義足を日常に実装する|Xiborgが実現するかっこいい未来へ~SFTカンファレンス2024インタビュー Vol.3~
2024年夏、フランス・パリで開催されるパラリンピック。それに加え、5月には日本・神戸で世界パラ陸上競技大会が開催されるなど、パラスポーツの注目度が高まるなか、その“用具”にも注目が集まっています。
「義足のランナーが健常者よりも速く走れる世界を実現したい」と語るのは、株式会社Xiborg 代表取締役の遠藤謙さん(以下、遠藤)。研究員としての活動も行いながら、義足ユーザーが抱える課題の解決に向けて取り組んできました。
なかでも、『Blade for All』プロジェクトは、「走りたい」と思うすべての義足ユーザーが楽しく走れる社会を実現すべく誕生したプロジェクトです。
さまざまな課題を乗り越え、常に前を向き続ける遠藤さんにお話を伺いました。
※本記事は、SPORT FOR TOMORROW(SFT)カンファレンス2024にて『スポーツ庁長官表彰』を受けた団体のインタビューです。
Blade for All プロジェクトの起源
ーー『Blade for All』プロジェクトをスタートさせたのは、どのようなきっかけだったのでしょうか?
遠藤)このプロジェクトに至ったのは、それまでのさまざまな経験の積み重ねがあってのことですが、1つ大きなきっかけと言えるのは2016年にパラ陸上の佐藤圭太選手が北海道で小学生向けに実施したランニングクリニックです。
そのクリニックに参加した子どもたちは、全員“足のある”小学生でした。そのとき、佐藤選手がぼそっと言った「一人でも足のない子を走り出せるようにさせてあげたい」という言葉が、『Blade for All』が動き出すための想いになりました。
ーーパラアスリートだけではない、多くの子どもたちに向けた活動へのきっかけとなったのですね。
遠藤)パラリンピックでトップアスリートが戦うことは、1つのスポーツとしておもしろいレベルまで来ていると思っています。一方で、「障がい者がスポーツをする」ということに対してのハードルがまだまだ高すぎるとも感じています。
佐藤選手も、たまたま担当していた義肢装具士さんの元にランニング用のブレードがあり、試してみたことがきっかけで走るようになったのですが、その経験がなければ走っていなかったと思います。
このような“きっかけ”は、どんな人にも与えられるべきだと思うのですが、とくに切断障がいの子どもたちが走るきっかけというのは、ほとんどないのが現実です。
スポーツが好きな人の中から、その中でもより好きな人、能力の高い人がパラリンピックを目指すという環境ではなく、本当にラッキーにスポーツと巡り会えた人しかその舞台に辿り着けない。これはもったいないことだと感じ、『Blade for all』のプロジェクトはこうした子どもたちにきっかけを与えるために始まりました。
パラアスリートが抱える課題
ーー実際に、義足が必要な方が陸上競技を実施するための障壁は、どのようなことが挙げられますか?
遠藤)“陸上競技”に入る前に、そもそも“走る”ことができない環境にあることが一番のハードルです。とくに、年々成長していく子ども世代にとって、靴のサイズが大きくなるように、ブレードを装着しても毎年のように買い替えなければならず、それ自体が大きな金銭的負担になります。加えて、「走りたい!」と思っても、最初のうちはまわりのサポートや理解がないと難しいことに加え、どうやって義足で走ったらいいのかを教えられる環境がありません。
ーーそうした“走る”ことへの課題に対して、『Blade for All』はどのような方法でアプローチしているのでしょうか?
遠藤)金銭面では、できるだけ安価なものを提供したいと考えています。パラアスリートのブレードだと数十万円以上しますし、現状は安くても20万円ほどします。少しでも金銭的な負担を軽減するために、10万円ほどで購入できるように開発を進めています。
また、“走る”環境をつくるために、東京都・豊洲のランニングスタジアムで「ギソクの図書館」を作りました。みんなで集まって走り方を学ぶ環境を作ることができましたし、その後は1ヶ所だけにとどまらず、“日常的に走る”環境を作るための活動も展開しています。ランニングクリニックのあと、走ることが日常になるような取り組みを『Blade for All』では目指しています。
『Blade for All』プロジェクトの苦労
ーーこうした活動を作っていく過程で、大変だったなと思うことはありますか?
