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白川郷の小さな合掌造りで、念願だったカフェの店主に【岐阜県白川村】

田舎暮らしの本

白川郷の小さな合掌造りで、念願だったカフェの店主に【岐阜県白川村】

合掌造り集落の美しい景観を求め、国内外から多くの観光客が訪れる白川郷。そんな一大観光地で育児をしながらマイペースにカフェを営む清水朋恵さんに、異業種からカフェを開業した経緯、地域住民や観光客とのかかわり方などを伺った。

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掲載:2025年6月・7月合併号

岐阜県白川村(しらかわむら)
白川郷がある白川村は岐阜県北西部に位置する、急峻な山々に囲まれた山村集落。人口1461人、599世帯(2025年3月1日時点)で、2024年の観光入込客数は200万人を超えた。周辺に駅がないため、公共交通機関は高速バスを利用(金沢駅から約1時間15分、名古屋駅から約2時間50分)。最寄り高速ICは北陸自動車道・白川郷IC。

合掌造りの形のティラミス、カフェラテが店の売り

清水朋恵さん 
出身地は愛媛県今治市、移住前の居住地は大阪府枚方市。カナダの大学に進学し、白川村出身の夫と出会う。卒業後は製薬会社に勤務し、出産を機に退職。現在35歳で、夫(33歳)、長男(5歳)、次男(1歳)と暮らす。2021年10月30日にカフェ「SOUTH SIDE CAFE」を開業。写真はお店の前で清水さんと次男。

 世界文化遺産に登録されたのを機に、外国人観光客が激増している白川郷。その中心地・白川村荻町地区には100棟余りの合掌造りが立ち並び、村民が暮らしている。そんな白川郷でカフェを営むのが清水朋恵さん。きっかけはコロナ禍だった。

 「夫は白川村出身で、結婚前から『いつか地元に帰りたい』と言っていました。だから心づもりはあったのですが、その時は意外と早く来ました」

 夫がリモートワークに切り替わったことで、週末に白川郷に帰る機会が増加。2020年秋には白川村に籍を移すことになった。環境が変わったことで清水さんの心境にも変化が。

 「前職は製薬会社勤務で、カフェ開業は現実的ではありませんでした。でも出張で全国を訪れ、息抜きに入るカフェに癒やされることが多く、『いつか自分もこんな店を営めたら』という思いがあって。白川郷に来てから合掌造りの形をしたティラミスを考えるなど、開業を考えるようになりました」

 その思いを現実に近づけたのは、義父の持ち物である建物の存在。農機具や薪を入れていた小屋で、入り口から奥まで20歩もないコンパクトサイズだった。

 「小さな合掌造りという雰囲気がかわいくて。思い切って義父に『私が使ってもいいかな?』と聞いてみたら、『自分でお金を出して修繕するのならいいよ』と言ってもらえたのです」

 しかし、白川村荻町伝統的建造物群保存地区には保存会があり、「売らない・貸さない・壊さない」という3原則が制定されている。清水さんが改装を希望した際も会議があり、許可が下りるまで半年かかった。また、壁や茅葺き屋根の修繕も必要だったため、さらに月日が経過。だが、焦りはなく、その間は店の構想を練った。

店はコンパクトながらもエスプレッソマシンを設置。イートインもできるようにした。
SOUTH SIDE CAFE
住所/岐阜県大野郡白川村荻町2708-1 営業時間/短時間・不定期営業中
※営業日はInstagram(@southsidecafe___shirakawago)を参照

天気のいい日はオープンエアの席も設置。前に棚田が見渡せ、その一区画にはソバの花が咲く。接客カウンター越しにもその風景が楽しめる。

看板は清水さんが制作した。白川郷では看板を掲げるのにも保存会の申請や会議が必要だ。

 『サウスサイドカフェ』という店名は、白川郷のほぼ南端に位置するから。子どもと散歩していたとき、観光客が「ここから先は何もないから帰ろう」と言っているのを聞いたことがあり、「この先もいい場所があるよ」と伝えたい思いから名づけた。

 営業は子育てと両立させるため週2回ほど。現在、来店客の9割が外国人観光客だが、英語が堪能な清水さんは会話を楽しみにしているという。また、「クリスマスにホールケーキを焼いて」など、イベントごとに声をかけてくれる地域客も。コロナ禍のときは村の同業者から依頼されて接客に必要な英語を教えたことがあった。

 「地域から頼っていただけるのはうれしいこと」と清水さん。今後は白川郷の文化なども発信していきたいと教えてくれた。

合掌造りの形をしたティラミス(1カット700円)、カフェラテ(600円)が人気。

右に見えるのは夫の両親が営む「合掌造り民宿 志みづ」。そのすぐ近くに清水さん一家の自宅がある。ニワトリをペットとして飼っていて、「家計の助けになるくらい卵を産んでくれるんです」と清水さん。

村内の職人に依頼して屋根の葺き替えをした。職人が少ないため、葺き替えの順番が回ってきたのは開業して半年後。改修費用は補助金を活用し、足りない分は貯金で賄った。

白川村の魅力はここ!

◎ 美しい自然のなかに伝統的な建物が調和している。 ◎「結(ゆい)」と呼ばれる住民同士による助け合いの精神が暮らしに根付いている。
◎自然も伝統も、村の人たちが団結して守っている。

観光地でお店を開くためのアドバイス

開業の地がオーバーツーリズムであれば、英語表記のホームページやSNSで地域の決まりごとなどを事前に伝えたほうがよいかもしれません。また、私のカフェでは白川郷でランチができる場所をよく質問されるのですが、開業前にその土地に必要な業種をリサーチするとよいのではないでしょうか。

• 清水さんのとある一日 •

6:30 … 起床。朝食の準備。
7:20 … 子どもたちが起床。朝食。
8:30 … 車で保育園へ子どもたちを送る。
9:00 …カフェの開店準備(メニューの仕込みなど)。
10:30〜15:00 …カフェ営業。
15:30 … 掃除などをして閉店。保育園へお迎え。
17:30 …夕食。
※次男が保育園に登園しない日は9:00ごろから次男と散歩。12:00ころに一時帰宅してきた夫とともに昼食。13:00に夫を送り出したあとは、次男の昼寝。友人の店に行き、情報交換をすることもある。

白川村 移住支援情報


空き家の再生活用や起業支援が充実

白川村の移住支援には、空き家再生活用事業補助金、通勤就職者助成金、起業者支援事業補助金などがある(詳細はWEBサイトを参照)。村では、地域おこし協力隊として先に移住したメンバーと連携して、移住交流窓口業務を運営。移住交流窓口では、メンバーの実体験を通した“きめ細かなサポート”を目指している。

問い合わせ/白川村移住交流窓口 ☎︎05769-6-1311
✉shirakawa-go-iju@vill.shirakawa.lg.jp

大白川温泉「しらみずの湯」は、源泉かけ流しのお湯でからだが温まる。

ブナやナラの原生林に囲まれる「白山ブナの森キャンプ場」。

「空き家バンクをはじめとした移住定住情報については、白川村役場ホームページに掲載していますのでご覧ください!」
観光振興課 大塚秀美さん

文/横澤寛子 写真提供/清水朋恵さん

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