「年収103万円の壁」とは?知らないと損する収入と控除の複雑な仕組み
扶養を外れるとどうなる?経済ジャーナリストが解説
衆議院選挙が終わった頃から「年収103万円の壁」という言葉をニュースでよく見聞きするようになりました。私たちの生活にはどのように関わってくるのか、経済ジャーナリストの堀浩司さんにSBSアナウンサー松下晴輝が聞きました。
年収103万円の壁とは?基準と意味を解説
松下:まず、「年収103万円の壁」とはどのようなものなのでしょうか。改めて分かりやすく教えていただけますか。
堀:税金の計算上、2つの意味があります。1つは、パートやアルバイトをしている人が所得税を支払わなくてもよい非課税ラインが年収103万円です。この収入を超えない限り、所得税がかかりません。
もう1つ、税金上の扶養家族になるかどうかのラインです。扶養家族がいると生活費も多くかかりますので、扶養している16歳以上の家族のパート・アルバイト収入が103万円以下であれば、家族を養っている人に扶養控除という一定の非課税枠が設けられています。
配偶者については、一般的な家庭ではパート・アルバイト収入が年間150万円までは扶養控除と同額の控除を受けることができる仕組みです。
松下:衆議院選挙を終えてから、この「103万円の壁」という言葉をよく耳にするようになりました。私は大学生の頃にアルバイトを掛け持ちしていた時、父から「103万円は超えないでくれ」と言われたことを思い出します。
103万円の壁はどうして生まれた?
松下:この103万円のラインはいつからありますか?
堀:家族全体の税金が増えるというこの基準は、1995年から変わっていません。当時の経済環境を反映したもので、税制上、パートやアルバイト収入が低い場合は、税金の負担が軽減されるように設けられています。当時から物価が上昇しているにもかかわらず基準となる金額が据え置かれたままになっているため、今でも年収103万円を超えることで税金や控除に影響が出てしまうのです。
103万円を超えるとどうなる?
松下:年収が103万円を超えるとどのような影響があるのでしょうか?
堀:まず、所得税の非課税ラインを超えるので税金がかかります。また、もう一つの影響として、扶養家族から外れることが挙げられます。扶養控除の対象から外れることで、例えば年収600万円のサラリーマンなら、税金が8万円ほど増加することもあります。このため、多くの家庭では「103万円の壁を超えないように」となるわけです。
松下:年収600万円の人の税金が一気に8万円も増えるんですか。
堀:そうですね。ラインを超えると税金がポーンと上がるのは問題ですよね。
106万円の壁、130万円の壁もある!?
松下:最近は「106万円の壁」や「130万円の壁」という言葉も見聞きします。これらはどのような基準なのでしょうか?
堀:106万円の壁は、「パートやアルバイトの方が社会保険に加入する目安」となる収入のことです。税金の制度ほど厳密ではありませんが、この額を超えると、自分自身で社会保険料を負担する必要があります。社会保険に加入するための費用が増える一方で、家族の保険料は変わらないので、家庭全体の負担が増えてしまいます。
また、130万円の壁は、一般的にどんな働き方であってもこの年収を超えると扶養家族を外れて個人で健康保険などに加入しなければならない収入の目安となる基準です。
103万円の壁引き上げ案とその影響
松下:現在、103万円の壁を178万円まで引き上げる案も検討されています。もし引き上げられた場合、どのような影響があるのでしょうか?
堀:103万の壁は1995年から変わっていませんが、当時から最低賃金が1.73倍になったため、103万円に1.73倍をかけた数字が178万円であり、これが引き上げ後の目安として検討されています。非課税ラインを引き上げることで、アルバイトやパートの方の税金負担は軽減されますが、扶養家族を外れたり、社会保険料の負担が新たに発生したりという、年末が近づくにつれ、働くことを抑制する動きの解決にはなりません。
年収の壁に代わる「なだらかな坂」の提案
松下:現在の制度では、収入が基準を少し超えるだけで税金や保険料の負担が急に増えるため、働く意欲をそがれることが問題視されています。どのような解決策があるとお考えでしょうか?
堀:急激な負担増を避けるためには、「年収の壁」ではなく、収入に応じて税金や社会保険料の負担が少しずつ増えていく「なだらかな坂」のような制度に移行するべきだと考えます。手取り収入の増加が実感できるよう、全般的な見直しが必要だと思います。
松下:わかりやすい解説、どうもありがとうございました。
※2024年11月8日にSBSラジオ「IPPO」で放送したものを編集しています。今回お話をうかがったのは……堀浩司さん
経済学は私たちの暮らしが良くなるためにある学問、私たちみんながわかる経済のお話を講演、ラジオ、テレビ、大学教員、執筆でアルバイトをしていたラジオ局で学生時代に音楽番組のパーソナリティを務めて以来、その出演歴は40年! 大学常任理事として大学経営にも、税理士として企業経営指導にも携わる。