読者を虜にする「疑い」とは?【プロの小説家が教える クリエイターのための語彙力図鑑】
NO.16 疑う【うたがう】[英:Doubt]
【意味】
本当かどうか怪しく思う。不審がる気持ち。
【類語】
懐疑 怪訝 疑心 疑念 猜疑 不審 疑問視 怪しむ いぶかるなど
体(フィジカル)の反応
こわばった表情唇を固く結ぶ挑戦的な態度をとる相手にわかるよう、大げさに首をかしげる見下すように嘲笑する眉をひそめる腕を組む相手の発言を片手で払いのける仕草相手に何度も質問する貧乏ゆすりをする指でテーブルを小刻みに叩く大きなため息をつく鼻を鳴らす目を直視できない
心(メンタル)の反応
体がこわばる相手の思考を自分の思うままにしたいと思う鼓動が速くなる頭に血が上る感覚怒りが湧いてくる相手の嫌なところが目につき、イライラする相手と議論する姿を想像するネガティブな思考になる自分の立場を正当化したいという欲求不安感を覚える自分の味方を作りたいと感じる憤りを覚える人への信頼感が損なわれる
予測がつかない混沌は読者にとって至福の時間となる
疑いは甘い蜜の味がします。もっともこれは物語上のお話です。現実世界での「疑う」は、ブラックで嫌な感じしかしません。
では、なぜ物語の「疑う」はそれほど甘いのでしょう。
答えは簡単です。
「疑う」ネタがあればあるほど、物語は波乱に満ち、先の読めない展開が約束されるからです。読者はストーリーが二転三転して、予想を裏切られる大どんでん返しを期待しながら読み進めます。
A氏だと思っていた犯人が、途中でB氏になったと思いきや、今度はC氏を「疑う」刑事が現れ、そのまま終わるかという局面で、さらに謎のD氏が浮上して――それぞれに「疑う」要素があるだけに、誰が犯人か予測がつかない混沌は、読者にとって至福の時間です。
まさに疑いは甘い蜜として、物語を深め、盛り上げてくれます。その分、「疑う」ネタをあれこれ用意する書き手のハードルは上がります。ラストですべての疑いを回収しなければなりませんから。
一寸先は闇のような疑いに満ちた展開を
【出典】『プロの小説家が教える クリエイターのための語彙力図鑑』著:秀島迅