福岡市が大躍進している成長エンジンは国家戦略特区だった!?
天神ビッグバン、スタートアップ支援、多彩な社会実験……。住みやすい都市としての定評に加えて、元気なまちとしても知られる福岡市への評価と人気は、最近10年間でさらに高まっています。なぜ、福岡市は、元気なまちになったのでしょうか? 今回、福岡市の成長を下支えするある政策に注目してみました。
最近10年の福岡市の人口増は主要都市で首位、地価は倍増…
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『住みたい街(自治体)ランキング』で5年連続の第1位、『2023年:住基台帳人口動態』で日本人住民増加数で第1位、『世界の都市総合力ランキング2023』で世界第42位・国内第3位、『日本の都市特性評価』で第5位、NY紙『2023年に行くべき52カ所』に選出、『海外旅行での都市目的地トップ100』2023年版にランクイン……。
近年、住みやすい都市であり、成長著しい福岡市への評価と人気が高まっている。
福岡市における〝都市の成長〟については、データ上でも明らかだ。
2014年10月1日現在で152万4053人だった福岡市の推計人口は、2024年9月1日現在で8.67パーセント増の165万6221人まで増えている。
この伸び率は、同期間の東京都23区の7.63パーセント増を上回り、日本の主要都市で最も高い数字だ。
一方、福岡市の公示地価も直近10年間で大幅に高まっている。
福岡市における商業地の「最高」公示地価は、2014年の592万円から2024年の1180万円への99.3パーセント増であり、ほぼ倍増だ。
また、住宅地の「平均」公示地価も同11万6800円から同21万7200円となり、86.0パーセント増となっている。
2014年度に名目7兆3000億円(実質7兆3400億円)だった福岡市の市内総生産は、コロナ禍前の2018年度は同7兆8600億円(同7兆7700億円)、2019年度は同7兆8400億円(同7兆6900億円)まで拡大した。
その後のコロナ禍で市内総生産は低迷したものの、福岡市(博多港・福岡空港)の貿易額は着実に伸ばしている。
福岡市の貿易額のうち、2014年に2兆5886億円だった輸出額は、2023年の速報値で73.2%増の4兆4844億円まで増えた。
一方、輸入額も同1兆4605億円から同58.5%増の2兆3143億円へと拡大している。
さらに2014年度の福岡市一般会計において2821億円(決算額)だった市税は、2024年度の一般会計予算では31.4パーセント増の3706億円を見込む。
最近10年間における福岡市の躍進を支える〝成長エンジン〟として、2014年5月に指定された国家戦略特区『グローバル創業・雇用創出特区』の存在は見逃せない。
国家戦略特区のルーツは中国の経済特区
日本にある3種類の特区
今年2024年は、福岡市が国家戦略特区に指定されて10周年の節目の年となる。
国家戦略特区自体は、そもそもどのような背景で誕生したのだろうか。
『特区』とは、『特別区域』の略称であり、地域を限定して規制緩和や特例措置を行うことで特定分野の事業を重点的に推進していく政策だ。
その発想自体は1979年、中国の改革・開放政策下で深圳・珠海・油頭・厦門に設けられた『経済特区』に由来する。
経済特区では、外資系企業に輸出入関税の免除や所得税の3年間据え置き、さらに100%外資の法人設立認可などを認めた結果、外国資本の進出が相次いだ。
外貨や技術の獲得に成功した中国は以後、経済大国への道を歩み始めた。
一方、日本における特区としては、『構造改革特区』『総合特区』『国家戦略特区』の大きく3つが挙げられる。
日本で最初に導入された特区は、構造改革を推し進める小泉内閣による『構造改革特区』(2002年)だった。
その後、野田内閣において規制緩和に加えて税制・財政・金融などの支援措置を受けられる『総合特区』(2011年)が設けられた。
そして、アベノミクスによる成長戦略の一つとして、『国家戦略特区』が2013年12月、安倍内閣によって創設された。
国家戦略特区は『アベノミクス』の〝第3の矢〟として誕生
国家戦略特区は、安倍内閣の経済政策である『アベノミクス』の〝第3の矢〟として、2013年6月に策定された成長戦略『日本再興戦略』に盛り込まれていた。
従来の特区は、地域発のアイデアや地域活性化を重視していた。
これに対して、国家戦略特区では首相を中心とした『国家戦略特区諮問会議』によるトップダウン形式で国際競争力の向上を目指すという国主導のプロジェクトとなっている。
諮問会議において改革の方向性や特区の地域を指定した後、国・地方公共団体・民間事業者で構成された『国家戦略特別区域会議』で具体的な規制や事業を検討・実施していく。
