谷佳樹、杉江大志らが熱意あふれる姿を披露 舞台「文豪とアルケミスト 旗手達ノ協奏(デュエット)」稽古場オフィシャルレポート公開
2024年6月6日(木)~16日(日)東京:シアターH、6月21日(金)~23日(日)京都:京都劇場にて上演する、舞台「文豪とアルケミスト 旗手達ノ協奏(デュエット)」の稽古場オフィシャルレポートが公開された。
原作となる「文豪とアルケミスト」は、人々の記憶から文学が奪われる前に、文豪と共に敵である“侵蝕者”から文学書を守りぬくことを目指す DMM GAMES で配信中の文豪転生シミュレーションゲーム。舞台「文豪とアルケミスト」シリーズ第七弾となる本作では、志賀直哉が、かつての友 小林多喜二や白樺派を中心とした文豪たちとともに、強大な”侵蝕者”に抗う姿を描く。
舞台「文豪とアルケミスト 旗手達ノ協奏(デュエット)」稽古場オフィシャルレポート
※本文には物語や舞台セットなど一部ネタバレが含まれます。予めご了承ください。
5月、夏のような太陽が照る某日。都内スタジオ。
舞台「文豪とアルケミスト 旗手達ノ協奏(デュエット)」の稽古場は、クライマックスシーンのミザンス(※ステージ上の役者の立ち位置)決め真っ最中だった。
舞台「文豪とアルケミスト」は、2019年の舞台「文豪とアルケミスト 余計者ノ挽歌(エレジー)」を第1弾としてシリーズを重ね、今作が第7弾となる。
原作はDMM GAMESで配信中の文豪転生シミュレーションゲーム「文豪とアルケミスト」。文学作品を守るために“アルケミスト”の能力によって転生した文豪たちが、本の中の世界を破壊する“侵蝕者”と戦う物語だ。
舞台シリーズは「文劇」の愛称で親しまれており、キャストも実力派、個性派、注目株……と、様々な役者が揃う。原作独自の世界観を深掘りして文豪同士の関係性を際立たせた、なるせゆうせいの脚本。アンサンブルキャストによるマンパワーを軸に、物語を立体化させた吉谷晃太朗の演出。照明や音楽の美しさ、衣裳・ヘアメイクへのこだわりが話題を呼び、好評を博してきた。
第7弾は志賀直哉を中心とした白樺派4人の人間関係と、小林多喜二の存在を巡って繰り広げられる葛藤とバトルが見どころ。
今作もファンの期待を上回るべく、カンパニー全員が一丸となって初日を目指し、稽古に臨んでいる。
稽古場には既に二階建てのセットが建て込みされていた。
そのセットを背にしたステージ中央で、脚本を片手に真剣な表情で演出をつけているのが、演出の吉谷晃太朗だ。
「文劇」シリーズ通して演出を担当している吉谷は、世界観の具現化も手慣れたもの。だが手を抜く様子も気を緩める様子も一切なく、一つひとつ丁寧にキッカケや動きを付けていく。
まず正面から駆け込んできたのは、白樺派の有島武郎(演:杉咲真広)と里見弴(演:澤邊寧央)。
杉咲はシリーズ第2弾に出演、人気キャラクターの有島を演じ注目を集めた。澤邊は第1弾にアンサンブルで出演した後、第4弾では里見役にキャスティングされた。
杉咲と澤邊は休憩中も稽古に打ち込んでおり、熱の入った演技とアクションを合わせて繰り返しシーンを確認していた。2人が演じる有島武郎と里見弴は血縁関係のある兄弟で、それと同様に杉咲と澤邊も兄弟のような雰囲気がある。
有島と里見を追い掛ける形でアンサンブル演じる侵蝕者と、高村光太郎(演:松井勇歩)が登場。フォーメーションを組んだアクションが繰り広げられる。
松井は「文劇」初参加だが、そうと感じさせぬ落ち着き。詩人、彫刻家として名を馳せた文豪の生涯を感じさせるシリアスな台詞をしっかりと利かせ、場面の切り替わりを担っていた。
彼らと入れ替わりで登場したのは、石川啄木(演:櫻井圭登)と小林多喜二(演:泰江和明)。
櫻井は古くから吉谷演出を経験しているためか、瞬時に演出の意図を理解。「文劇」には初参加ながら軽々とした動きで指示に応えてみせる。吉谷も櫻井の身体能力を信頼して、攻撃の受け方について高難度のリクエストを出す。アクションシーンを支えるアンサンブルメンバーたちも色々な動きを提案。櫻井は「難しい……」と呻きつつも、何度かトライして「練習します!」と宣言していた。
