「負けを意味あるものに」岸本隆一の覚悟が現実に…貯金6で序盤戦終了、琉球ゴールデンキングスが歩む“正常な成長”のプロセス
さかのぼること1カ月半前。沖縄サントリーアリーナ。 プロバスケットボールBリーグの琉球ゴールデンキングスは、10月4、5の両日にあった開幕節でまさかの2連敗を喫した。初戦の後、コート中央でマイクを握った岸本隆一は抑えたトーンで強い覚悟を示した。 「この負けを意味のあるものにしていきたいです」 その後、攻守で課題の残るチームに追い打ちをかけるように主力の怪我や退団という試練にみまわれ、勝ちと負けを繰り返したキングス。それでもバイウィーク(リーグの中断期間)前の18試合を消化した現時点で12勝6敗と白星が六つ先行し、混戦の西地区で13チーム中4位につける。11月に限って言えば、7勝1敗と大きく勝ち越した。 数字面だけでなく、戦いぶりを見ても、明らかに上昇気流に乗り始めている。まだシーズンの序盤戦を終えた段階で、気が早いかもしれないが、開幕からの数節で混んだ黒星は「意味のある負け」になってきたと言えそうだ。
「戻ってきた」キングス本来のスタンダード
11月15、16の両日にあった京都ハンナリーズとのホーム戦。キングスは91-76、85-71でいずれも勝利し、その前の12日にアウェーであった大阪エヴェッサ戦を含めて3連勝でバイウィークに入った。 京都との初戦後、岸本が記者会見に登壇した。開幕戦で発した“あの言葉”を体現でき始めている感触はあるか——。そう問うと、表情に確かな手応えを宿しながらこう語った。 「はい。現時点ではすごく生きてると思います。(序盤戦の)ああいう戦いをしてしまうと、プレーの強度を上げるとかの内容というよりも姿勢の部分の話になってきてしまうので、試合の意味を見出しにくい。(スタンダードが上がってきたことで)序盤の不甲斐ない負けが自分たちにとって意味のあるものになりつつあるんじゃないかと思っています」 開幕節の時、桶谷大HCもチームに対して「謙虚さがない戦いをしている」「スカウティングに対して真摯に取り組んでいない」と厳しい評価を口にしていた。 確かに、その時はディフェンスのエナジー不足や集中力の欠如による簡単なミス、勝負所で相次ぐターンオーバーなど、泥臭さや我慢強さが武器のキングスらしくない部分が散見されていた。 誰が出ても落ちないディフェンスの強度、コート内外のコミュニケーション、試合中のアジャスト、最終盤での勝負強さ。中二日で土日の2連戦と水曜ゲームを繰り返す過密日程だった18試合の中で徐々に“らしさ”を取り戻し、昨シーズンまでに積み上げてきたチームのスタンダードに追い付いてきた。 全試合で先発を務める岸本はこうも言った。 「スタンダードは『上がってきた』というより、昨シーズン積み上げたものに『戻ってきた』に近いですかね。ディフェンス強度もそうですし、オフェンスがうまくいっていない時、試合中にアジャストできるようになってきました。そこは、シーズン最初の頃とは大きく違う部分だと思います」 現在、オフェンスレーティング(100回オフェンスした時の平均得点)は119.4点で全26チーム中4位、ディフェンスレーティングは(100回ディフェンスした時の平均失点)は7位の108.3点。いずれも上位につけており、改善は数字にも表れている。
HCが見る「代償を払いながらの成長」
12勝6敗は西地区3位のシーホース三河と勝敗数で並び、1位の長崎ヴェルカ、2位の名古屋ダイヤモンドドルフィンズ(名古屋D)を4ゲーム差で追う。11月16日にあった京都戦後、桶谷HCにも現状の成績の受け止めを聞いた。 「名古屋Dや長崎がなかなか負けない分、6敗は『結構負けてるな』と感じると思います。ただ、キングスは最初からバーンと勝ち続けるようなチームではなくて、一緒にプレーをして、経験を重ねながら個が良くなっていって、そこからチームが強くなっていくプロセスが必要なチームです。その意味で、正常な成長の仕方をしてるんじゃないかと思います」 実際、ここまでの道のりは決して平坦ではない。 昨シーズン新人賞を獲得した脇真大が怪我で12試合にわたり戦列を離れ、10月下旬にはケヴェ・アルマが突然の退団。ヴィック・ローや小針幸也、平良彰吾もコンディション不良や負傷で欠場する試合があった。 それでも勝利を積み重ねられたことは、アルマ退団後に緊急補強したアンドリュー・ランダルの貢献が大きい。それに加え、桶谷HCが言う「個の成長」も顕著に見られた。指揮官が続ける。 「佐土原は最初フィットが難しい状態でしたが、あそこまで良くなってきました。ペリメーター陣はシュートが入る選手がなかなか出てこなかったけど、(崎濱)秀斗が成長してきたり、松脇もここ何試合かはよく決めてくれたりしています。負けという代償を払いながらですけど、みんなが正常に成長していってくれてると思います」 誰が出ても、誰が欠場していても、やるべきことをやり続ける。その中で個々がステップアップする好循環が生まれ始めているのだ。
佐土原が辿り着いた“新しいスイッチ”
指揮官の言葉にも出てきたが、今シーズン加入した佐土原はチームの改善を象徴する存在だろう。18試合の中でのフィット感の高まりは目を見張るものがある。 ファイティングイーグルス名古屋で日本人エースを張った昨季は全58試合で先発を務め、平均で29分43秒出場した。一方、今季の先発は4試合のみ。主にセカンドユニットに回り、プレータイムは平均17分45秒に減少している。 佐土原自身、「長い時間出るのが当たり前、点を取るのが当たり前」という状況ではなくなり、シーズン当初は「短い時間で結果を出さないといけなくなり、テンションを上がりきる前に交代させられることもありました」と打ち明ける。シュートタッチの不調やターンオーバーの多さに苦しんでいたことは、それが要因の一つになっていたのだろう。 模索する中で辿り着いたのが、「ディフェンスで自分のテンションを上げる」という新しいスイッチの入れ方だった。 外国籍選手をマークできる程のフィジカルの強さは大きな武器だ。ターンオーバーを誘い、コースト・トゥ・コースト(一人でボールを運んでそのままシュートを決めること)を決める場面も増えてきた。 「今はディフェンスからテンションを上げられるようになったので、それが信頼にもつながって、プレータイムが伸びている実感があります。新たな自分を見つけたことでポジティブにプレーできています」 直近3試合は脇が復帰し、佐土原と共にコートに立つことでセカンドユニットのディフェンス力やスピード感が高まっており、チームの厚みが増している。ただ、佐土原はチーム力がさらに向上する余地があると見る。 「ディフェンスだけでなく、オフェンスも改善するべきところはいっぱいあります。攻守とも、このバイウィークでもっとレベルアップできる自信があります。大きくガラッと変えるわけじゃないですけど、見てる人から『ちょっと変わったな』と思われるようなバスケットをしていきたいです」 岸本が開幕戦後に口にした「意味のある負けに」という言葉は、18試合を経て、個々の選手、チーム全体の両方の視点から少しずつ現実のものになりつつある。 ただ、来年5月頭までのレギュラーシーズンは残り42試合と長い。チャンピオンシップ(CS)に出場するとなれば、さらに厳しい戦いが続く。シーズンの終わりに「意味のある負けだった」と言い切るための戦いは、まだ始まったばかりだ。