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「父親は不用意に娘の体に触れない」「恋人いるの?とは聞かない」 子どもを幸せにするために“親がやってはいけない“こととは?〔専門家が解説〕

コクリコ

ソーシャルワーカー・鴻巣麻里香さんに聞く「小中学生の恋愛バウンダリー」第4回。親と子のバウンダリーの引き方。全4回

【読む➡】第3回 小中学生で妊娠!! 真っ先にやることとは? 親が子どもへ教えたい恋愛の境界線「バウンダリー」

スクールソーシャルワーカーとして、日々中高生の「困りごと」に向き合っている鴻巣麻里香さん。バウンダリーとは、「わたしはわたし、あなたはあなた」という心の境界線のこと。バウンダリーを正しく引き直すと、他者と安全でほどよい関係が築け、トラブルやモヤモヤに対処することが可能になります。その結果、生きやすさにもつながるのです。

では親は、子どもとの間にどんなバウンダリーを引けばいいのでしょうか。引き続き、鴻巣さんに教わります。

●PROFILE鴻巣麻里香(こうのす・まりか)
KAKECOMI代表、精神保健福祉士、スクールソーシャルワーカー。ソーシャルワーカーとして精神科医療機関に勤務し、東日本大震災の被災者・避難者支援を経て、2015年非営利団体KAKECOMIを立ち上げ、こども食堂とシェアハウス(シェルター)を運営。

「最近どう?」と子どもに関心があることを伝えて

大人同士の対等な関係とは違い、親子間ではより慎重にバウンダリーを引く必要があるようです。というのは、子どものほうが立場が弱いため、親がコントロールしてしまう危険性があるから。子どもには無関心でも、過干渉でもよくないとはよく聞きますが、一体どんなバランスで子どもと向きあえばいいのでしょう?

「無関心が続くと子どもが本音を話してくれなくなり、結果、過干渉になり、関わりの振り幅が大きくなってしまいます。私もそのように揺らいでしまうことがありました。

大切なのは、ほどよく関心をもつこと。『最近、何々さんとはどうなってるの?』『仲よくしてるけど、今ちょっとケンカ中』『そうなんだ。人生の先輩として話ぐらい聞くから、聞きたいことがあったら話して』くらいのスタンスです」(鴻巣さん、以下同)

子どもが話をしてくれないときは、「話したくないんだね。でも、話したいなと思ったら、いつでも言って」くらいにとどめ、無理に聞き出そうとしないこと。気になったら、「最近どう?」と様子をうかがってみるといいでしょう。

「困りごとを抱えている子どもに『何かあったら言ってね』と漠然と言っても『何かって、何?』と口を閉ざしてしまうんです。ですから『ちょっと困ったなとか、どうしたらいいかわかんないな、っていうときは聞いて』と言っておくと、話してくれる可能性が高くなります」

いくら気になっても、子どもの許可を得ずに勝手にカバンやスマホ、子ども机の引き出しを見ないこと。どうしても見てしまったときは、きちんと謝る必要があるのです。

「基本的に、スマホとカバン、机の引き出しは踏み込んではいけない領域。勝手に見ることは子どものプライバシーを侵害し、バウンダリーを踏み越える行為です。

子どもがいないときには、子ども部屋にも入らないほうがいいですよね。中学生になったタイミングぐらいで、部屋の掃除は自分でやるという約束をして、親はなるべく踏み込まないといいでしょう」

子どもと親の理想的なバウンダリーとは?

近年、親子関係がかつてより近い傾向があるようです。とくに「友だち親子」と言われるような母子関係に、デメリットはあるのでしょうか。

「母親が、娘に対してバウンダリーを引くことが大事だと思います。子どもが何でも話してくれるのはいいのですが、逆に親が子どもに何でも話すようになってしまうと、子どもをケアラーにしてしまう可能性があるのです。

つまり、親の悩みを娘が引き受ける関係性になりかねません。子どもが親と時間を一緒に過ごし、それを楽しいと思ってくれるのはいいこと。けれども、親以外の人と過ごす時間がきちんともてているかを、しっかり意識しましょう」

異性同士の父親と娘に関しては、父親がバウンダリーをとくに意識してほしい、と鴻巣さん。具体的には、不用意に娘の身体に触(ふ)れないことが大事だそうです。

「高校生の女の子で、『お風呂上がりにお父さんにマッサージしてもらう』とか『クリームを塗ってもらってる』という子もいるんですよね。でもこの場合、父親が線を引かなければいけません。子どもにとって、一番身近にいる異性は父親。夫婦はもちろん、家庭内の異性の距離感や関係性は、そのまま異性に接する際のロールモデルになるんです。

娘にとって父親の距離がすごく近いと、『私と男の人の距離はこのくらいでいいんだ』と認識してしまう。そこに兄か弟がいたら、『僕は、女の子に対してこうしていいんだ』と思ってしまうんですよ。その行為をしてよいかどうかは相手に聞くのが正解で、『どちらかが望まないことはしない』というのが正しいバウンダリーの引き方です」

同じように、両親がケンカ中に手をあげる、片方がもう一方を支配するなど、不健康なパートナーシップを続けていると、子どもはそのままロールモデルにしてしまう可能性もあるそうです。

「夫婦の間に、安全で対等な関係ができていることが大切。一方がもう片方を搾取したり危害を加えたりするだけでなく、どちらかが我慢を強いられるような関係が家庭の中にあれば、子どもは『そういうものなんだ』と思ってしまう可能性があるんですよ。

そうすると子どもは先々、不本意ながらも交際相手の言うことを聞いてしまったり、先輩や上司に命令されたら正しくなくても従うようになってしまうかもしれません。そうなると、本人は苦しくなってしまいますよね」

子どもの健やかな成長には、常にコミュニケーションがとれる夫婦関係を作っておき、一緒に子どもに関心を持つことが大事。さらに、大人が子どもに関する不安を持ったときには、夫婦間でちゃんと話すことも大切だといいます。

「『子どもが大変なことにまき込まれているかも!』となれば、不安だし怖いですよね。そういうときに夫婦で話し合えるのが、理想のパートナーシップ。子どもがどうこうではなく、『子どもの状況を見て、不安になっちゃったんだけど』という、お互いの感情をシェアすることも大切だと思います」

「いろんなケースを見ていると、何ごともなく娘が成人する、っていうのは奇跡に近いなって思いますね」と鴻巣さん。  写真:安田光優

子どもの恋愛は子どもにまかせるしかない!?

子どもの恋愛や友達関係、受験……、親は子どものさまざまなことで心配になりますが、過干渉にはなりたくはない。いつになれば、子どもにすべてをまかせられるのでしょうか。

「何歳であろうとも、親が支配したり干渉したりせずに、子どもにまかせるのが基本です。ただ、安心してまかせられるか、予防線を張りながらハラハラ見守るかは、子どもが困ったときに親を含めていろんな人に相談できているかで決まります。

子どもが自分一人で抱えずに、大人にヘルプを出すことができているなら、安心して眺めていてもいいかな、と思います」

どんな壁にもぶつからずに、ツラい思いもしないまま成人を迎える、という子どもはいないでしょう。親は、そのたびにハラハラしながらも、その成長を見守ることになります。

「失敗から学ぶことも多いと思うので、何か起きたときに、親が逃げずにちゃんと向き合うことが大事。恋愛は相手がいて、情緒的な部分が大きく、『ケンカしちゃった』『フラれちゃった』とか、『ひどいこと言われた』なんてことがよく起こります。

さらに性愛がからむと、妊娠や身体のダメージなどいろいろなリスクが生じてくる。親が自分の不安に対処するために、事前に『子どもにこういうトラブルが起きたら、こう行動する』とイメージして備えておくのもアリでしょう」

子どもが苦しむ言動は可能な限り避けて!

子どもに対して親から、「彼氏できないの?」「恋人ぐらいいないの?」などと、“恋愛リア充の呪い”を家の中に持ち込まないことも大事、と鴻巣さん。

「親も“リア充=恋人がいたほうが幸せ”という呪いにとらわれているんですよね。こんなふうに言われると、子どもは苦しくなってしまうんですよ。

もうひとつ、『シスジェンダー同士の男女の恋愛が当たり前である』というのも、私たちが何気なく家庭に持ち込みがちな古い固定観念。シスジェンダーとは、性自認と生まれついた性別が一致していることをさします。

もしかしたら子どもは、シスではなく、性自認と生まれついた性別が異なるトランスジェンダーかもしれませんし、同性が恋愛対象かもしれません。固定観念による決めつけは知らず知らずのうちに、子どもを苦しめている可能性があることを、知っておいてください」

子どもも含めジェンダーマイノリティの恋愛事情は、とても複雑。「性愛の対象としての性別」は組み合わせが多種多様なのです。

「シス男性とシス女性ならば、なんとなくの雰囲気でお互い付き合って交際を深めていけますよね。でもジェンダーマイノリティの場合は、付き合う前にマッチングというプロセスが必要です。

『自分が好きになった人が、シスジェンダーでない自分の心と身体を、きちんと受け入れてくれるのだろうか』と、恋愛に対して希望が持ちづらい。なかなか声を出せずに、モヤモヤや不安を抱えている子どももいるんです」

ジェンダーマイノリティでなくても、恋愛における試練は多く待っていることでしょう。そんなとき、親は見守ることしかできません。

「苦しいことは放っておいても自然に経験するので、子どもが苦しむとわかっていることをあえてしない。親だって完璧ではないので、よかれと思ってやったことが、結果的に子どもを苦しめることはよくあります。ですから、少なくとも過干渉や傷つく発言など、ブレーキがかけられる部分はかけて、子どもの成長を見守っていけるといいですよね」

=・=・=・=・=・=・

4回にわたって、ソーシャルワーカーの鴻巣さんに小中学生の恋愛と大人の関わりかたについて伺いました。

小中学生の「恋愛」は、大人による「リア充」の刷り込みの結果であること、進み方によっては将来の恋愛に影を落としかねないことがよくわかりました。けれども、子どもとの関わり方やバウンダリーの引きかたを見なおす、絶好のチャンスにもなるようです。

恋愛にかかわらず、子どもが親や信頼できる大人に「困りごと」を相談できているかどうかが重要。子どもがさまざまなトラブルに巻き込まれる前に、そうした関係性を築く必要があるでしょう。

子どものバウンダリーを踏み超えていないか、この機会に振り返ってみるといいかもしれません。

取材・文/萩原はるな

10代の生きづらさとその解決策をリアルなエピソードとともに紹介した『わたしはわたし。あなたじゃない。10代の心を守る境界線「バウンダリー」』(出版:リトルモア)。2024年9月発売から1ヵ月弱で重版に。

★編集部おすすめの1冊★

中学3年の女子・ハルは、同級生の女子・アキラのことが好きになった。アキラを好きになったことで、ハルはうすうす感じていた“女の子が好き”という自分の気持ちを確信し……。第59回講談社児童文学新人賞佳作受賞作。

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