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新井薬師前さんぽのおすすめ6スポット。世代や国境を越えて懐かしさや親しさを共有できる街

さんたつ

【散歩の達人】新井薬師前さんぽ

新井薬師をはじめ、神社仏閣が点在する新井薬師前界隈。中野と哲学堂を結ぶメインストリートを中心に、昔っからの商店が健在で、新店や異国の料理店も軒を連ねる。新旧、東西の文化が、大らかに、のんびり溶け合っていた。

ウズベキスタン人の故郷的存在『VATANIM(ヴァタニム)』

店主・山口奈緒子さんとウズベク人のアリさんの夫婦二人で切り盛り。ラム肉のケスマシャリク620円、ビリヤニのようなプロフ1350円に加え、野菜とラムが満載のショルバ1420円というスープが滋味。パンのノン440円を浸すウズベク流で味わえば手が止まらない。ウズベキスタン客も多く「小上がりで居眠りする人もいます(笑)」。

12:00~14:00LO・17:00~21:00、月休。
☎03-6454-0689

暮らしに加えたくなる雑貨たち『Cinq Shop(サンク ショップ)』

設計事務所の半分を占める雑貨販売部門。軽量傘、吸水力抜群のタオル、山桜の木のフライ返し1980円など日本製のほか、タイ産フェアトレード編みぐるみ1089円や欧州製も取り扱っている。「『かわいい』の先にある、使いやすさ、暮らしにフイットするものを」と、インテリアコーディネーターの中村光子さんと新川酉佳(ゆうか)さん。

10:00~18:00、日・祝休。
☎03-5318-5039

住民が愛してやまない無農薬の自家栽培野菜『野菜食堂 小道』/八百屋『小道の駅』

「嫁の実家がある上野原で畑をやっています」と久保さん夫妻。収穫量は増え続け、2014年から八百屋を、2024年から野菜食堂を開始。野菜満載ごはん目当てが多く売り切れごめん。火・木・土は娘の義母・畑中さんが魚定食を提供。

11:30~18:00(土・日は11:30~14:00・17:30~20:00。早仕舞いあり。八百屋は水・日8:00~売り切れ次第終了)、月休。
☎03-3319-6222

日によってお店がガラリと変貌『Bo Café』/『スコーン屋さんpimolt』

ステッカー580円などがキュートなフレンチブルドッグ雑貨&カフェは週末のみ。店主の田中彩美さんは「フレブル好きが集まる店ですが、平日は地元の方がのんびり来てくれます」と。2024年から姉の香織さんがテイクアウト専門のスコーン屋(1個300円~)も開始。犬用ケーキ1600円~は要予約。

Bo Café/土・日・祝12:00~18:00。
Pimolt/水・木11:00~17:00。
☎なし

7種の生地が織りなす無限大の味『小星(こぼし)』

薬師柳通り沿いの紺碧の壁が目印。全粒粉、米麹、雑穀、ヨーグルトなど7種の生地から約25種のパンが生まれ、カウンターに並ぶ。自然発酵させるのは、店主の高田さんいわく「自然に育つと香りがいいから」。素材の持ち味を生かし、砂糖を抑えたデザートやスープがあるときもイートインも可。

10:00~19:00ごろ(土は11:00~18:00ごろ)、日・月・火休。
☎なし

バーを経由してギャラリーへ『スタジオ35分』

写真家の酒航太さんが暗室として使っていた元写真店がギャラリーに変貌。酒さんがピンときた「独自の視点」をもつ作家性のある写真が中心だ。入り口は提灯が灯る隣のバー。L字カウンターに肩寄せ合い、自家製バイスサワー650円を手にアートや地元話に花が咲く。チャージ300円、1ドリンク制。

16:00~22:00、日・月・火休(約5週間の展示後、1週間休)。
☎なし

繁華街に隣接する、のどけし異空間

新宿などの繁華街が近いのに、ほっこりしたムードが漂うのは、チェーン店が少なくて、昔っからの商店も健在だからだろうか。とはいえ、中野と哲学堂を結ぶメインストリートを歩くと、新しい店も程よく入り混じる。そんな薬師あいロードのはずれにあるのが、都内でも珍しいウズベキスタン料理店『VATANIM』だ。看板やミニししおどしなど、そば屋の意匠を残すのは大家さんの意向だというが「外国人にはかえってエキゾチックに見えるみたい」と、店主の山口さん。小上がりは意外にも現地のカフェ『チャイハナ』と同じ造りで「ウズベク人はここに上がってくつろぎたがります」。住民もウズベクの人ものんびりくつろぎ、店名の“故郷”を地でいく風情だ。

童謡『たきび』で歌われた♪垣根の垣根の曲がり角の地。

住宅地に迷い込めば、突如、野菜ランチの幟(のぼり)がはためいていた。扉を開けると無人販売の無農薬野菜が100円〜という破格さ。「夏のトマトは特に人気で、朝8時の開店前に並ぶほどよ」と話すのは、生まれも育ちも新井薬師の久保由紀子さん。夫婦で山梨の上野原に週3日通い、育てた野菜はハリツヤピンシャン。そして2024年から、奥のひと間で念願の野菜食堂も開始した。「ここは僕のメイン食堂」と常連客が言い放つほど、住民たちの胃袋を捉え、毎日昼過ぎには完売御礼。「この街から出たくない」と、孫の面倒を見るために近所に越してきた畑中さんも食堂に参加し、大家族を地でいく和やかさ。訪れる者たちの実家感をかき立てる。

中野通りを駆け抜ける黄色い車体の西武新宿線。地下化工事が進行中ゆえ、この風景が見られるのもあとわずか?

あちこちで耳にした“素朴”を生んだ正体

季節に染まる、神社仏閣や川、公園、ケヤキの大木のある屋敷など、昔の武蔵野の面影が点在するこの街。その牧歌的な風景が大らかさを育み、沈思や詩作に耽(ふけ)らせるのか。作家やアーティストたちが昔から多く暮らし、呼応するように小さなギャラリーも点在している。

バーから段差のある出入り口を抜けてギャラリーに入る『スタジオ35分』の店主も写真家だ。白壁に異世界が浮かぶような作品を見た後、バーに戻ると現世に戻ったような心地になった。「出入り口の結界があってこそ、ですかね」とつぶやく店主の酒さんがいう“結界”で腑(ふ)に落ちた。

妙正寺川の向こうに哲学堂の森がこんもり。

思えば、中野側の薬師あいロード入り口から空気が変わり、ノスタルジックな心地へ誘われる。新井薬師は都会の中にある小さな結界の中。懐かしさや親しさを、世代や国境を越えて共有できる稀有(けう)な街なのだ。

中野から続く薬師あいロード。

取材・文=林 さゆり 撮影=井原淳一
『散歩の達人』2024年12月号より

どてらい堂
熱血物書き
インタビュー記事を得意とするが、街頭調査やルポルタージュなど、体当たりな企画はより嬉々として勤しむ1984年生まれのB型男。主に『散歩の達人』で執筆。漫画・アニメ・格闘技オタクで、少年漫画脳な気質が文章にちらほら。たこ焼きの腕だけはプロ以上。

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