気象予報士・千種ゆり子が明かす「職を失うかもしれない不安」を乗り越え「天職」と出会う秘訣
気象予報士や防災士として活躍を続ける千種ゆり子さん。26歳のときに「早期閉経」と診断された自身のエピソードをヒントに企画・プロデュースした映画『藍反射』(らんはんしゃ)が、第38回東京国際映画祭(2025年10月27日〜11月5日・日比谷)のウィメンズ・エンパワーメント部門に公式出品作品として招待され、好評を博しました。2026年3月6日からは劇場公開が決定しています。
インタビュー後編では、「伝えることに強い思いがある」と話す千種さんに、これまでに歩んだキャリアや、気象予報士の仕事について語ってもらいました。
前編:26歳で早発閉経に。千種ゆり子が語る、働く女性が自分らしさを大切にすべき理由
2度の震災で、気象予報士の道へ
Q. 気象予報士として多岐にわたるご活躍をされていますが、まずは資格を取得されることになった経緯について聞かせてください。
2011年に東日本大震災が発生し、防災に対する意識が日に日に高まっていく状況を見たことが、気象予報士の受験を決めた一番大きな理由になりました。
法学部に在籍していた学生時代から「自分の力で稼げるようになりたい」という思いが強く、一時は周囲の影響で弁護士や司法書士になるための勉強に取り組んでみたこともありましたけど、さほど長続きしなくて。卒業後はインフラ系の民間企業に就職し、キャリアをスタートさせることにしたんです。
働きだしてからは多忙な日々が続き、資格に向けた勉強が進められずにいましたが、一方では資格取得に対する未練も燻っていて。
大学を卒業してからの数年間は、心のどこかで「自分が職を失ってしまうかもしれない」という不安や、「資格やスキルを身に付けないと……」といった漠然とした焦りを感じながら日々を過ごしていました。
そして1年目を終えようとしていた2011年3月に東日本大震災が発生し、それを機に資格への思いが再燃し、2年の受験勉強を経て、2013年に気象予報士の取得に至りました。
Q. 震災が千種さんの決断に大きな影響を及ぼしているようですが、ご自身や身近な方が被害を受けられたりしたのでしょうか?
実は3歳から小学校1年生までは神戸市の東灘区に住んでいて、1995年1月の阪神大震災を経験したんです。幸いなことに当時の自宅は、家具が倒れる程度の被害で済みましたけど、マンションが震災で傾き、家に住めなくなってしまった友人一家が、私の家に泊まりに来たこともあって。当時はまだ子供でしたし、外出も控えるように言われていたので、周囲の状況をあまり理解できていませんでしたけど、後々になって、住んでいるエリアが大きな被害を受けていたことを知りました。
Q. 幼い頃に経験した阪神大震災のことを改めて調べたり、振り返るきっかけもあったのでしょうか?
気象予報士に合格し、気候や自然と向き合う仕事に就くことになったタイミングで、当時の状況を父に尋ねてみることにしたんです。
父が手紙に書いて送ってくれた文面には、「早朝に震災が起き、数時間後に電気が復旧すると、街の至る所で通電火災が発生し、ストーブや暖房器具に燃え移って被害が広がってしまった」とか、当時は知らなかった深刻な状況が記されていて、とにかく驚かされたことを記憶しています。
難関突破を後押しした「自らの言葉を伝えたい」思い
Q. 多忙な日々を過ごしつつも、なぜ難関(平均合格率4〜6%)資格の気象予報士の勉強を続けることができたのでしょう?
今思うと、「自分の言葉で自らの思いを伝えたい」という熱意を持っていたからなのかなと思います。
中高生の頃、私の考える“正義感”が強すぎたせいで、友人とうまくコミュニケーションが取れずに苦労したこともあって、その頃から自分の感情を伝えることに強い思いを持っていました。
もし、気象予報士を取得して、気象キャスターになれば、自分の思いをありのままに伝えられる。そういった未来の自分の姿が、勉強を続ける原動力になったように感じますし、その後に私が歩んだキャリアにおいても、 「何かを伝える」ことが一つの軸になっている のかなと思います。
