生活史が不明だった小さな外来種 <ウシガエル斜睾吸虫>は外来種のみを宿主にする?
現在の日本には、アメリカザリガニやブラックバスなど数多くの外来種が確認されています。
これらの生物は目に見える比較的大きな生物たちですが、実は外来種の中には非常に小さな生き物もいるのです。
ウシガエルと吸虫
ウシガエル斜睾吸虫(Glypthelmins quieta)は名前の通り、ウシガエルに寄生する吸虫の一種で、日本では2007~2011年の行われた調査で初めてウシガエルから記録されました。
宿主であるウシガエルは北米原産の大型両生類で、1918年に食用として日本に持ち込まれたものが野外で繁殖。現在は日本各地で見られるほか、特定外来生物に指定されており、生きたまま移動させることが外来法により禁止されています。
ウシガエル斜睾吸虫もウシガエル同様に北米原産の種であり、原産国の生活史では淡水貝を中間宿主としていることが知られていました。
ウシガエル斜睾吸虫の生活史
北米ではウシガエル斜睾吸虫の成虫がウシガエルの体内で産卵し、虫卵が糞とともに水中へと放出。やがて虫卵は淡水貝(中間宿主)に感染したものが、貝の中で幼虫になり、それがウシガエルの体表に付着します。
ウシガエルは脱皮した皮を食べる習性があるため、体表にいた幼虫がウシガエルの体内へと侵入します。このように、ウシガエル斜睾吸虫は巧みにウシガエルと淡水貝を利用して生活しているのです。
一方、日本ではウシガエル斜睾吸虫の成虫のみしか発見されていないことから、日本国内での生活史は不明であり、中間宿主はこれまで分かっていませんでした。
寄生虫と宿主まるごと移入
そんな中、東邦大学理学部の研究チームは日本国内におけるウシガエル斜睾吸虫の中間宿主を見つけるため、ウシガエルが分布する水域から157個体の淡水貝3種(サカマキガイ、ヒメタニシ、ヒメモノアラガイ)を採集し解剖を行いました(The first intermediate host of the invasive frog trematode Glypthelmins quieta in Japan)。
研究の結果、サカマキガイ(Physella acuta)のみからウシガエル斜睾吸虫の幼虫が発見され、ヒメモノアラガイとヒメタニシはいずれも未感染でした。
幼虫が見つかったサカマキガイはウシガエルとウシガエル斜睾吸虫と同様に北米原産の生物で、未感染だった2種は北米原産ではありません。
そのことから、ウシガエル斜睾吸虫は既に日本で定着している北米原産の外来種2種を宿主として利用している可能性が高いと結論付けられました。
寄生虫の侵入
同時に、この研究でウシガエル斜睾吸虫の侵入経緯についても、文献調査が行われました。
文献調査の結果、1975年に執筆された日本産両生類の寄生虫リストには本種が記載されていないことに加え、本種が初めて日本で報告されたのは2007~2011年であることから、1970年代~2000年代に侵入した模様です。
また、サカマキガイは1950年頃に日本の野外で見つかり始め、持続的に導入されていたと考えられています。
そのことから、1970年代以降の持続的にサカマキガイが導入されたことが日本にウシガエル斜睾吸虫が侵入した経路である可能性が高いとされました。
寄生生物も定着する
このように、既に日本で定着していた外来種2種により、ウシガエル斜睾吸虫は日本での生息が可能になりました。
外来種の定着は、その外来種を宿主とする寄生生物の侵入も可能にしていることを心に留めておかなければいけません。
(サカナト編集部)