小1から続く登校渋りは学習の困りが原因?教育センター不登校窓口に相談。知能検査で分かったことは
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
市の教育センターへ登校渋りの相談
小学校入学当初から登校渋りが激しかった長男。1年生の10月頃にスクールカウンセリングを受けました。その時スクールカウンセラーの先生から、市の教育センターに不登校専門の窓口があり、そこへ相談へ行くことを勧められました。また、勉強への苦手さが強いようであれば知能検査の一つである「KABC-Ⅱ」を受けられることも教えてもらいました。当時は正直、いろいろなところへ相談へ行ってもあまり変わらないのではないかとマイナス思考でした。 でもやれることはやっておこうと思い、教育センターに予約をしました。
相談の予約はすぐに取れ、1年生の1月頃に訪れました。 相談員さんはとても理解を寄せて話を聞いてくださり中でも印象的だったことは、「長男は同じ直線を行ったり来たりする常同行動があり、学校ではそれをしないようにしている」と話した時、相談員さんが「落ち着くために動きたくなる気持ちを我慢して過ごしているなんてそれはしんどいよね。本当によく頑張っているんだね」と言ってくださったことでした。
この話を今までここまで理解してくれる人がいなかったので、私はすごく嬉しかったし、改めて長男の頑張りを感じました。 さらに、本当に学校へ行けなくなった場合の居場所として教育支援センター(適応指導教室)があることなど教えていただき、何も知らなかった私は少し気持ちが楽になったことを覚えています。
検査結果を一人で聞きに行くと
「KABC-Ⅱ」の予約はすぐには取れず、長男が2年生の6月に検査を受けました。検査は認知能力と基礎学力を推定し、学習の得意不得意を知ることができ、学校や家庭での支援に活かすことができると説明を受けました。約2時間の検査を終え、後日私1人で結果を聞きに行きました。
長男はそれぞれの力にそこまで大きな開きはなく、全体的には平均だと言われました。 そこまで目立つわけではないが平均下は数字と書き。まさに私が苦手そうだなと感じていたことでした。 また、文章題や入り組んだ話など複雑な情報が苦手そうで、学校でも急な指示や全体の指示が聞けてない場面があるかもしれないと言われました。それも納得でした。
さらに検査時の行動観察から、長男は独特な鉛筆の持ち方をしており、それも指摘されました。長男は自分がこうしたいというこだわりが強いため、鉛筆にしろ箸にしろ小さい頃から正しい持ち方を教えるのが困難でした。おそらくもう直せないだろうと思っていたし、本人もそれで良いと言っているのでなにもできずにいたのですが、改めてほかの人に言われると私の力不足だったかなと少し気にしてしまいました。 学校へ行かないと書く機会がグッと減るため、家でも積極的に書くことをやり、枠いっぱいにゆっくり書くことを意識すると字の上達につながるとアドバイスをいただきました。
検査結果に基づいて
検査の結果をもとに、長男の認知様式に合った学習の仕方を教えてもらいました。 例えば漢字なら、「山」という字は山の形のようになっていて……とイメージを持たせてあげると覚えやすいことや、画数の多い漢字はパーツを分けて何と何が組み合わさっているかパズルを作って組み立てさせるのも良いこと、算数は問題文を図や絵にして視覚的に導いてあげると良いことなど教えてもらいました。苦手と思っていることも学習の仕方で苦手ではなくなる場合もあり、個々に合った学習方法が見つけ出せると良いと言われ、私も大変勉強になりました。
検査を受けて良かったこと
最初はピンと来ていなかったのですが、検査を受けて良かったと思いました。 のちに発達検査でも同じようなことを言われる特性もあったり、2年生から勉強のつまずきが見られるようになったのですが、検査で教えてもらったことを参考に私も教えたりできるようになりました。また、困った時は担任の先生にもこういうのが苦手なようで……と伝えやすくなり、先生が学習の仕方を提案してくださったり、一緒に考えてくださったりしたこともありました。
現在4年生の長男。今でも苦手な単元はこういうやり方だと分かりやすいかな?と家庭学習の際は私の考えを提案してみたり、長男も成長するにつれて自分で試行錯誤し、「このやり方が僕には合ってるかもしれない」と言う場面も出てきました。苦手な科目を好きになるのは難しいし、無理強いすることではないと思いますが、分からなかったことが分かるようになった時は本人も喜んだり達成感を感じたりしています。勉強ができたり分かったりすることが長男にとっては登校へのモチベーションには直接は繋がらないですが、そういったことも何かのきっかけだったり、自信の積み重ねになっていくと思うので、長男に合った方法を模索しながら無理なくサポートしていけたらと日々思っています。
執筆/ねこじま いもみ
(監修:初川先生より)
長男くんがKABC-Ⅱを受検されたエピソードをありがとうございます。「検査を取る」という場合に、WISC-ⅣやWISC-Ⅴなどの知能検査をはじめに勧められることが多いと思います。WISCの場合、全体的な知的発達の水準や4つないし5つの観点から知的発達に関する得意不得意を見ます。WISCの受検によっても、学習の進め方、得意な学び方に関する事柄も出てきます。ただ、どの検査にも測れるものと測れないものがあり、WISCだけではお子さんのつまずきや困りごとを見るには不十分と専門家や支援者が判断したり、SLD(限局性学習症)が疑われる場合などにKABCも追加で実施されることが多いように感じます。
さて、長男くんに関しては、視覚的に捉えて理解することのほうが、言葉での説明によって理解するよりも得意といった結果が出たようですね(※このあたりに関しては、WISCを受検しても同じような助言をもらうこともあります)。コラムに書かれていたように、漢字学習で視覚的イメージを活用したり、図形的に分解して覚えやすくしたりといったやり方がまずあります。そうしたやり方をほかの学習内容に関しても活用・応用していくことになりますが、ここは工夫や経験などによってさまざまなやり方を考え、実際にやってみる(試行錯誤する)ことになります。担任の先生はこうした学習方法に関してさまざまレパートリーをお持ちかもしれませんし、相談員の方もご存知かもしれません。
保護者の方だけで考えてやっていくのも1つですが、相談しながら、お子さんに合うやり方を探っていくこともよいと思います。そして、長男くんは4年生になり、自分に合う方法はどんなものか試してみた際に「合う合わない」が分かってきているようですが、だんだん本人が「これは自分に合う」と感触を掴めるようになってきたり、「こうやってみたらできるかも!」と自分で工夫できるようになったりもします。まずは、周囲の大人が、お子さんに合うやり方を提案していき、ゆくゆくは本人が自分に合う方法を理解していく。このプロセスをぜひ歩んでいただけたらと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。