あなたは何を歌った?【1990年代の卒業ソング】SPEED、ミスチル、Kiroro、B'z…
ミリオンヒットが続出した90年代、百花繚乱の卒業ソングも人気を博した
1985年春。「卒業」という同じタイトルの曲が、尾崎豊、斉藤由貴、菊池桃子、倉沢淳美の計4人によってリリースされ大きな話題に。毎年春が近づくと共に必ず卒業ソングが発売されるようになったのは、この年の出来事があってからだ。卒業ソングは、クリスマスソング、桜ソングと並ぶ季節の風物詩であり、定番のテーマといえよう。今回は1990年代にリリースされた卒業ソングの中から、時代を象徴する5曲を選んでみたのでお楽しみいただきたい。
青春のまっすぐな思いが飾らない言葉で表現されたヒスブル最大のヒット曲
第5位:Hysteric Blue「春~spring~」
1999年1月にリリースされ、CD売上枚数は66.7万枚を記録。ヒスブル最大のヒット曲となり、この年の大晦日には紅白にも初登場した。ボーカルのTamaはいかにも90年代を思わせるキンと抜けた声質で、軽やかでありながら力強さを感じさせる。作詞作曲はドラムのたくや、編曲はプロデュース担当の佐久間正英。静かで切ない始まりから、サビ前の盛り上がり、そして「♪こういう夢ならもう一度逢いたい」という、主人公の決意を高らかに歌い上げる場面まで、どれもが素晴らしい。「♪授業よりも 食事よりも もっと大切なコト “私…歌が好き…”」という歌詞は、青春のまっすぐな思いが飾らない言葉で表現され、まぶしさに目が眩むほどだ。“こういう夢” を一度は叶えた少女のバンドが、結果的に短命に終わってしまったことは残念でならない。もっと長く売れてよいバンドだった。
名盤と名高いアルバム B’z「RUN」の中でもひときわ光る1曲
第4位:B’z「さよならなんかは言わせない」
B’zの6枚目のアルバム『RUN』に収録されている曲で1992年10月発売。名盤と名高いアルバムの中でも、ひときわ光る1曲だ。歌詞は稲葉浩志の大学の卒業式がモチーフになっており、離ればなれになってもまた再会できるという前向きなもの。テクニカルで、ギター小僧なら迷わずコピーしたくなるアコギのイントロに始まり「♪さよならなんかは言わせない 僕らはまた必ず会えるから 輝く時間を分けあった あの日を胸に今日も生きている」というサビに繋がる。4回も繰り返すこの歌詞が、この歌の全てを表現しているといえよう。卒業の寂しさを感じながら、それでもまた必ず会えると言い切ることで、乗り越えて前に進むんだという強い意思。もう1つ、歌詞の中で大きなポイントを挙げるとするなら「♪昔のことだけ輝いてる そんなクラい毎日は過ごしたくない」だ。卒業してからの方が、人生はずっと長いのだから。
不安を抱きながら未来へと旅立つ全ての若者を包み込む名曲
第3位:Kiroro「未来へ」
1998年6月発売のシングル。ボーカルの玉城千春が中学3年生の時に初めて作った曲で、風邪をひいた母親を重病だと思い込み、思い出の曲をプレゼントしようと思ったことがきっかけだったという。サビ始まりで「♪ほら 足元を見てごらん これがあなたの歩む道 ほら前を見てごらん あれがあなたの未来」と、母親が我が子に語って聞かせる物語。直接的に卒業を歌ったものではないが、中学や高校の音楽の授業や合唱コンクールでもよく歌われ、「未来へ」というタイトルもあって卒業ソングとして位置付けられている。
大ラスで「♪未来へ向かって ゆっくりと歩いて行こう」と終わることも、合唱向きで卒業にふさわしいといえよう。また結婚式で両親に贈る歌としてもよく使われており、あらゆる人生の岐路に当てはまるユーティリティの高い1曲だ。母から子へと受け継がれる愛情が、不安を抱きながら未来へと旅立つ全ての若者を包み込む。
卒業のシーンにもぴたりとハマるミスチル通算10作目のミリオン
第2位:Mr.Children「終わりなき旅」
1998年10月に発売された15枚目のシングル。1990年代のミスチルは1993年の「CROSS ROAD」に始まり、翌年の「innocent world」「Tomorrow never knows」。そして「シーソーゲーム 〜勇敢な恋の歌〜」「名もなき詩」など、ミリオン、ダブルミリオンを連発した無双の時代。「終わりなき旅」は累計107万枚を売り上げ、通算10作目のミリオンとなった。
この時期、生きる力を与えてくれる “これぞ決定版” といえる曲ばかりを次々に書き続けた桜井和寿だが、その中でもこの曲は、フレーズの1つ1つが力強く希望に満ちている。「♪高ければ高い壁の方が 登った時気持ちいいもんな」「♪誰の真似もすんな」「♪生きる為のレシピなんてない」。こうした言葉の数々に、どれだけの人々が力をもらったことだろう。サビの「♪閉ざされたドアの向こうに 新しい何かが待っていて きっときっとって 僕を動かしてる いいことばかりでは無いさ でも次の扉をノックしたい もっと大きなはずの自分を探す 終わりなき旅」は、卒業のシーンにもぴたりとハマる。
1990年代を代表する卒業ソングとなったSPEEDの代表曲
第1位:SPEED「my graduation」
1998年2月発売。140万枚以上の売り上げを記録し、SPEEDの代表曲であると同時に1990年代を代表する卒業ソングとなった。1996年に「Body&Soul」でデビュー。あっという間にスターとなったSPEEDの、まさに絶頂期の1曲である。「♪ずっと忘れない 離れてもくじけない 生きていく 今日から」のサビでキーが下がる珍しい構造となっており、それによってグッと力強いメッセージを感じさせる。言葉の中身も、卒業を迎えた当事者に刺さったことだろう。カラオケBOX全盛の時代でもあり、卒業して離ればなれになる友達同士が泣きながらみんなで歌うシーンがあちこちで見られたに違いない。
ただし、タイトルは “私の卒業” であり、歌詞全体を通してみると “学校からの卒業” を歌っているわけではない。これは、1990年代の卒業ソング全般にいえる傾向だ。1980年代卒業ソングは卒業式そのものの風景や最後に出て行く校門、黒い円筒のケースを手にした学生の姿などが目に浮かぶが、1990年代にはそれがあまり見られない。もっとファジーで、広い意味での卒業を歌ったものが多いといえる。
共通しているのは、いずれも時を超えて長く歌い継がれているということだ。人生の節目にはいつも歌があり、その大きな節目のひとつである卒業を歌う曲に名作が多いことは、必然といえよう。