日本漫画史上屈指の必読名作が“戦争観”を揺さぶる 『はだしのゲンはまだ怒っている』公開中
一家に一冊「はだしのゲン」
アメリカによる広島への原子投下。家族を失い自らも被爆した少年ゲンが、貧困や偏見に苦しみながらも力強く生きていく姿を描いた漫画「はだしのゲン」を“まったく知らない”という日本人は多くないだろう。
多感な時期に「はだしのゲン」を読んだかどうかで戦争観が……と言うと極端かもしれないが、ゲンが家族を失う悲壮な描写、ガラス片が突き刺さり皮膚がただれた被爆者たちの姿、自称“愛国者”たちの醜い言動、被爆症状の恐怖……それらは深く私たちの脳裏に刻まれ、DNAに刷り込まれている。
『はだしのゲンはまだ怒っている』全国公開中
分断と対立を煽る政治家、国家と自己同一化する民衆、迫害される社会的弱者。“あたらしい戦前”という声も聞こえてくる昨今、その懸念と逆行して学校図書館での閲覧制限を求める声が上がり、広島市の平和教材から消えるなど、今も「はだしのゲン」は大きな議論を呼んでいる。
「戦争」を描くうえで“過激な描写”を避けることはできない。悲惨な身体損壊も、戦後のゴタゴタも何もかも、6歳で被爆した作者・中沢啓治氏の実体験である。「Barefoot Gen」として世界中で絶大な知名度を誇る、そんな名作漫画をめぐる現状をあらためて見つめたドキュメンタリー『はだしのゲンはまだ怒っている』が全国で公開中だ。
戦争を正しく知ること ~被害者、そして加害者として~
2024年、中沢氏は手塚治虫や宮崎駿、大友克洋、水木しげるらと並び、米コミックの権威アイズナー賞の殿堂入りを果たした。ハリウッド大作『エターナルズ』や『オッペンハイマー』が描けなかった<原爆の本当の恐ろしさ>を伝えているのが、漫画「はだしのゲン」であるという証しだ。
「家族の死」を描いた中沢氏の心中、「事実は“あの画”以上」と語る戦争経験者――被害者として戦争を受け止めると同時に、加害側としての歴史を正しく知ること。戦後80年、私たちは常に《それぞれのゲン》を心に宿らせておかなくてはいけない、と改めて思う。
『はだしのゲンはまだ怒っている』は広島・サロンシネマ、東京・ポレポレ東中野ほか全国順次公開中