新大久保で買った『サムゲタンの素』がどう見ても「ただの木」だった件 / 鶏と木をじっくりコトコト煮込んだ結果
新大久保の韓国食材店で『参鶏湯(サムゲタン)の素』を購入したはいいが、中身がどう見ても “木そのもの” であったことには、さすがの私も驚きを隠せなかった。
韓国料理には漢方とか薬膳とか、そういうニュアンスが含まれる場合も多い。よって「この木っぽいものも参鶏湯の材料の一部である」という話なら、大いに納得がいく。しかしながら“オンリー木”ってのはさすがに……マジなの?
まぁ参鶏湯を作った経験は1度もないので、私が無知なだけという可能性も大いにありえる。レシピ通りに木で鶏を煮込めば、本当に参鶏湯は完成するのだろうか?
・材料、ガチでこれだけ
こちらが新大久保で普通に売られている参鶏湯の素。
これまで参鶏湯とは無縁の人生を送ってきたが……
わずかに透けて見える中身が「どう見ても木」だったため、気になりすぎて購入に至ったというワケだ。開封してみると……
やはり「どう見ても木」であった。
唯一、木じゃなさそうだったのは「干しナツメ」。ナツメは生食のほかジャムに加工したり、漢方薬としても使われる果実らしい。
その他の木っぽいヤツの正体は、説明欄によると「ハリギリ幹」「ケンポナシ幹」「ウコギ枝」「クワ枝」……うん、木だね!
『調理方法』の欄には「にんにく、長ねぎ、朝鮮にんじん、しょうがなどを加えるとよい」と書かれているが、「参鶏湯セットだけでもOK」ともある。ならばこれと鶏肉さえあれば理論上、参鶏湯は完成するはずだ。
・作り方、ガチでこれだけ
作り方は、まず鶏を丸ごと1羽鍋に入れ「かぶるくらいの水」を注ぐ。
鍋のサイズによって「かぶるくらいの水」の量は全然違ってくる気もしなくないが、深く考えるのはよそう。
そこへ参鶏湯の素を全投入し……
火にかける。それだけ。
ややあって編集部全体に漂い始めた香りが気になったのか、鍋をのぞき込むサンジュン記者。在日韓国人の彼は、当然ながら参鶏湯に関する知識をそれなりに有している。
「俺の知ってる参鶏湯とは違うような……?」と聞こえた気もしなくないが、深く考えるのはよそう。
・(たぶん)完成〜!
20分後……
吹きこぼれが起きたので火を最弱にし、コトコト煮込む。鼻を近づけると森林の匂いがした。ルームフレグランスでいう『ウッディ』みたいな感じ。ヒーリング効果がありそう。
40分後……
う〜ん。参鶏湯ってもっとこう、白濁してる印象があるんだけど……現段階では “ちょっと油が浮いた湯” って感じである。もっと煮込む必要があるのだろうか。
そして規定MAXの60分を10分オーバー、70分間煮込んだものが……
コレ。
白濁が進行した様子はないが、ある程度煮詰まった感はある。
オタマでそっと触れれば、鶏肉はホロロ……と骨から剥がれた。この日初めて「おいしそう」という感情が芽生えた瞬間。
・それはそうと……
それはそうと、ここへきて私はある重大な事実に気づいた。
それは「私、もしかすると参鶏湯を食べたことがないかもしれない」ということ。流れで口にしたことはあるかもしれんが、少なくとも自らの意思で参鶏湯を注文したことは1度もない。よって今さらだけど私、参鶏湯の味が分からない。
慌てて私はスーパーで『参鶏湯の素』を買ってきた。これは鶏肉を入れて加熱すれば参鶏湯が完成するという出来合いのスープ。同じ参鶏湯の素でも新大久保のソレとは全く異なる。
スーパーで買ってきた参鶏湯を飲んでみると「よくある中華スープ」って感じ。ショウガが効いてておいしいけど、イメージしてた参鶏湯とはだいぶ違うなぁ。
で、問題の手作り参鶏湯を食べた私の顔が……
こちらになります。
・助けて! 有識者
いやぁ、市販のヤツとあまりに違って思わず無言になっちゃった。この複雑な味を無理矢理なにかに例えるとすれば、何だろう? 「森に油を混ぜた味」? 一切の調味料を使っていないワケなので、普通の基準でウマイ・ウマクナイを論じることはできない。とにかく深い味だ。深すぎると言っても過言ではないだろう。
なお、手作り参鶏湯を飲んだ中澤記者の顔はこちら。
中澤「もちろんウマくはないですけど、かといってマズいというわけでもないです。ただただ、ひたすら健康によさそうな味がします」
結局これは参鶏湯なのか、参鶏湯じゃないのか? こうなってはもはや、あの男に頼るほかに道はない。
サンジュン「前提として、こんなにおいしくない参鶏湯を食べたことはない。とはいえ、これが参鶏湯じゃないかというと、参鶏湯の雰囲気はあるよ。要するに鶏のダシをうまく取れてない作り手の責任だな。
鶏でも豚でも、骨が入ってるスープって強火で煮ると白く、弱火で煮ると透明になるんだよ。そもそも参鶏湯って1時間やそこら煮た程度じゃ足りないハズだし、材料じゃなくて作り方の問題。精進せよ」
サンジュン「それより、この市販の出来合いのヤツ。こっちに関しては参鶏湯の雰囲気を1ミリも感じない」
……とのことであった。頼もしい男。
余談だが手作り参鶏湯を醤油、塩、コショウでアレンジしたところ、大変エキゾチックでおいしいスープが完成した。しかし商品の「作り方」欄にそのようなアレンジが記載されていない以上、この方法はズルということになる。
いつか鶏と木だけでおいしい参鶏湯を作れる女になりたい……そう願わずにいられない初夏の昼下がりであった。
執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.