Micro [Def Tech]、平間壮一、松下優也ら出演 『IN THE HEIGHTS』スペシャルイベント“Flexin’ on the foor” オフィシャルレポートが到着
2024年9月、日本初演から10年を迎え、3回目の上演を果たすミュージカル『IN THE HEIGHTS』。ブロードウェイの鬼才リン=マニュエル・ミランダが初のトニー賞を受賞した今作は、ラップやラテンをルーツとする音楽でブロードウェイに旋風を巻き起こした。3度目の上演に先駆けて、2024年5月31日(金)CLUB asiaにて、作品で描かれる1990年代のクラブカルチャーを体感できるスペシャルイベント『Flexin’ on the foor』が開催された。本イベントのオフィシャルレポートが到着した。
2021年公開の実写映画版でも知られ、今秋に3度目となる日本版上演が決定したBroadway Musical『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』。2008年のトニー賞で最優秀作品賞含む4部門受賞するなど高く評価された本作が画期的だったのは、メインになることが少なかったラティーノを描いた物語であることと、同様にそれまでのミュージカルでは導入されていなかったヒップホップや、ラテンの音楽で全編が彩られている点。いわゆる(高尚と思われている?)“ミュージカル”のイメージを打破することに成功した作品であり、その裾野を広げる可能性に満ちた作品といえる。
今回企画されたスペシャルイベント『Flexin’on the floor』のねらいも、あえてミュージカルのイメージから離れたところからのアプローチで、本作を生んだカルチャー自体の魅力に触れようというもの。会場は渋谷にあるクラブカルチャーの発信地「CLUB asia」で、頭上には回るミラーボール。開場からDJがスタンバイし、最先端というよりはやや懐かしめ、「作品の中で描かれる1990年代のクラブカルチャー」というイベント趣旨にふさわしいヒップホップ中心の楽曲が流れるなか、オールスタンディングのフロアは次第に埋まっていく。音楽に揺らされた体が適度に温まり、期待も大きく膨れ上がったところにMCを務めるSHUNに呼びこまれて登場したのは、平間壮一(ウスナビ役)、松下優也(ベニー役)、KAITA(グラフィティ・ピート役)。
そして登場するなりブチかましたのは、ここでしか観られないトリオでのスペシャルダンスパフォーマンス! ダンスが本業のKAITAがものの数分で振り付け、30分程度で仕上がったという彼らにとっては挨拶程度のものだろうが、3人の凄まじいダンススキルを改めて思い知る。
いきなりの興奮が冷めやらない会場に、さらに5人のキャスト、Micro[Def Tech](ウスナビ役)、sara(ニーナ役)、 豊原江理佳(ヴァネッサ役)、有馬爽人(ソニー役)、MARU(ピラグア屋役)が登場する。なおキャストの1人でもあるSHUN(ラップ指導も担当)を含む本イベント出演の9人のうち6人が、「IN THE HEIGHTS」初出演。
一方、2014年の日本初演から出演し続け、今回で3度目となるのがMicro。初演当時に流れていた「日本人キャストでこの作品ができるのか?」という空気を、幕が開くや一掃できたのは、メロディラップの第一人者である彼をキャスティングできたことが大きかった。こうしたイベントでも前に出すぎず、ニコニコしながら仲間たちを見つめている姿が印象的。音楽面はもちろんだが、カンパニーの精神面をも支える、まさにウスナビのような人物なのではないだろうか。
2021年の前回公演より、そのMicroとWキャストを務めるのが平間壮一。「今日が人生3度目のクラブなんですよ」と意外な告白をした彼が、「今日がクラブ初めての人?」と客席に問いかけると、四分の一ほどの観客が手を挙げた。こうして、自ら客席を巻き込んでいくサービス精神やこちらを和ませる空気感が彼の持ち味。イベント中、フロア横の階段に突如姿を現して盛り上げ、ハイタッチにも応じていた。そうした姿からも、Microとはまた異なる彼ならではのウスナビ像が見えてくるよう。