Q. ニュースの天気予報などで、気象予報士を目にする機会は多くありますが、実際はどのようなお仕事をされているのでしょうか?
ニュース番組に登場する気象予報士は、テレビに映し出される以外にも、「気象コーナー」におけるさまざまな仕事を任されているんです。
何気なく読んでいるかのように見える天気予報の原稿や天気図の解析もそれぞれの考えが反映された内容が盛り込まれていますし、気象コーナー全体の構成作りや、伝える情報を選択するのも、私たち気象予報士の仕事です。
Q. 千種さんは気象予報士に合格した後、どのようなキャリアを歩まれましたか?
私の場合は、試験合格後に気象予報士が多く在籍するマネジメント事務所に入り、各テレビ局のオーディションを受験し、2014年からNHK青森放送局でキャリアをスタートさせました。その後はテレビ朝日やTBSでの気象キャスターなどを経て、現在は企業向けのCO2排出量見える化サービスなどを提供するアスエネで、Eラーニングの事業に携わっています。
Q. Eラーニングでは、どのようなことが学べるのですか?
近年は企業間取引の際に、脱炭素の取り組みを行っているかが考慮されるようになったので、ご契約いただいた企業のサステナビリティ分野を任されている方をはじめ、従業員のみなさんに向けて、気候変動の原因となる温室効果ガスの削減や、脱炭素社会の実現に向けた教材作りに携わっています。数分間の天気予報ではお伝えきれない情報も盛り込みつつ、「より深い知識を提供できたら……」との思いで、日々の業務に取り組んでいます。
Q. メディアに出演する以外にも、さまざまな仕事があるんですね。
そうなんですよ。どうしてもニュース番組などに注目が集まりがちですが、それ以外にも気象予報士が活躍する場面が実はたくさんあるんです。
例えば、気象予報会社のウェザーニューズ では世界中のさまざまなエリアの天気を日々予測していますし、海運会社や航空会社、そして鉄道会社に向けたサービスを展開している会社もあります。さらに最近では、日照時間や日射量から再生可能エネルギーの発電量を予測する仕事も増えてきています。これに限らず、多くの気象予報士が、天候に関するさまざまな業務に取り組んでいます。
Q. かつての千種さんのように、キャリアに悩むビジネスパーソンへのアドバイスをお願いします。
さまざまな紆余曲折を経て、私の“天職”と言える気象予報士の仕事に巡り合うことができましたが、20代の頃を振り返ってみると、焦りは感じつつも自分が本当にやりたいことに正しく向き合うことはできていなかったように思います。自分の個性や得意なことをもう少し早く理解できていたら、「もっと仕事での充実感が得られただろうな……」という多少の後悔もあります。
さまざまな悩みを抱えたり、壁に直面してしまうこともあると思いますが、そんなときには 自分の個性について前向きに考えてみると、意外なヒントが見つけられるかもしれません 。
・本記事の内容は個人の体験を取材し、編集したものです。
・記事の内容は取材時点(2025年11月)の情報であり、現在と異なる場合があります。
前編:26歳で早発閉経に。千種ゆり子が語る、働く女性が自分らしさを大切にすべき理由
プロフィール
千種 ゆり子(ちくさ・ゆりこ)
気象予報士。NHK青森を経て、テレビ朝日「スーパーJチャンネル(土日)」や、TBS「THE TIME,」に気象キャスターとして出演。2022年に、26歳の時に難治性の不妊症である早発閉経と診断されたことを公表、2023年より本作の企画・プロデュースを行っている。
X(旧Twitter) @yurikochikusa Instagram @chikusa_yuriko
【映画『藍反射』公開情報】
2026年3月6日(金)~12日(木)/ヒューマントラストシネマ渋谷
2026年3月13日(金)~26日(木)/キネカ大森
全国順次公開
映画公式サイト:https://ranhansha-movie.com/
取材・執筆:白鳥純一
撮影:求人ボックスジャーナル編集部
編集:求人ボックスジャーナル編集部 内藤瑠那