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2025年7月、ヒューストン・バレエ待望の再来日決定!名バレリーナ加治屋百合子&アンバサダーの野口聡一が記者会見~『ジゼル』&ガラ公演を東京と愛知で上演

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左から 加治屋百合子 野口聡一 Photo:Hidemi Seto ⒸKORANSHA

2025年7月3日(木)~12日(土)、全米トップクラスの実力と規模を誇るヒューストン・バレエが、2022年に続いて待望の再来日を果たす。東京文化会館と愛知県芸術劇場を舞台に、バレエ団の芸術監督にして世界的な著名振付家スタントン・ウェルチが手がけた名作群を披露。『ジゼル』全2幕とウェルチの傑作集「オープニング・ガラ」共に大きな話題を呼びそうだ。公演に先立ち記者会見が行われ、プリンシパル(最高位ダンサー)の加治屋百合子、特別ゲストで来日公演アンバサダーの野口聡一(宇宙飛行士)が登壇した。

■エンターテインメント性に富み、技術はハイレベル&表現力も豊か!

2022年10月の初来日ではウェルチ版『白鳥の湖』で魅せたヒューストン・バレエ。2回目の来日では2演目を上演する。アメリカのバレエ団の来日は貴重だ。主催は光藍社、愛知公演は同社と愛知県芸術劇場(愛知県文化振興事業団)。ダンサーとスタッフ総勢約80名が来日する大型海外招聘公演で、信越化学工業株式会社、ダイキン工業株式会社の協賛、アメリカ大使館の後援を得て実現する。

会見は白木あゆみが司会進行。最初に加治屋が来日公演への思いを語り、続いて長年ヒューストン在住だった野口がヒューストン・バレエの魅力や加治屋との交流について話した。

加治屋は2000年にローザンヌ国際バレエコンクールでローザンヌ賞を受賞後、カナダ国立バレエ学校で学ぶ。2002年より15年間ABT(アメリカン・バレエ・シアター)に在籍し、ソリストとしても活躍。2014年にファースト・ソリストとしてヒューストン・バレエに入団後、翌年プリンシパルに昇格した。2020年に芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

加治屋はヒューストン・バレエの特色について「アメリカのバレエ団なので、エンターテインメント性の高い作品の構成になっている」と話る。そして「ダンサーたちの技術がもの凄く高い」と自負。芸術監督のウェルチは「コール・ド・バレエ(群舞)にもプリンシパルのように高い技術を求めるので、それがバレエ団自体のレベルを上げている」と説明する。と同時に「表現力を求められる作品が多い」「全幕作品ではドラマ性を求める演出が多い」と補足した。

加治屋百合子 Photo:Hidemi Seto ⒸKORANSHA



■ウェルチ版『ジゼル』はドラマティック&エモーショナル!

『ジゼル』全2幕はロマンティック・バレエの名作をウェルチが新振付。2016年に初演され、2019年の再演を経て3度目の上演となる。ウェルチが加治屋にインスパイアされて創り上げ、加治屋にとっても『ジゼル』のヴァリエーション(ソロ)を踊りローザンヌ国際バレエコンクールで入賞するなど「思い入れのある作品」で「日本で全幕を踊りたいと願っていた」と喜ぶ。タイトルロールを東京(※7/5夜7時公演)と愛知で踊る予定だ。

ウェルチ版『ジゼル』は、音楽が通常上演されている版よりも長く「他ではあまり聴いたことのないような場面もあるので、ストーリーをよりフォローしやすくなっています」。最大の特徴は、第1幕の最後、愛する人に裏切られたジゼルが狂乱する場面で、通常よりも「2倍どころか3倍くらい長い」こと。「葛藤する時間がとても長くて、1幕が終わった時点で気持ちを全部出し切るので大変ですが、ジゼルの葛藤がどう第2幕につながっていくのかを、お客様もよりフォローしていただき、感情が入りやすくなっているのではないか」と語った。

ヒューストン・バレエ『ジゼル』
ヒューストン・バレエ『ジゼル』



■名匠ウェルチの代表作を集めた「オープニング・ガラ」にも期待!

