琉球ゴールデンキングス“第2の矢”を払拭したか…天皇杯制覇後のアウェー4連勝で「M12」に荒川颯と脇真大が象徴する若手の自信
プロバスケットボールBリーグの琉球ゴールデンキングスを率いる桶谷大ヘッドコーチ(HC)が、よく口にする話がある。仏教に伝わる「2本の矢」のエピソードだ。 大枠で言うと、「第1の矢」は実際に起きた事象を示し、「第2の矢」は事象を受けて自ら生み出した不安や怒り、執着心などのことを指す。 東アジアスーパーリーグ(EASL)ファイナル4(3月7〜9日、マカオ)の初戦に当たる準決勝で持ち味を出し切れずに敗れた翌日、桶谷HCは以下のようなコメントを発していた。 「目の前に起きてる事象(第1の矢)があって、それをフラットに見て対応したらいいのに、2本目の矢にやられ過ぎている。『こうなったらどうしよう』という憶測ばかりで、頭でっかちになってプレーがスッと入っていかず、コンセプトと違うプレーをしてしまう。今シーズン、バラバラになる時の原因だと思います。コンセプトを持ってやり続けることが大切です」 もちろん試合中には戦術的な駆け引きがある。相手のやりたいことを消すために、その都度細かい動きを変えることは常だ。それでもチームの強みを強調することや、個々の役割は曲げない。それこそが指揮官の求める戦い方なのだろう。 キングスはEASLファイナル4とホームでの島根スサノオマジック戦を合わせて3連敗を喫し、厳しいチーム状態が続いていたが、3月15日にあった第100回天皇杯全日本選手権の決勝でアルバルク東京を破り初優勝を達成。快挙を機に潮目が変わり、その後はアウェーで4連勝中だ。 タイトル獲得により自信を取り戻し、「第2の矢」を払拭したように見える。
接戦勝ち切る…2位島根とゲーム差「4」に拡大
東京で行われた天皇杯決勝後、優勝報告などで一時沖縄に戻ったキングス。快挙の余韻も束の間、すぐにアウェーの地へ飛んだ。 4連戦の初戦は3月19日にあった京都ハンナリーズ戦。大一番後の試合で集中力の維持が難しいことも予想されたが、攻守ともに良い形で試合に入った。後半は得点力の高い京都に追い上げられたものの、最近はコンディション不良明けでパフォーマンスが安定しなかったヴィック・ローが両チーム最多の26得点を挙げるなどして95ー90で逃げ切った。 愛知県に移り、中地区3位のシーホース三河と行った2連戦は80ー67、85ー76で勝利。相手の外国籍選手が一人不在の中、いずれもリバウンドで圧倒し、流れを渡さなかった。 直近の26日に神奈川県であった川崎ブレイブサンダース戦は、第4クオーター(Q)の残り約5分で18点までリードを広げたが、ディフェンスが崩れて猛追を受け延長へ。それでも最後は、岸本隆一が3ポイントシュートを2本決めるなどして116ー111で競り勝った。 EASLと天皇杯を合わせ、3月に入ってから県外と海外で10試合を戦い、ホームの沖縄サントリーアリーナで行ったゲームは1試合のみ。厳しいスケジュールの中、直近のアウェー4試合ではターンオーバーやディフェンスの乱れなど時間帯ごとで課題こそあれど、インサイドを主体としたオフェンスやリバウンドといった持ち味を見失うことはほぼなかった印象だ。 現状、キングスは32勝13敗で西地区首位を走る。この4試合が行われた期間、同地区2位の島根が1勝3敗と失速したため、ゲーム差は「4」に拡大した。レギュラーシーズンは残り15試合。地区優勝マジックは「12」となり、チャンピオンシップ(CS)進出が確定するのも近い。 川崎戦後、桶谷HCはハードな日程を念頭に「天皇杯が終わってからのアウェー4試合を全部勝ってくれて、本当に大きいと思います。3月は沖縄に3日しか帰れていない選手、スタッフがいる中で、みんなよくやってくれました」と労をねぎらった。
存在感増す荒川颯、貪欲に成長求める
このアウェー4連戦の期間中で、印象的なコメントがあった。22日の三河戦後に桶谷HCが発したものだ。 「天皇杯優勝がチームにとって大きな成功体験となり、若手選手たちが自信を持って強度高くプレーできています」 この評価を象徴する選手が2人いる。一人目は荒川颯だ。 要所で3ポイントシュートを決め切り、この4試合のうち3試合で二桁得点を記録。いずれもターンオーバーはゼロ。アシストやスティールでも存在感を示し、その選手が出場している時間帯の得失点差を示す「+/−」は4試合ともプラスだった。 松脇圭志と平良彰吾がコンディション不良や負傷で欠場する中、この活躍の価値は大きい。川崎戦後、指揮官も「点を取ることを期待されてる中、彼の3ポイントシュートで離してゲームチェンジャーになってくれました」と評価。一方で「あとはもう一個、ディフェンスのハッスルが上がってくればプレータイムが伸びてくると思います」と注文も付けた。 荒川自身も「自分のプレーでリズムを掴むことはできましたが、その後に追い付かれてしまいました。自分の修正すべき部分も多くあったので、そこを見つめ直して次につなげたいです」と貪欲に成長を求める。
積極性を取り戻した脇「決め切る力を」
もう一人はルーキーの脇真大である。 EASLのファイナル4では持ち味の積極性が影を潜め、プレータイムが極端に減ったが、天皇杯決勝で復活。アウェー4連戦では一人でコートを横断してシュートまで行ったり、相手に引いて守られてもドライブで崩しに行ったりするなど、自身のスタイルを貫いた。 川崎戦の後、脇は「たくさん課題がある中、気持ちの部分でも、勝負所で決め切る力が大切になってきます。CSも控えているので、残り15試合でさらに鍛えられるように頑張っていきたいです」と自らに厳しい姿勢を示した。 桶谷HCは脇に対し、記事の冒頭で触れた「2本の矢」の話に再び触れ、こう評価した。 「脇はルーキーイヤーで、最初はなんでも怖いもの無しでプレーできていました。それがちょっとずつ『失敗したらどうしよう』とか、事象の後の不安である『第2の矢』にやられてアグレッシブさがなくなっていました。それがまた、不安なくアタックしているのは成長したところだと思います」 3月29、30の両日には沖縄サントリーアリーナに東地区2位の群馬クレインサンダーズを迎えるキングス。実に2週間半ぶりとなるホーム戦に向け、岸本は「天皇杯から自分たちが蓄えてきた力を表現し、見ている方々に何かを感じてもらえるような試合にしたいと思います」とコメントした。 若手に限らず、チーム全体として「第2の矢」を受けることなく、自信を持って自分たちの戦い方を貫いていきたい。そうすれば自ずと結果が付いて来ることは、天皇杯を含めた直近の5試合が示している。