日本初演の立役者にMicroを挙げたが、松下優也らヒップホップのリズムが体に刻み込まれたアーティストたちの存在も成功の要因だった。初演より10年ぶり2度目の参加となる松下は今回、ラップ歌詞の心地よさ、深さに改めて魅了されているようで、会場は松下講師(?)による即席ラップ講座に! 人気ナンバー「96000」のラップを例に、あのKREVAが手掛けた日本語歌詞の巧みさと込められた意味をわかりやすく解説してくれた。「これ、一生語れる!」と止まらない松下の様子が微笑ましく映ると同時に、進化したベニーへの期待が高まる。
なお前回公演で本格的にラップに挑戦した平間も、KREVAからの助言もあり、今回は「よりリズムを守ったラップを心がけて再トライしたい」と意気込む。実際、今回の彼のラップは言葉がより粒立って聴こえる感覚があり、現時点でも進化が感じられた。
ステージとフロアとのコール&レスポンス、観客を半分に分けてのクラップ対決など、クラブならではの試みでも盛り上がったが、やはり劇中ナンバー披露が会場を大いに沸かせた。夢、遊び心、熱狂といった作品の魅力が1曲に詰め込まれたような「96000」、ベニーとニーナの切なくもロマンティックなデュエット「When you’re home」、そして作品の“顔”的大ナンバー「IN THE HEIGHTS」の3曲だ。トニー賞オリジナル作曲賞&グラミー賞最優秀ミュージカルアルバム賞をW受賞している楽曲群は、初めて耳にした人の心もたちまちつかみ、そのまま離さない中毒性に満ちている。
ナンバー披露のなかで、観客だけでなくカンパニーをも驚かせたのが、最年少・有馬爽人の底知れぬポテンシャル。「96000」で最も盛り上がるラップパートを任され、客席の煽りも見事! 「ラップ初挑戦なんて信じられない」と、Microが目を丸くしていたほどだ。saraのニーナとしての爽やかな歌声は、この日初めて披露された。「When~」は相手役・松下との雰囲気にまだ初々しさがありつつも、実力者同士のハーモニーは心地よく耳をくすぐった。豊原は、映画『リトル・マーメイド』のアリエルとしてお馴染みとなった可憐かつパワフルな歌声を、「IN THE HEIGHTS」でも随所で響かせる。タイプのさまざまな女性キャラクターが夢を追い求める姿がいきいきと描かれているのも本作の大きな魅力のひとつなので、ぜひ注目してほしい。なお、『RENT』の「Seasons of love」でソリストを務めた超実力者・MARUが演じるピラグア屋(映画版ではリン=マニュエル・ミランダが演じた)はこれまで男性キャラクターとして男優が演じていたが、MARUの圧巻の歌声を得て、今回女性キャラクターに変更されている。きっと作品のスパイス的な存在になるはず。
貴重なWウスナビによるラップの応酬などを交えた「IN THE HEIGHTS」の熱唱で、本イベントはお開きに。ミュージカルの関連イベントとは思えないほど自由に、熱く沸いた客席を見て松下が一言、「ノリ方がわからないんじゃないかってナメてました(笑)。ミュージカルのお客さんってこういうポテンシャル秘めながら普段こうやって(おとなしく)観てたんやなって(笑)」。客席を巻き込む力の強い「IN THE HEIGHTS」という作品の特異性が伝わってくる。稽古開始前にしてこのクオリティ、かつ空気感も抜群の新生カンパニーは、開幕の9月にはどんな高みに上り詰めているだろう。
同日夜も「アフターパーティー」と称して、KAITAプロデュースのイベントが行われた。様々なスタイルの若手ダンスチーム5組によるショーケースと、KAITA自身もこの日だけのスペシャルトリオを結成して圧倒的なパフォーマンスを披露。ゲスト出演したMicro、平間、松下とともに、進化し続ける日本のストリート文化やダンスシーンを、よりコアに発信していた。