「オープニング・ガラ」は、ウェルチ傑作集で3部構成全5演目。第1部は『クリア』。第2部は『シルビア』より、『蝶々夫人』より、『魂の音』より。第3部は『ヴェロシティ』。加治屋は『蝶々夫人』を踊ることが決まっている。「全幕ではないですがパ・ド・ドゥとして日本で踊ることができるので楽しみです」とほほ笑む。全2幕構成のうち第1幕の最後の場で「蝶々夫人とピンカートンが一緒になって踊る幸せいっぱいのシーンのパ・ド・ドゥ」である。「スタントンの作品ならではのとても高度なパ・ド・ドゥの技術と、アクロバティックのようなリフトが入りますが、それを感じさせない感情表現力や音楽の使い方が上手で素晴らしい」とアピールした。

加治屋百合子 Photo:Hidemi Seto ⒸKORANSHA

『クリア』は加治屋がABTのスタジオカンパニーに入って1年目にウェルチがABTのために創った作品で、男性7名と女性1名が踊る。女性パートのオリジナルキャストを現在ウェルチと共同でヒューストン・バレエ芸術監督を務める往年の名花ジュリー・ケントが踊った。「舞台から感じられるエネルギーと音楽性、ダンサーのよさに鳥肌が立って感激しました」と当時の印象を語る。『シルビア』よりも全幕からの抜粋となるパ・ド・ドゥだ。「コミカルで、ユーモアが入るパ・ド・ドゥなので可愛らしい。くすっと笑えたりする部分もあるので楽しんでいただければ」。『ヴェロシティ』は「高い技術とダンサーそれぞれの良さが光る作品。「ヒューストン・バレエのダンサーはこんなにも技術が高いんだ!」と感じていただけるでしょう」と紹介した。

ヒューストン・バレエ『蝶々夫人』より
ヒューストン・バレエ『クリア』



■アメリカ屈指の大バレエ団で日本人ダンサーが大活躍!

加治屋はウェルチと不思議な縁がある。ABTのスタジオカンパニーに入った17歳のとき、初めて顔を合わせた。その際、ウェルチは当時のスタジオカンパニーの芸術監督に「百合子に『蝶々夫人』を踊らせてみたい!」と言っていたと伝え聞いた。そして長い時間を経て、ヒューストン・バレエに移籍し、ウェルチの下で『蝶々夫人』のタイトルロールを踊り、新たな『ジゼル』を振付された。ウェルチの創作は構想が明確でぶれがない。「スタントンは、スタジオに入ってくるときに頭の中で作品の構成が100%出来ていて、それをヴィジョンとして出します」と明かす。

加治屋百合子 Phot:Hidemi Seto ⒸKORANSHA

現在ヒューストン・バレエには日本人ダンサーが加治屋含め6名が在籍。ソリストの藤原青依はヒューストン・バレエ・アカデミーから育った気鋭で「監督からの信頼も厚い」と称える。ソリストのアクリ士門、デミ・ソリストの滝口勝巧は「もの凄いテクニシャンで素晴らしい」と絶賛する。コール・ド・バレエの徳彩也子は、去年のジャクソン国際バレエコンクール金賞受賞者。その際審査員だったウェルチが声をかけて入団した。入団早々活躍し「テクニックが高く期待されている若いダンサー」であると紹介。研修生の松岡海人は去年まではジュニアカンパニーのヒューストン・バレエⅡから上がって入団したばかりで「頑張ってね、応援しているよ!」と励ましている。「かわいい後輩たちなので、影ながら皆を応援しています」と後進の躍進に目を細める。

ヒューストン・バレエ『ジゼル』



ヒューストン・バレエ『ジゼル』

カンパニー全体として日本公演への士気は高い。「『ジゼル』を日本の皆様の前で踊る特別な公演になると思います。ヒューストン・バレエのダンサーたちも日本への愛が強く、皆楽しみにしています。『ジゼル』だけでなく「オープニング・ガラ」もあり、東京だけでなく名古屋の公演もあります。たくさんの方にヒューストン・バレエの魅力を伝えられたら」と意気込む。

ヒューストン・バレエ『ヴェロシティ』



ヒューストン・バレエ『シルビア』より



■ヒューストン在住26年の野口聡一が語る、ヒューストン・バレエの魅力

続いて野口が登壇し、まずはバレエとの出会いについて話した。クラシック音楽を愛好する野口は、チャイコフスキーの音楽を好み、バレエ音楽にも親しんできた。初の本格的なバレエ鑑賞は、1998年、宇宙飛行訓練のために訪れたロシアのモスクワで、『ハムレット』と『くるみ割り人形』を鑑賞。「言葉を持たない舞台芸術として国境を越えて通じるものがありますし、総合芸術として非常に奥の深い芸術形態だなと思ったのが最初の印象です」と語る。好きな演目は「3つ挙げるとすれば『ラ・バヤデール』と『カルメン組曲』と『ジゼル』。共通しているのは、主役が早々に死んでしまうこと(笑)。3つとも舞台が大がかりですし、ドラマティックなストーリー仕立てで、とても楽しめます」と話し、バレエに通じ愛していることがひしひしと伝わってきた。

