな流れ……実際には押しが強く命を危険にさらすことになろうとは……大場所の竿抜けポイントを目指した友人が……
昼前になり、それまでにない大場所ポイントに到着。ここで事故は起こりました。その日の状況から、このポイントでもよい釣果が期待できそうと、全員思い思いの立ち位置でキャストを開始しました。
ところがなぜか? このメジャーポイントは沈黙したままでシーバスの反応は皆無。午前中にほかのアングラーが入ったのかもしれません。いくらキャストしてもバイトはありませんでした。
そうこうしているうちに友人の1人が大場所の奥、竿抜けと思われるエリアを釣るために川の中ほどまでウェーディングしていきました。大きくカーブするこのポイントは大規模な淵で水深はありますが、その上流側は膝までの水深で岩盤の溝が幾重にも入っていました。友人はそこに入っていき、対岸の手付かずのエリアにキャストするつもりだったようです。
コンクリート護岸で釣り上げたシーバス。比較的足場はよいがよく滑るので注意が必要なことも押しの強い流れに飲み込まれた友人
「ああっ」と声がしてその友人の方を見ると、川の流れに足を取られて流されていきます。最初は私も友人を笑って見ていました。「何やってんだよ(笑)」と声を掛けている間に、友人は押しの強い流れに飲み込まれて淵へ流されていったのでした。
友人の声がうわずっています。もがいてもチェストハイウェダーを履いた身体では泳ぐこともできずに流されるままでした。そのうち「助けてくれ!」と騒ぎ始めてパニックになりました。
細いPEラインで救助成功
私ともう1人の友人は何もすることができずに呆然自失。とっさに私が取った行動はその友人に向かってルアーをキャストすることでした。幸いにもキャストしたルアーのPEラインを友人がつかむことに成功。そのまま友人を引っ張り岸まで誘導してことなきを得ました。
当時、使用していたのはPE1.2号。まさか細いPEラインで友人を引っ張りあげることになろうとは…
釣りは危険を秘めたウォーターゲーム
運と装備が命を救った……
なんとか引き上げることができた友人の顔は血の気が引き真っ青でした。ガタガタと歯が鳴って震えています。助けた私ともう1人の友人はホッとひと安心しましたが、流された友人は相当なショックを受けたようで身体の震えがなかなか止まらず、とても釣りを続ける雰囲気ではなくなってしまいました。
たった16lbのラインであの流れの中から友人を引っ張り出せたのは、以下の2点が大きいと思います。
①ウェダーの中に水が入らなかった(運がよかった)
②フローティングベストを着用していた
以上の2点がなかったら、とてもではないですがPEラインで引っ張り出すのはまず困難だったと思います。
ガス膨張式救命胴衣
水辺で遊ぶ魚釣りに水に対する備えは必要です。運動神経や体力に自信があっても、着衣のままや釣りの装備を身に付けた状態では思うように泳げません。溺れかけた友人の姿を見て、水に対する恐怖感を肌で感じたことを今も忘れることができません。
あらゆる釣りに身を守れる安全装備を!
釣果よりもまず安全第一
海でも川でも、比較的安全だと思われる防波堤での釣りでも、身を守るための安全装備はPFD(パーソナルフローティングデバイス)いわゆる「ライジャケ」です。名称はさまざまですが、とにかく落水時に身体を浮かせることができる装備は必ず身に付けることが大切です。
ロッドやリール同様(それ以上)に安全装備を!
事故の形態にはいろいろあると思いますが、一定時間、水面に浮いていることができれば発見され救助してもらえる可能性が格段に上がります。ロッドやリールと同じレベルで大切な釣りの装備がPFDですので、必ず身に付けて釣りを楽しみたいものです。
ショアでもオフショアでもPFDは必ず着用をしたい笑い話ですまされない事故を防ぐために
今となっては笑い話ですが、それもこれも大事に至らなかったからです。ハインリッヒの法則(労働災害の分野で知られる事故発生についての経験則)によれば「不幸にも死亡事故となった1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故が隠れており、さらにその背後には事故寸前だった300件のヒヤリとした危険な事象がある」のだそうです。
多くのアングラーのこうしたヒヤリとした経験を共有して、事故のない楽しい釣りを啓蒙していきたいものですね。
一転して牙を剥く大自然の恐ろしさを肝に命じて釣りを楽しんでほしい
以上が堀籠さんからいただいたリバーシーバス釣行時の貴重な経験談だが、あらためて思うのは、水を、自然をなめてはいけないということ。「慣れた釣り場だから」「自分は大丈夫だから」という慢心が大事故につながると肝に銘じ、盤石の心構えと備えで釣りを楽しもう。