「子どもの権利」を守ると子どもの約7割の「自己肯定感」が高く! 69地域に拡がった「子どもの権利条例」想定外の効果
子どもの権利を考える第3回~「子どもの権利条例」がもたらしたもの~。国内69地域で作られた「子どもの権利条例」の動きとは。「国連子どもの権利条約」批准30年の今“子どもの権利”をあらためて考える。全3回。
【写真➡】川崎市の取り組み「子ども会議」と「夢パ」を見る日本が1994年「国連子どもの権利条約」に同意(批准/ひじゅん)してから2024年で30年です。2001年に川崎市でうぶごえを上げた「子どもの権利条例」は、いまや約70の自治体にひろがりました。後押ししたのは、2023年4月1日の「こども基本法」の施行と、こども家庭庁の発足でした。各地の条例はどんな特性を持ち、子どもたちにどんな変化をもたらしているのでしょうか。
歌、子どもの居場所…さまざまな地域の取り組み
愛知県日進市には、子どもたちが歌った『未来をつくる子どもたち』という歌があります。
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私たちは、いろいろなことを知り、学び、選び、目標に向かいチャレンジすることができます。
そのために必要な力を借りることもできます。
そして、夢をかなえることができます。
私たちは、大人のために利用されることはなく、気持ちや考えを言うことができます。
私たちには、助けてくれる人たち、支えてくれる人たちがいます
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これは2010年に施行された日進市の「未来をつくる子どもの条例」の前文です。この前文を楽曲にし、地域の子ども合唱団の歌唱で、レコード化しました。
日進市では、この前文すべてを、子どもたち自身で考え、作成しました。そして自分たちでPR活動を行う一環として、この歌を作り、合唱団を編成したのです。
2024年5月現在、全国69の自治体で、「子どもの権利」を保障する総合的な条例が制定されています。
「地方自治研究機構」の分析によれば、「生きる権利」や「育つ権利」、「守られる権利」、「参加する権利」、「愛される権利」、「自分らしく生きる権利」、「気持ちや考えを伝える権利」、「自然とふれ合う権利」などなど、各自治体の特性を反映したさまざまな権利が、条文によって規定されています。
また、世界がコロナ禍に見舞われていた2020年以降は、「子どもの居場所の確保」についても、規定する条例が増えました。
例えば、2020年3月に施行された神奈川県鎌倉市の「子どもがのびのびと自分らしく育つまち鎌倉条例」では、18条で、「市は、子どもが自分らしく遊び、休息し、集い、安心して人間関係を作り合うことができる場の確保及び充実に努めるものとする」と規定。
市の条文説明によれば、「子どもを孤立から守り、その成長を見守り、支援する『居場所』を作り出す取組」が必要であり、市としては行政機関に限ることなく地域や民間の施設や事業者と協力しながら「居場所の確保」に努める、とあります。
また、「福島市子どものえがお条例」では、12条で「子どもの居場所」を規定するとともに、14条で、「子どものえがおのために」と前置きをしたうえで「保護者の居場所」の確保についても規定しています。
1994年の「国連子どもの権利条約」批准から30年。ようやく日本に「子どもの権利」という概念が定着しつつあるように見えます。
しかしそれでもスムーズにはいかない面がまだ根強いのも事実です。
子どもの声を理解しない大人たち
「子どもの権利保障に対して強い抵抗を示す大人は、いまだに存在しますね」と苦笑いするのは「子どもの権利条約総合研究所」顧問で早稲田大学名誉教授の喜多明人さんです。喜多さんは川崎市を皮切りにさまざまな自治体の「子どもの権利」関連の条例づくりに関わってきました。
数年前に条例づくりの手伝いを手掛けた自治体でのことです。喜多さんはまず地域の子どもたちにヒアリングをし、子どもたちの声から条例案を立ち上げる作業を続けました。ある不登校の高校生に「学校に行かなくなった理由」を聞いたところ、こう答えたそうです。
「学校ってすごく忙しいところで、考える暇がないんです。ひとつ課題をクリアしたと思ったら、またすぐ次の課題で、自分なりに考えたいことがあるのに、時間がない。学校に行かなくなったのは、自分を守るためです」