野口聡一 Photo:Hidemi Seto ⒸKORANSHA

ヒューストンに26年間在住し、ヒューストン・バレエの公演を何度も鑑賞した。「アメリカ南部のテキサスで市民に愛されている芸術集団だと思います。基本的に市民の寄付により成り立っていて、ウォーサム・シアター・センターという素敵な劇場をメインにしています」とバレエ団を紹介。年末には冬の風物詩『くるみ割り人形』を家族で観に行ったという。「ヒューストン・バレエは、エンターテインメントを志向しています。ミュージカルと違って声がないという制約の中で、いかにダイナミックに、ドラマティックに、エンタテインメントになるか。それをウェルチ監督も含めて努力されている。観終わって高揚感をもって劇場をあとにする経験ができる。日本の皆さんも、古典としてクラシックな技術を押さえつつ現代的なエンターテイニングな舞台を楽しみにしていただきたいです」とカンパニーの魅力を述べた。

ウォーサム・シアター・センター



■待ちきれない来日公演への期待

野口と加治屋の初対面は2017年頃、ヒューストン・バレエのガラ・イベントの食事会の場。その後、ヒューストンの日本人仲間たちと共に親交を重ねてきた。「ヒューストンの街にいて、トッププリンシパルとつながりができたのは幸運でした」と野口が口にすれば、加治屋は「最初は「宇宙飛行士の野口さん」だったが、今は「お友達の野口さん」という感じです(笑)」と応じる。

左から 加治屋百合子、野口聡一 Photo:Hidemi Seto ⒸKORANSHA

無重力空間での芸術の可能性に話が及ぶと、野口は「バレエは、いかに重力を感じさせず軽やかに舞うかに美しさがあります。百合子さんは見事に軽やかに舞います。『ジゼル』第2幕はまさにそういう感じ。『ラ・シルフィード』も私の好きな演目ですが、風の精の踊りにも浮遊感がありますね。ああいうのは宇宙でやると、いいんじゃないかな。クラシックの雰囲気を残しつつ、そういう新しいところに挑戦するという意味で。百合子さん、ヒューストン・バレエはぜひ月面公演をやりましょう。月面で『ジゼル』を!」と語り、会見場は笑いに包まれた。いっぽう、加治屋は『ジゼル』や『ラ・シルフィード』を踊るとき、無重力のように見せるために「上体を引き上げるだけではなく、重力を感じさせないために下半身の床を押す力を使うことによって、上半身をより軽やかにみせている」と美しい舞台の表面からはうかがい知れない苦労を明かした。

ヒューストン・バレエ

野口は「ヒューストン市民に愛されているヒューストン・バレエが日本に来るのは誇らしく、百合子さんをはじめとして日本人ダンサーが多いバレエ団でもありますので、彼らの活躍をぜひご覧ください。今回は演目も多く、ドラマティックです。日本のバレエ・ファンの皆様もバレエを観たことのない方もぜひ劇場に足を運んで楽しんでください」と語り、会見を締めた。

左から 白木あゆみ、加治屋百合子、野口聡一 Photo:Hidemi Seto ⒸKORANSHA

なお、加治屋は愛知県名古屋市出身。質疑応答時、愛知公演への思いを問われると、10歳より中国国立の上海舞踊学校に留学したので、日本では10年しか生活をしていないと前置きしつつ、こう話し出した。「私自身、ローザンヌ国際バレエコンクールに出場して受賞したいと思ったきっかけは、名古屋出身のダンサーが受賞しているのをテレビで見たことです。同じ名古屋出身のダンサーが世界に羽ばたくのを観て、ローザンヌを目指すようになりました」と顧みる。それを踏まえ「自分も愛知県名古屋市出身として名古屋で踊ることによって、次世代の子供たちがインスピレーションを得てくれるといいなと思います」と希望を語った。

取材・文=高橋森彦 写真提供:光藍社

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