そして、国の成長にインパクトを与える重点分野として《医療》《雇用》《教育》《都市再生・まちづくり》《農業》《歴史的建築物の活用》を位置づけていた。
国家戦略特区の第一陣は2014年3月、第4回国家戦略特区諮問会議において全国6地域が指定された。
東京圏の『国際ビジネス、イノベーションの拠点』、関西圏の『医療等イノベーション拠点、チャレンジ人材支援』、新潟市の『大規模農業の改革拠点』、兵庫県養父市の『中山間地農業の改革拠点』、沖縄県の『国際観光拠点』、そして福岡市の『創業支援のための改革拠点』(創業特区)だった。
福岡市で国家戦略特区『グローバル創業・雇用創出特区』誕生の背景と経緯
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2013年8~9月における国家戦略特区の募集に際して、『新たな起業と雇用を生み出すグローバル・スタートアップ国家戦略特区』を提案した福岡市は、2000年から創業者向けに低価格で事務所を提供するインキュベート事業を立ち上げていた。
その後2012年に『スタートアップ都市』を宣言し、国内外のスタートアップ企業と地元企業とのマッチングや人材育成、異業種交流などに取り組んできた実績があった。
一方、福岡市における開業率や人口増加率は、政令指定都市の中で最も高く、若者率の高さやビジネスコストの安さ、アジア向け航空路線をはじめとする国際的な交通ネットワークの充実度なども国家戦略特区に選ばれた背景として挙げられる。
その半面、当時の福岡市では、都心部の更新期を迎えたビルの建替えが進んでおらず、古いビルが多かった。
一般財団法人日本不動産研究所の『全国オフィスビル調査』(2014年1月現在)によると、新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルストックについて、福岡市は42%だった。この数字は、調査対象である日本の三大都市および主要9都市において最多であり、札幌市41%、京都市38%、大阪市34%を上回っていた。
また、当時の福岡市では、〝支店経済〟的な側面も強く、福岡アジア都市研究所発行の『Fukuoka Growth 集約版(2013-2014)』では、下記のように記していた。
「福岡市は、大企業の支社や支店も多く、雇用面で大きく貢献しているほか、九州における司令塔機能や、アジアへの玄関口としての拠点機能など、福岡市に事業所を置く優位性が、多くの企業等に認識されているものと考えられます」
2014年5月の国家戦略特区指定を踏まえて、福岡市の高島宗一郎市長は、2015年度の市政運営方針において、「国家戦略特区という推進エンジンを活かし、新しい価値の創造を福岡市がしっかりバックアップするとともに、中期的には支店経済からの脱却をめざして、未来に向けた『都市の成長』の種をしっかり育てます」と述べた。
全国に16区域ある国家戦略特区。認定事項は156、認定事業は478
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日本における国家戦略特区の指定は、2024年9月時点で16区域であり、国家戦略特区で実現できることは、「規制緩和の特例をつくる」「規制緩和の特例をつかう」の2つが挙げられる。
国家戦略特区では、自治体や民間事業者から提案された事項が、特例措置として認められると、特区エリア内において認定事業としての活用が可能になる。
そして、特例措置のうち、高く評価された認定事業は、全国的に展開していく仕組みだ。
内閣府地方創生推進事務局によると、国家戦略特区で規制改革された事項は、2024年6月時点で156事項(全国展開を含む)、認定事業数は同478事業となっている。
福岡市の『グローバル創業・雇用創出特区』の取り組みと成果
都市の成長と生活の質の向上の好循環を創り出す━━。
福岡市では、2013年4月からスタートした現行の第9次総合計画において基本戦略として打ち出す。
そして2014年5月、国家戦略特区『グローバル創業・雇用創出特区』に選ばれた福岡市では、同資料において、「国の規制改革に市独自の施策を組み合わせて事業を推進することで、福岡市の経済発展を加速させています」とする。
国家戦略特区がスタートして丸10年が経過した2024年7月末時点における、福岡市での規制改革事項の活用数は23を数え、特区自治体中で第3位となっている。また、認定事業数も68であり、同じく第2位だ。
福岡市における規制改革事項の活用数23のうち、福岡市が提案したことで全国的に緩和された事項は、下記の3つだ。
◎航空法高さ制限のエリア単位での特例承認
◎特定実験試験局制度に関する特例
◎エリアマネジメントに係る道路法の特例
同じく福岡市における規制改革の事項活用数23のうち、福岡市からの提案に基づいて、特区内において緩和されている事項は、次の通りだ。