泰江は吉谷が生み出す演出をキラキラした瞳で追い掛け、実に楽しそう。「こんなことある!?シリーズ史上、初めてなんじゃない?」とスタッフたちに同意を求めたかと思えば、真剣な表情でタイミングを確認したりと、作品への前向きさが伝わってくる。
続くシーンでは、ついに志賀直哉(演:谷佳樹)が登場した。
中心となる文豪は太宰治(演:平野良)や芥川龍之介(演:久保田秀敏)等、作品によって異なる。第7弾は谷演じる志賀が主軸。谷は第1弾、第2弾からの続投で、シリーズ2作目に上演された舞台「文豪とアルケミスト 異端者ノ円舞(ワルツ)」では、武者小路実篤役の杉江大志とW主演を務めていた。
今作では単独主演を担う谷だが、立ち位置を確認しながらもステージ上にいるキャストたちにも爽やかに声を掛けて気配りしており、流石主演といった貫禄。
一方でミザンスの待機中には小林役の泰江に向かってスローモーションで斬り掛かり、泰江もそれを受けて大げさに倒れ込んでみたりと、和気あいあいとした一コマも見られた。
次に登場したのは、武者小路実篤(演:杉江大志)と広津和郎(演:新正俊)。
新は「文劇」ならではの装飾が施された武器を軽々と扱い、スマートな戦いぶりを披露。近年、数々の2.5次元作品で重要な役を任されている若手俳優のひとり。広津和郎という文豪も「文劇」に初登場となるが、今作ではストーリーを回す役割も担う。注目株である新がどう演じてみせるかも楽しみだ。
吉谷と長年の付き合いである杉江は、脚本を確認しつつも華麗に刀を振るい、余裕の台詞回し。明るく行動力のある武者小路実篤のキャラクターは杉江の持つ長所に通じるところでもあるが、そこにキャリアを重ねてきた杉江の安定感が加わっている。
戦闘で志賀直哉と武者小路実篤がアイコンタクトを交わす一瞬もあり、ふたりのコンビプレー感は必見だ。稽古中、杉江が谷をさり気なく立てる気遣いも見られ、こちらのふたりの絆も感じられた。
今作では白樺派の文豪4人が揃うところも見どころ。複雑な人間関係や葛藤を乗り越え、新文豪たちも合わさった8人が並び立ったときの格好良さは格別だ。戦う文豪の生き様が光る終盤戦である。
演出の吉谷は全員の立ち位置を体現しながらミザンスを付けていくため、稽古後半には汗だく状態。啄木として階段の上まで逃げたかと思えば志賀として台詞を語り、次の瞬間には文豪たちに立ちはだかる侵蝕者となって攻撃を放ってみせる。
見ているだけでも目の回るような忙しさだが、吉谷はその動きとなる理由やストーリー上の理屈を欠かさない。キャストとキャラクターの気持ちに寄り添いながら。アクションや音のタイミングを計るため冷静に拍を数えながら。さらに面白く、分かりやすく、見やすく。全神経を集中させて稽古に取り組む。
時に複雑になる流れを、長年「文劇」シリーズを支えてきたアンサンブルたちがサポートする。侵蝕者が扱う武器は、シリーズを通して見ているファンはニヤリとするような関連性も含んでおり、注目ポイント。
吉谷曰く「今作では照明さんも“侵蝕者”にしようという企みがある」とのこと。ミザンス中にも「こういった照明を試せないかな?」とスタッフ陣に相談しており、光の演出にも期待が高まった。
クライマックスは特に光、音が幾重にも交錯し、アクションシーンも入り乱れる。
安全に最大限の配慮をしつつ、稽古場の空気が固くなり過ぎぬようにと吉谷はユーモア交じりの表現で各キャラクターの動きを伝え、キャストたちもそれに応じる。ときには互いに遠慮なく意見を言い、セッションが始まる。作品をより良くしていこうという熱意にあふれる稽古場だった。
尚、今作は新劇場〈シアターH〉のこけら落とし公演となる。
皆が初めて目にする光が音が、物語が。この「文劇」にあるはずだ。
文:片桐ユウ