そこで喜多さんが考えたのは「休息する権利」でした。条文だけではなく、欧州にある「短期休暇制度」を制度化することで、実際に休息しやすい環境を整えようとしたところ、学校現場と一部のメディアから「ずる休みさせる気か」と大反発され、実現しませんでした。
そして「自分の意見を表明する権利」は、今やほとんどの自治体の条例に組み込まれているものの、実際に子どもが「意見表明」する段階になると、大人たちは自分の意見を強く主張し、子どもの権利が守られずに終わる状況は、至るところで現存しています。
また子どもの側も、おおやけの場で意見表明することを望まなくなっている傾向があるそうです。
「ある自治体で『子ども会議』を条例に明文化しようとしたら、市の若い職員から止められました。『喜多先生それやめましょう。子どもたち、嫌がってます』って言われてしまいました」
デジタル世代のコミュニケーションでは、対面で率直に意見することは「いじめ」の対象になるリスクを伴うようです。「転換点なのかなと思いました」と喜多さん。
子ども自らからアドボカシーを要請
しかしそこで折よく登場した支援の取り組みがあります。「子どもアドボカシー」です。
子どもが自分の願いや意見を発信できるように支援し、ときには代弁者となる取り組みです。
国内で相次ぐ痛ましい児童虐待事案を受け、国連は2019年、「子どもが自由に意見を表明する権利を確保するように」と日本政府に勧告を出しました。政府は児童福祉法を改正し、「アドボケイト」と呼ばれる「意見表明支援員」が、児童相談所や児童養護施設などで子どもの意見を傾聴し、受け入れることを努力義務化したのです。そして2022年には「子どもアドボカシー学会」も誕生し、民間団体の取り組みも始まりました。
昨今、この「子どもアドボカシー」が、児童福祉以外の現場でも実践されています。一例として、中部地区のある学校の生徒から「民間アドボケイト」の要請があり、進路指導の場に同席したそうです。学校側の勧める進路先と、生徒自身の希望が折り合わず、子ども自身の意見表明を支え、代弁する役割を担ったそうです。
今後はこの「子どもアドボカシー」の観点が、「子どもの権利」を保障するうえでも必要とされていくのかもしれません。
川崎市では子どもの自己肯定感が7割超え
ところで約25年前に川崎市から始まった「子どもの権利条例」ですが、この条例によって、川崎の子どもたちにどんな変化があったと言えるのでしょう。喜多さんの答えはこうです。
「実感としては二つあります。子どもの権利条例を作った子どもたちや条例の恩恵を受けた子どもたちが、どんどん地域の担い手になっていること。そして、時間とともに変動はありますが、子どもたちの自己肯定感が上がったことです」
川崎市の条例施行から4年後の2005年、条例の「成果」を検証したところ、市内の子どもたちの「自己肯定感」が「72.9%」を記録したそうです。内閣府の調査では、日本の若者世代の自己肯定感は5割前後で、世界的にも低い傾向にあることを思えば、破格の高さです。
時間と共に条例の効果には波もありますが、昨年(2023)3月の調査結果でも、自己肯定感を尋ねる「自分のことを好きか」との問いに、「好き」「だいたい好き」と答えた子どもは約7割でした。
つまり10人のうち7人の子どもが、自分に自信をもって元気に生きていることになります。
「子どもたちが参加する権利や自分で決める権利を大切にした結果だと思います。もちろん川崎にも課題はたくさんたくさんありますが、子どもたちのための施策がしっかり実施されることが、子どもたちが笑顔を守れるか否かにつながっていると思います」
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国連子どもの権利条約の批准から30年という時間が立ち、日本の子どもたちの権利をめぐる状況は、本当に少しずつではありますが、「良い方向」へと進んでいるようです。
しかしそれでもまだ、子どもたちの声は大人たちや学校現場、社会の中でかき消され、虐待もなくなってはいません。
「10割」の子どもたちが元気で過ごせる日が来るように、一人一人の大人が子どもたちの権利について思いを巡らせ、自分の権利と同等に、誠実に向き合う必要があるでしょう。
取材・文/浜田奈美
フリーライター浜田奈美が、難しい病や障害とともに生きる子どもたちが子どもらしく過ごすための場として横浜に誕生したこどもホスピス「うみとそらのおうち」での物語を描いたノンフィクション。高橋源一郎氏推薦。『最後の花火 横浜こどもホスピス「うみそら」物語』(朝日新聞出版)