◎創業人材の受入れに係る出入国管理及び難民認定法の特例(スタートアップビザ)
◎外国人エンジニア就労促進に係る在留資格認定証明書交付に関する特例(エンジニアビザ)
◎雇用労働相談センターの設置
◎特定事業実施法人の所得に係る課税の特例(スタートアップ法人減税)
天神ビッグバン、FGN、ほこみち……。福岡市が国家戦略特区で実現したモノゴト
福岡市が、国家戦略特区諮問会議に対して提案した結果、国家戦略特区のエリア内における特例措置として認められた事項として、どのような事業があるのだろうか。
そして、特例措置として高く評価された結果、全国的に展開できた事業は、どのような事項だったのか。福岡市の『グローバル創業・雇用創出特区』における【福岡市提案】分、そして【全国展開】分などについて、まとめてみた。
航空法の高さ制限の特例によるまちづくり【福岡市提案】【全国展開】
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航空法では、空港に近いエリアの建物に高さ制限があり、制限を超える建物の建築では、建物ごとに高さ制限の緩和承認が必要だったが、国家戦略特区を活用し、一定のエリア単位での高さ制限の緩和承認が可能となった。
また、この機を逃すことなく、福岡市独自の容積率の緩和などを組み合わせることで、民間投資を喚起し、建物の更新が一気に進んでいる。2021年9月、特区での実績が評価されて全国で活用できるようになった。
道路空間を活用した賑わいづくり【福岡市提案】【全国展開】
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道路法では、道路上での看板やオープンカフェの設置は、道路外に空きスペースがある場合、原則として認めていなかった。
福岡市からの提案に基づき、一定の要件を満たすと、空きスペースの有無に関わらず、看板やオープンカフェなどを設置でき、路上イベントが可能となった。
2022年3月、特区での実績が評価されて全国で利用可能な『ほこみち』制度が創設されている。
スタートアップビザ【福岡市提案】
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出入国管理及び難民法では、外国人が創業するための在留資格に入国時に2つの要件が必要とされ、大きなハードルだった。
福岡市からの提案に基づき、自治体が事業計画を認めれば、入国時に創業要件が整っていなくても6カ月間の「経営・管理」ビザが認められるようになった。
創業する外国人は事業をしながら、その期間に必要な要件を整えることができるようになった。
エンジニアビザ【福岡市提案】
出所:『全国初! エンジニアビザ制度運用開始~ 外国人エンジニアの在留資格審査期間が大幅短縮! ~』(画像提供:福岡市)
スタートアップや中小企業が、外国人エンジニアを雇用する場合、在留資格の審査に1~3カ月程度を要していた。
福岡市からの提案に基づき、特区内の自治体による雇用先企業の経営状況などの事前確認を条件に、在留資格審査を約1カ月まで短縮。
雇用先企業は外国人エンジニアを早期に入国させることができるようになっている。
スタートアップ法人減税【福岡市提案】
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特区内で設立5年未満のスタートアップが革新的なビジネスを展開する場合、必要な要件を満たせば、国税および市税の軽減措置を受けられる。
福岡市からの提案に基づき、国税の軽減措置が創設された。
あわせて福岡市も独自の市税軽減措置を設けている。
国税の軽減措置と共に独自の軽減措置を実施する自治体は、全国の自治体で福岡市のみだ。
なお2024年9月現在、国税で2社、市税で4社に適用した。
ロッカーを利用したクリーニング衣類の受け渡しサービス【福岡市提案】【全国展開】
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クリーニング業法では、下着やタオルなどを伝染病で感染源のおそれのある指定洗濯物としており、ロッカーでの取り扱いを認めていなかった。
そこで、2019年9月、福岡市は衛生管理や消費者保護の対策を講じることを条件に、ロッカーを利用した受け渡しが可能となるよう規制緩和を提案。
国との協議を重ねた結果、福岡市では独自の基準を策定し、事業が実施可能な環境を整備することでロッカーを利用した下着やタオルを含む洗濯物の受け渡しサービスが、全国で初めて福岡市で始まった。
オンラインによる服薬指導【全国展開】
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薬機法(旧薬事法)では、対面での服薬指導が義務付けられていた。
