“儚さ”の中に“強さ”があるマリー、その芯の強さに共鳴した──アニメ『ずたぼろ令嬢は姉の元婚約者に溺愛される』リレーインタビュー第1回 マリー役・本村玲奈さん
7月から放送がスタートした『ずたぼろ令嬢は姉の元婚約者に溺愛される』。本作は、両親に虐げられて育ったマリーが、亡くなった姉・アナスタジアの代わりに大富豪のキュロス・グラナド伯爵に嫁ぐというストーリー。マリーだと勘違いしてアナスタジアに求婚してしまったキュロスと、キュロスに溺愛されながらもなかなか受け止めきれないマリーの、“すれ違いラブストーリー”が描かれます。
アニメイトタイムズではリレーインタビューを実施し、本作の魅力に迫っていきます! 第1回は主人公のマリーを演じる本村玲奈さんを直撃。マリーのキャラクター性や作品の見どころについて語っていただきました。
【写真】アニメ『ずたぼろ令嬢』リレーインタビュー第1回 本村玲奈
儚さの中にある強さ
――原作や関連資料をご覧になって、どのような印象をお持ちになりましたか。
本村玲奈さん(以下、本村):グラナド城で暮らしているみんながとても魅力的だなと感じました。主人公のマリーやキュロスはもちろん、ミオやトマスも含め全員が愛らしく温かかったので、心温まる作品なんだろうなと思いながら読み進めたのを覚えています。
オーディション用の原稿を先に読ませていただいたのですが、自分の中でマリーに強く共鳴する部分があり、オーディションの段階から「絶対に演じたい!」と思っていました。ほかの声優さんのイメージに寄せるよりも、「自分ならどうマリーを演じるか」を軸に台本や小説、コミックスを読めたのがとても印象深いです。
――特に“共鳴”したのは、どのような点でしょうか。
本村:マリーは悲しみや寂しさを抱えつつ、その奥に芯の強さがあるんです。まず、その「儚さの中にある強さ」に惹かれました。私は、自分自身のことを“儚い”とは思いませんが(笑)、粘り強く簡単には諦めないところは共通しているなと感じます。
――どんなときに自分自身の“強さ”を感じますか?
本村:オーディションのエピソードで言うと、テープオーディションからスタジオオーディションに進んだときに、どうしても言いづらいセリフがあったんです。これはしっかり練習しないといけないと思い、そのセリフを1日100回繰り返し練習しました。結果、スタジオオーディション当日には言えるようになったんです。「とりあえずやってみる」という姿勢はマリーと似ている気がします。
――そのエピソード、マリーらしさもありますが、マリーへの恋をけっして諦めないキュロスらしさも感じますね。
本村:確かにそうですね(笑)。キュロスのまっすぐさも好きなので、似ていると言っていただけるのは嬉しいです。
――ところで本村さんは、マリーのような“ザ・主人公”は初めてですよね。
本村:そうなんです。素直でまっすぐな女の子をメインとして演じるのはとても新鮮でした。
――オーディションに合格したときはかなり嬉しかったのでは?
本村:合格の連絡を受けた時期にスマホが壊れてデータが全部消えてしまったのですが、合格の喜びで心は無事でした(笑)。
――アフレコのときもスマホが壊れていたとうかがいましたが(笑)。
本村:そうなんです。電源も落とせないし、携帯ショップに行こうにもマップが開けなくて……。困っていたら田中美海さんが付き添ってくださって、本当に優しい共演者の皆さんに支えられているなと改めて実感しました。
――では、マリーを演じるうえで大切にしていることを教えてください。
本村:マリーは誰かに言葉をかけてもらう、愛情を与えてもらう、贈り物をもらうという、“初めての経験”をたくさんしていく子です。喜び、嬉しさだけではなく、悲しみや驚きといった感情も味わっていきます。とにかく初めてだらけの子なので、私自身も頭で考えすぎず、その瞬間に湧き上がった感情をできるだけ素直に、オープンに表現したいと考えました。
――マリーというキャラクターを作り込みすぎない、と。
本村:作品によっては事前にキャラを作り込むこともありますが、今回は作り込みすぎるとマリーが感じる瞬間的な喜びや驚きを表現しきれない気がしたんです。未熟な自分がうまくやろうとするより、下手でもいいからその場で感じたものを試したい。そういう気持ちでマイクの前に立たせていただきました。もちろん失敗して先輩方を巻き込んでしまうこともありますが、北川(隆之)監督や音響監督の亀山(俊樹)さん、そして共演者の皆さんのサポートのおかげで、楽しく演じられています。
演技の方向性を定めたPV収録
――第1話のアフレコに入る前に、PV第1弾の収録があったと思います。キュロスとの出会いをピックアップした映像でしたが、こちらの感想はいかがでしたか?
本村:オーディションのあと、マリーとして初めて演じる機会だったので、スタッフの皆さんと相談しながら臨ませていただきました。オーディションと同じように私の素の声を大事にしつつも、PVのマリーはまだ“ずたぼろ”の真っただ中なので、感情に蓋をしているイメージを大事にしました。キュロスと会話するのも難しく、目を合わせることすら怖い。そんなマリーの緊張感も相まって、私自身も真空状態にいるような感覚になりました。
印象的だったのは、亀山さんから「最後に少しだけキュンとする瞬間を見せてほしい」とディレクションをいただいたことです。マリーには「私が幸せになれるはずがない」という思い込みがあるので、その“キュン”を表現するのが難しく、何度もリテイクを重ねました。そのときは、この先の本収録にちゃんと臨めるのか、心配になったのを覚えています。
――PV収録があったことで、第1話のアフレコも入りやすかったのでは?
