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​【静岡県立美術館の館長美術講座スペシャル鼎談 「お手伝いは見た、窪島誠一郎とは誰か」】 昭和の若者たちの、創造の炎を燃やす階段の踊り場を作ったのが僕なんですよ

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市駿河区の静岡県立美術館で11月17日に行われた館長美術講座スペシャル鼎談 「お手伝いは見た、窪島誠一郎とは誰か」から。12月15日まで開催中の企画展「無言館と、かつてありし信濃デッサン館―窪島誠一郎の眼」の関連企画。

窪島誠一郎さん


県立美術館の講堂の約250席がほぼ全部、埋まっていた。ファシリテーターを務めた木下直之館長が「就任してから初めて見た風景だ」と言っていた。それほど多くの関心を集めた背景にあるのは、2024年の社会の空気に対してまさに正鵠を射る企画展の内容、そしてこの日の主題ともなった窪島誠一郎さんという人物への興味だろう。

木下館長、「無言館館主お手伝い」と紹介された元岩手県立美術館館長の原田光さんの前説的トークの後、満を持して登場した無言館館主、旧信濃デッサン館館主の窪島さんは、堂々たる体躯と長い白髪で客席の視線をあっという間に独り占めにした。

1979年に長野県上田市に開いた「信濃デッサン館」、同じ上田市で1997年に開館した「無言館」の前史に当たる、窪島さんの若かりし頃の話を中心に約2時間。あっという間だった。それは個人の魅力であると同時に、1960年代、70年代という、いろいろな「文化のもと」が形を持たないままぐっちゃぐちゃになっていた時代の面白さゆえでもあった。

原田光さん

以下、窪島さんの発言で、印象に残ったものをいくつか記す。生き方がユニークな人の話は、聞いていて元気が出る。

(1963年に東京で開業したスナック「塔」について)
昭和30年代に織田廣喜さんの絵を買って店に飾っていた。そうしたら(洋画家の)原精一さんがやってきて。(この絵を買った)窪島誠一郎の目を褒めてくれたんですよ。俺、学校では褒められるチャンスがなかった。初めて偉い人に褒められた。店を改造した後も(洋画家の)村山槐多の画集、棚に立てかけておいたら原さんがご覧になって『あなたは絵が分かっている』とおっしゃって。有頂天の階段の第1歩ですよ。

(東京都世田谷区、明大前に1965年に作った多目的スペース「キッド・アイラック・ホール」について)
「塔」をつくるちょっと前、21歳の頃、劇団に入っていました。明大前の「東演」。メッセージ性の強いお芝居をやるところです。「東京演劇ゼミナール」の教室に通って、最初は役者や演出家になろうかと思っていました。とにかくお芝居に関したことをやりたかった。でも才能がなかったんでしょうね。長続きしなかった。店(スナック「塔」)を開いたら、東演の稽古場を2階に作ろうとなった。(それがキッド・アイラック・ホール)天井が楽屋なの。縄ばしごで降りてくる。寺山修司、東由多加、ミュージシャンの出来損ない。いろいろな人が集まった。坂本龍一君が新宿高校出たばかりの頃。アルフィーの高見沢は、うちで坂崎と知り合ってアルフィー作ったんですよ。坂田明、日野皓正。ノーギャラで、うちのスパゲティー食べてそれだけ。みんな「すねに傷持つ身」ですよ。発散できない魂を上で燃やしてくれていた。屈折した喜びがありましたね。

(絵画コレクションについて)
集めた絵は1600点ぐらい。7、8年前にがんを患って、自分の美術館をやっていくことは無理だろうと思い、地元の長野県立美術館に買っていただいた。400点寄贈して33点買い上げていただいた。村山槐多の絵には箱根のポーラ美術館からも、高額のオファーがきていたんですよ。こういう話を皆さんの目から見ると「目利きなんですね」って思うでしょう? これが大きな間違い。残りの1千何百点は誰が描いたかも分からない。相手のことなんか調べていないわけですよ。コレクションってね、千以上あれば資本主義の対価としてお金がいただける絵も1,2点はあるでしょう。でも大半は無名のままですよ。キッド・アイラックも53年にわたっていろんなことをやってきたけれど、(出演者の)大半は無名のまま終わっている。でも、あそこで青春の命を燃やしているんです。昭和の若者たちの、どこへ持って行っていいか分からない創造の炎を燃やす階段の踊り場を作ったのが僕なんですよ。コレクションも同じ。「これはきっと大成する」とか「10年たったら5億で売ろう」とか、そういうことで集めたわけじゃない。
(は)

木下直之館長

<DATA>
■静岡県立美術館 
住所:静岡市駿河区谷田53-2
開館:午前10時~午後5時半(月曜休館、祝日の場合は翌日休館)
企画展料金(当日):1200円、70歳以上600円、大学生以下無料
会期:12月15日まで
 

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