このため、患者はオンライン診療でも、薬局へ出向くか、薬剤師の訪問を必要としていた。
福岡市は2018年7月、全国で初めて保険医療制度でのオンライン服薬指導を実施した。
2022年3月、特区での実績が評価され、全国で活用できるようになった。
FGN(Fukuoka Growth Next)
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FGN は、豊かな未来を創造するアイデアを持ったスタートアップ企業を支援する官民連携型のスタートアップ支援施設である。
グローバル創業・雇用創出特区である福岡市からの支援をはじめ地元企業との連携などによる、育成プログラムの提供やグローバルアクセラレーターとの連携、さらに資金調達機会の創出をサポートしている。
2017年の開設以降、入居企業の資金調達額は、2024年3月末時点で98社422億円となっている。
スタートアップの人材確保支援
福岡市では、スタートアップ企業の初期段階における即戦力人材の確保に向けて、福岡市職員のスタートアップ企業への転職を応援するための制度を設けている。
同制度では転職後3年以内であれば、転職先から福岡市への復職が可能となっている。
国家戦略特区にみる、福岡市でのこれまでの10年・これからの10年
今年・2024年は、福岡市が国家戦略特区に指定されて10周年という節目の年であると共に地方創生の取り組みが本格的に始まってからも10周年となる。
地方創生を担う『まち・ひと・しごと創生長期ビジョン』『まち・ひと・しごと創生総合戦略』は2014年12月27日、第3次安倍内閣において閣議決定した。
福岡市における国家戦略特区として、これまでの10年間の振り返りと共に今後に向けた展望について、福岡市総務企画局企画調整部の山口正和企画課長は、次のように語っている。
山口正和企画課長
福岡市では、スタートアップビザやスタートアップ法人減税、航空法の高さ制限の緩和と市独自の容積率緩和を組み合わせた『天神ビッグバン』など、特区の規制緩和を活用して、国内外から多様な人材や企業を呼び込める環境づくりをソフト・ハードの両面で行い、新しい価値の創造にチャレンジする企業を支援しています。
また、全国に先駆けて実施した、オンラインによる服薬指導をはじめ市民ニーズに寄り添った取組みを進めてきました。
こういった都市の成長や生活の質の向上のまちづくりに取り組んできたことで、多くの人や企業から「住みたいまち」や「ビジネスの拠点」として福岡市を選んでいただけるようになったと考えています。
人の価値観や社会のニーズが大きく変化する時代にしっかり対応していくため、国家戦略特区をフル活用して、最先端テクノロジーを活用した社会課題の解決や、新たなビジネスにチャレンジする企業の取り組みを全力で後押ししていきたいと考えます。
福岡市総務企画局企画調整部の山口正和企画課長
安倍政権下で誕生した国家戦略特区は、その後、菅政権、岸田政権へ受け継がれてきた。
時の政権の移り変わりと共に浸透してきた国家戦略特区が今後、どのように展開していくのか注目される。
国家戦略特区に指定されて以降の10年間で〝都市の成長〟を大きく伸ばしてきた福岡市は、今後10年において、どのような展開をみせていくのだろうか。
現在、12年ぶりに改定の取り組み、来年2025年4月から新たなスタートを切る第10次福岡市基本計画の動向もにらみながら、今後の取り組みに期待していきたいと考える。
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参照サイト
福岡市『国家戦略特区 福岡市グローバル創業・雇用創出特区』
https://www.city.fukuoka.lg.jp/soki/kikaku/fukuoka_tokku_top.html
内閣府地方創生推進事務局『国家戦略特区』
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/index.html
福岡市経済観光文化局『福岡市経済の概況』(2024年3月)
https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/46140/1/keizainogaikyo.pdf?20240328161751
内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局・内閣府地方創生推進事務局『地方創生10年の取組と今後の推進方向』
https://www.chisou.go.jp/sousei/meeting/chisoudecade/pdf/chisoudecade_honnbunn.pdf
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