遠藤)たくさんあります(笑)。なかでも、一番意識してきたところは、『コアバリュー』をブラすことなく活動してきたところです。外面的な見せ方をすることで、お金の部分や活動の広がるスピードなどは改善すると思いますが、どうしても本質の部分が手薄になってしまうと感じています。それを追い求めた結果、苦しむこともあるのですが、続けられているのは『コアバリュー』を求め続けて取り組んできたからだと感じています。
ーー海外での活動にも広げられています。
遠藤)もともと、“日本で”という感覚が薄いですね。義足のランナーが日常的に走れるようになったり、健常者の世界一の記録よりも速く走ることを目指す中で、日本国内や日本人ににこだわっていることはありません。
とくに、諸外国に比べて日本は恵まれていて、走れない人がそこまで多いわけでもないというのが現状なのかなと思います。
ーー海外では、どのような活動をしているのでしょうか?
遠藤)私たちは、『Blade for All』の活動だけでなく、トップレベルのパラアスリートへの支援として『Blade for the One』という活動も行っています。東南アジアなどの海外地域で広げていくためには、この両輪が必要になると感じています。
以前、タイの選手が私たちのブレードを使ったアスリートの実績を見て、「私たちも日本で義足を作りたい」と訪ねてきてくれました。その選手に私たちの義足を提供することで、トップレベルを引き上げるということも大事ですが、義足で走ることのすそ野を広げる活動も必要です。そのために私たちは、「ブレード」そのものの提供、「現地の義肢装具士への技術」の提供、「トレーニング方法」の3つをトップレベルとビギナーレベルの両方で提供しています。
ーー自分たちのモノを広めるだけでなく、すそ野を広げるための技術提供やトレーニング方法の指導まで行っていらっしゃるのですね!
他団体との共闘
ーー今後、Xiborgさんの活動が拡大していく上での課題や考えをお聞かせください。
遠藤)とくにアジア諸国での活動の場合、義足(ブレード)へのお金を出すのは、足のない当事者ではないことが多いです。国や大きな企業のCSRの一部であることも多いですよね。
加えて、義足は1回で本人にピッタリ合う最高のモノが作れるようなことはありません。ユーザーと1年、2年とお付き合いし、フォローアップしながら作る必要があります。
そう考えると、何度も日本に来てもらって調整するよりも、現地でスポーツ用義足を作れる環境を整えた方が広がりもあるし、選手たちもよいものを使い続けることができます。私たちは、そうした考えで「ブレードを作って売る」ビジネスではなく、「あらゆる“走る”ことを広げる」ビジネスを行っていきたいと考えています。
ーー走れない人がいることや、走る楽しみを持てていない人がいる事実を私たちも認識しないといけないと思いました。その上で、課題や取り組みに対して共感する人が増えていってほしいですね。
遠藤)なかなか受益者が少ないマーケットでもあるので、今後も『コアバリュー』をブラさずに悩みながら進んでいくことになるのかなと思います。
ーー今後の展望を教えてください。
遠藤)私はモノを作るのが好きなので、世の中が驚くモノを作りたい、そして、義足によって、オリンピックチャンピオンよりも速く走れるパラリンピアンの誕生に携わることができるエンジニアになりたい、と考えています。
そのために技術開発を続けますが、パラリンピックの一番のボトルネックは競技人口が圧倒的に少ないことです。義足に関する問題も含め、あらゆる問題で走れていない世界中の人が走り出せる環境を同時に整えていきたいです。
近い将来で言うと、タイのパラ選手たちに義足を提供することと、子どもたちや初心者の人が走れる環境を整えることを目的として、タイの大学と提携してランニングクリニックを実施する予定です。
加えて、タイの『FCバンコク』というサッカーチームのCSR活動の一環として、義足の子がサッカーができるようなサポートを実施できないかと模索しています。タイだけでなく、カンボジアでも同様な活動の計画が進んでおり、お金の流れも含めて多くの人が“走れる”環境を作っていきたいと考えています。
ーーありがとうございました!
ブレードランニングクリニックを開催!
世界パラ陸上競技大会が開催されたことに合わせ、開催地の神戸にて『Blade Runnning Clinic in KOBE』を株式会社Xiborg主催で開催しました!
義足の子どもたちやその家族を中心に、多くの方々が集まったこのランニングクリニックでは、パラリンピックメダリストであるブレーク・リーパー選手(アメリカ)も参加!彼の明るい性格もあり、参加したみなさんは大盛り上がりの中、“走ること”を楽しみました。
最後には、ブレーク・リーパー選手からのメッセージと質問タイム。先天的に両足がなく生まれたリーパー選手の「僕の強さは、これまでの困難から作られています。ということは、困難が多いことは僕にとってのアドバンテージです。前向きな姿勢を忘れずに、挑戦し続けること。“僕だからこそ”できるんだという姿勢、自分の信じる心で前に進んでいくことが大事。」というメッセージは、どの参加者の心にも響いたことでしょう。