本村:方向性が定まったのでありがたかったです。PVはアフレコ開始前に公開されていたので、自分でも何十回も再生して(笑)、作品の世界観を体に染み込ませました。ただ、第1話のアフレコ時には映像がほとんど完成していたのですが、口パクにぴったり合わせるのが難しくて……。そんなとき、キュロス役の濱野大輝さんとミオ役の日笠陽子さんが「ここは別録りだよ」「台本にはこうメモすると楽だよ」と横からフォローしてくださって、本当にありがたかったです。まさにキュロスとミオに支えてもらうマリーのような感覚です。
――確かに画ができていると、口パクに合わせるのが大変だと聞きます。
本村:口パクをあとから直すこともあるそうですが、なるべく合わせないといけないので、尺に収めるのが大変でした。
――PVでも描かれた、マリーとキュロスが出会うシーンはいかがでしたか?
本村:イプサンドロスへの興味を初めて人に語れて嬉しさが爆発するのですが、直後にアナスタジアと自分を比べて現実に突き落とされる……。その振り幅の大きさに息が詰まりそうになりました。喜びが大きいほど悲しみも深くなる。マリーのつらさがダイレクトに伝わってきて、きっと視聴者の皆さんも驚かれたのではないかなと思います。
――アナスタジアが亡くなったあと、マリーが母エルヴィラに叱責されるシーンも驚きました。
本村:私も衝撃を受けたシーンです。ただでさえ姉を亡くした直後なのに、「お前が死ねばよかった」と言われ追い打ちをかけられる。胸が苦しくなる台詞ですが、このような台詞があるからこそ、マリーが背負う痛みや作品の骨太さが伝わると思います。
――そこからのマリーはずっと感情を閉ざしていましたね。
本村:期待すればまた深く傷つくとわかっているので、何も感じないよう心を凍らせている状態です。セリフにも「現実には期待していない」とありますが、まさにそのとおりの心情なんだと思います。
キュロスの“潔さ”が大好き
――マリーは自己肯定感が極端に低いキャラクターですよね。
本村:マリーはもっと自分に自信を持ってもいいはずなのに、巡り巡ってくる幸せをなかなか受け入れられないんです。それは、せっかく手にした幸せがいつか取り上げられたとき、自分が耐えきれないとわかっているからだと思います。物語が進むにつれて、その弱さの原因が少しずつ掘り下げられていくので、ぜひ最後まで見守っていただきたいです。
―― 一方で、湯の番であるチュニカによってマリーの雰囲気が少し華やぎます。
本村:お風呂についたときに、自分が薪割りとお風呂掃除をすると勘違いしたところが面白かったです(笑)。ただ、このあとのドレス姿のシーンも含め、マリーは状況を把握しきれていないので、流されるだけの状態でした。まわりはマリーの美しさに見とれるけれど、マリー自体は戸惑ったまま。そんな状況だったのかなと思います。ただ、チュニカをはじめグラナド城のみんなはユーモアがあって、視聴者の皆さんもきっとホッとしたんじゃないでしょうか。
――そして、キュロスとの結婚を拒絶するという衝撃的な展開がありました。
本村:こんなに大きな声が出るんだと驚きましたし、マリー自身ここまで声を張り上げたのは初めてだったんじゃないでしょうか。でも、状況がめまぐるしく変わりすぎて、「無理ですっ!」と反応するしかなかったのかなと思います。それがあまりに唐突だったのが面白いポイントでした。この作品は、コミカルな瞬間や視聴者の予想を裏切るシーンが随所に盛り込まれていて、そこが大きな魅力です。キャラクターの表情の振り幅をたっぷり楽しんでいただきたいです。
――では、本村さんからご覧になったキュロスの印象についてもうかがえますか?
本村:キュロスはとってもまっすぐで、「君は綺麗だ」「もっと話がしたい」とストレートに思いを伝えてくれます。普通なら照れてしまいそうですが、迷いがないんです。私はその潔さが大好きです。
キュロス役の濱野さんも同じくまっすぐで、頼もしい方です。新人の私が不慣れなこともあり、現場で緊張していると「わからないところある?」と声を掛けてくださって。掛け合いでもリードしてくださるので、まさにキュロスのような頼れる存在です。
――第2話以降はさらにキュロスとの掛け合いが増えていきそうです。
本村:とても楽しいです。キャスト陣のエネルギーがすさまじく、グラナド城のように賑やかで温かな現場なので、自然と掛け合いも弾みます。食卓を囲んで団らんするシーンも増えるので、このキャラクターたちとご飯を食べたいなと思っていただけたら嬉しいです。
――タイトルにある「溺愛」にも注目したいと思います。
本村:キュロスからマリーへの溺愛ぶりは本当にすごいです! 冒頭からエンディングまで、常にマリーのことを考え、愛情を注いでくれます。その優しさはグラナド城のみんなにも向けられていて、そこもまた家族としての"溺愛"なのかなと感じました。その温かさを感じながら、最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです。