「賛否両論が激しすぎ」「むしろ期待値が爆上がり」前代未聞のUMA映画『サスカッチ・サンセット』の衝撃
サスカッチ~ビッグフット映画の系譜
米オレゴン州を旅したことがあれば、毛むくじゃらの巨大な猿人の姿(木像や壁画、お土産のキーホルダーなど)をよく見かけたことだろう。19世紀にその存在が知れ渡る以前から語り継がれていた、謎の生き物「サスカッチ(別名:ビッグフット)」だ。自然豊かな米北西部で頻繁に目撃され、その名はアメリカ先住部族の言葉に由来しているという。
ヒトと類人猿をつなぐミッシングリンクでされ、有名な未確認生物(UMA)であり、いまやポップカルチャーのアイコンでもあるサスカッチ。約100万年前の地球にいた大型類人猿ギガントピテクスの生き残りという説もあるが、多くの映画作品でその存在が描かれてきた、いわば名優でもある。
サスカッチ映画は、着ぐるみコメディ『ハリーとヘンダスン一家』(1987年)や、アニメ『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』(2019年)などほのぼのした作品よりも、やはり『恐怖の雪男』(1957年)や『ザ・コング』(2005年)のようなホラー/スリラーが多い。意思を持つ未確認生物だけあって、ひと味違う恐怖を生み出せるスター俳優だ。
そんなサスカッチの最新映画が、あのアリ・アスターが製作総指揮を務めた『サスカッチ・サンセット』。しかもA24配給ということで嫌な予感、もといゾクリしつつも期待を寄せていた映画ファンは多いだろう。さらに主演は、いまやアカデミー賞ノミネート監督/脚本家となった個性派俳優の筆頭、ジェシー・アイゼンバーグ。もちろん主演とは、つまり“サスカッチ役”だ!
こんな映画、観たことない!『サスカッチ・サンセット』の衝撃
映画『サスカッチ・サンセット』にはセリフがない。主人公がサスカッチだからだ。いわゆるウホウホ的な鳴き声だけで、もちろん字幕もない。ゆえに人類との交流は描かれず直接的に登場するこもはない。まさか2025年に、こんな映画が観られるなんて……と面食らっていると、そうした描写の連続にじわじわ没入していることに驚かされ、そしてプリミティブな汚ネタの数々に膝から崩れ落ちそうになる。
あまりに衝撃的なので“出オチ”映画なのではと穿ってしまうが、その不安はすぐに払拭される。サスカッチたちの生態、営みをただ見守るしかないのに、なぜかスクリーンに釘付けになってしまう。互いに愛情深く、好奇心旺盛で、大いに笑わせてくれて、なにより自由。大自然の中で精一杯生きるライフスタイル(?)は、羨ましいとすら感じさせる。思わず私たちニンゲンを投映してしまう個性/関係性の描写も秀逸だ。
ちなみに辛口で知られる某批評サイトでは賛否の差がすさまじいのだが、むしろ興味をそそられるだろう。多くの批評家は、SF大作や人気シリーズに占領された映画業界でこんなにも奇妙な作品が完成したこと自体を称賛し、その挑戦や大胆さを評価している模様。そこには“新鮮に驚き感動できる、新しいものを見せてくれた”という純粋な喜びも感じられる。
気鋭兄弟監督の「サスカッチへの積年の想い」が長編映画で爆発
監督のデヴィッド&ネイサンのゼルナー兄弟は、菊地凛子が主演した『トレジャーハンター クミコ』(2014年)、そして話題沸騰のドラマ『THE CURSE/ザ・カース』を手がけていると聞けば、この奇妙なバイブスにも納得せざるを得ない。過去作から引き続き、The Octopus Projectが本作でも素晴らしい音楽を提供している。
なお、いまや業界最注目の気鋭クリエイターとなったゼルナー兄弟監督は10年以上も前にサンダンス映画祭にサスカッチをテーマにした短編を出品していて、この当時から基本的には変わっていないということが、なんだか嬉しい。
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キャストに施された特殊メイクはかなり凝ってはいるのだが、同時に80~90年代のチープな着ぐるみ感をしっかり残していて、ドキュメンタリーとして観ることを許してくれない。『大草原の小さな家』とか『北の国から』を彷彿させ……なくもないが、なんだか全身が弛緩するような、サイケなトリップ映画とかヒーリング映像に近いものも感じさせる。
これまで経験したことのない、未知の感情の扉を開いてくれる本作。いわゆる“怖いもの見たさ”で鑑賞するのもアリだろう。中盤以降はスリラーのような緊張感が出てくるが、最後の最後には“人類”としての自らを省みることになるというか、なんとも例え難い、ぐぐっと切ない感情に襲われるのは間違いない。この先なかなか出会えないであろう、傑作UMA映画の誕生だ。
『サスカッチ・サンセット』は5月23日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー