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発達障害の特性のある子どもを育てる母親への支援〔言語聴覚士/社会福祉士〕が解説

コクリコ

発達障害の特性のある子の母親は、うつ病や睡眠障害の発生率が高いと言われています。言語聴覚士・社会福祉士の原哲也先生が、「発達障害の子の子育ての困難」にまつわる母親のストレスに対し、どのような支援や解決法があるか解説します。

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発達障害や発達特性のあるお子さんと保護者の方の関わりについて、言語聴覚士・社会福祉士であり、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表として、発達障害のお子さんの療育とご家族の支援に長く携わってきた原哲也先生が解説します。

記事の最後には、原哲也先生へのご相談募集のお知らせもあります。最後までご覧ください。

今回は、発達障害の特性のある子どもを育てる「母親」が、「自分の人生」を取り戻し、自分らしく生きるにはどうしたらいいかを考えていきます。

発達障害の特性のある子どもを育てる母親の現状

発達障害の特性のある子どもの子育ては大変です。

発達障害の特性のある子を育てる母親のストレスの原因を具体的に見てみると
 ①発達障害の特性のある子の子育ての困難
 ②発達障害の特性のある子を持つことによる精神的負担
に大別されます。

これらのストレスの中で多くの母親は、好きなものから遠ざかり、自分の幸せや喜びを求める余裕を失い、自分らしく生きることができなくなってしまっています。

この状態から脱し、母親もまた一人の人として自分らしく生きるには、これらのストレスを軽減する必要があります。今回は、母親のストレスのうち、
①発達障害の特性のある子の子育ての困難を原因とするストレス
を軽減するにはどうしたらいいかを考えていきます。

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発達障害の特性のある子の子育ての困難の軽減

発達障害の特性のある子の子育ては大変です。こだわり、癇癪、常同行動、パニック、偏食等、子どもは次から次へと周りの大人にとって「困った行動」をし、そのたびに育児を主に担う母親は困り、疲れ果てます。このストレスを軽減するには、子どもの「困った行動」を減らすことですが、それにはどうしたらいいでしょうか。

子どもを「理解」し「適切な関わり方で関わる」ことです。それ以外に方法はありません。

このコラムでも再三お話ししてきたことですが、発達障害のある子は生まれ持っての特性によって今のその状態にあります。こだわりもパニックも、子ども本人にはどうしようもないのです。子ども本人もどうしようもないその行動を変えるには、その子がなぜそう行動するかを「理解」し、その子にとって「適切な関わり方で関わる」ことです。

子どもを「理解」し、「適切な関わり方で関わる」=「適切に対応する」ことで、子どもの困った行動は減り、親子の関係がよくなり、嵐のような生活から穏やかな生活に変わっていくことをめざすのです。

また、第11回(前回)で見た、母親の悩みの中には「子どもがなぜそういうことをするかがわからないことが辛い」という趣旨のものがありました。「理解」して、「適切な対応」をしても、子どもの行動が変わるには時間がかかります。しかし「なぜそうするかがわかる」「子どもの中で何が起きているかがわかる」ことは、それだけで母親の支えになると私は思います。

さて、ではその「理解」と「適切な対応」を親はどうやって知ればいいのでしょうか。

①専門職とつながる

「理解」と「その子に適した対応」を知るには、発達障害についての専門的な知識と経験がどうしても必要です。それを持っているのは、医師、言語聴覚士、作業療法士、臨床心理士などの専門職です。ですから、まずは専門職とつながりましょう。

発達障害の特性のある子の状況は千差万別で、「理解」も「適切な対応」も千差万別です。なので、専門職に「そのお子さん」を見てもらわないことには、「そのお子さん」の「理解」と「適切な対応」はわかりません。

療育を始めておられない方は、まずは、

●医療機関 
●児童発達支援センターや児童発達支援事業所 
●地域の保健センター
●住所地の自治体の福祉関連課

などのうち、アクセスしやすいところに相談をして、そこから専門職につないでもらいましょう。

②「理解」と「適切な対応」についての情報を求め、悩みを一緒に解決してもらう

専門職のもとで療育を始めたら、専門職に我が子の「理解」や「適切な対応」を教えてもらいましょう。そして、家や園での悩みを相談し、解決のための「具体的な方法」を一緒に探してもらいましょう。

それらは、本来は、専門職の方から保護者に伝えるべきことだと私は思いますが、実際は、必ずしもそうなってはいません。わからないことは遠慮せずにどしどし質問をしてください。

専門職の力量もひとりひとり異なります。相談しても一般論だけで具体的な解決方法がいつまでたっても得られないならば、それが得られるところを新たに探すことを考えていいと思います。

③ペアレンティング

発達障害の特性のある子に適した配慮や工夫に関して、保護者として知っておきたいことをまとめたものとして、ペアレンティングがあります。

『よくわかる ADHDの子どものペアレンティング 落ち着きのない子を自信をもって育てるために』〔榊原洋一著 ナツメ社(2024/3/12)〕がおすすめです。

子どもとの関わり方という意味では、拙著『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』〔原哲也著 学苑社(2018/9/20)〕も参考になるかと思います。

※ペアレンティングとペアレント・トレーニング
ペアレンティングと似たことばに「ペアレント・トレーニング」がありますが、両者はまったく異なるものです。ペアレント・トレーニングのターゲットは「子ども」です。子どもの行動が変わることが目標であり、そのために、親がよい関わり方を学ぼう、というものです。

一方、ペアレンティングのターゲットは「親」であり、親が子育てのスキルを身につけることが目標です。子育てのスキルには親としての心の持ちようや子どもの好きなこと、嫌いなことを知って子どもも大人も心地よい関わり方を見つけることなどが含まれます。

そうして親が「子育てのスキル」を身につけることで、子どもは適切に意思を尊重され、主体的に生活できるようになり、「結果として」親を困らせていた行動が落ち着いたり、親子関係が改善したりする、同時に、子育てに悩んでいた親の気持ちも楽になる、といったことをめざします。

④書籍やインターネットによる情報を参考にするときには

今や書籍・インターネットには、発達障害の特性のある子の子育てについて、「こうすれば変わる」「発達障害の子どものための○○法」といった情報があふれています。情報の発信者も保護者の方、専門職、研究者などさまざまです。

これらの情報を参考にする際には、それがあくまでも「よその子のケース」だったり「一般論」であることを肝に銘じる必要があります。「この方法がよかった」という情報を読んで、それなら我が子にもいいはずだと考えて、「方法に子どもを当てはめる」ようなことをすると、かえってよくないことがあります。

繰り返しますが、発達障害の特性のある子どもの状況も「適切な対応」も千差万別です。「その子に」合った方法は何かということをいつも頭においてほしいと思います。

発達障害の特性のある子がその子らしく生きられるようにするために「理解」と「適切な対応」を 

A君は、「お母さん大好き」「お母さんに喜んでもらいたい」「かっこいいボクでいたい」と思っています。でも「夕ご飯だから、おもちゃはおしまい」と言われると、大騒ぎをして、お母さんを叩いてしまいます。「お母さんが大好きで喜んでもらいたくてかっこいいボクでいたい」というA君らしい姿ではなくなってしまうのです。

こんなふうに、発達障害の特性のある子の「自分らしさ」は特性ゆえに、実現しないことが多いです。彼らは「こうありたいのにどうしてこうなっちゃうの?」という思いの中で日々を生きているのです。

このときA君の状況が「理解」されていたらどうでしょう?

「切り替えには時間がかかる、突然『おもちゃはおしまい』と言われても、気持ちも行動も調整できない」ことが「理解」されていて、「この砂時計が落ちたらおしまいよ」と早めに予告しておいたら? 時間が来たら「さあ一緒に片付けよう」と声をかけていたら(適切な対応)?

A君は砂時計を見てそろそろ終わりだなと予測して気持ちの準備をし、お母さんの声かけで一緒に片付けができたかもしれません。そうすれば「お母さんが大好きで喜んでもらいたくてかっこいい自分でいたい」というA君らしさは実現したでしょう。

周囲の大人が子どもを「理解」し「適切な対応」をすることは、確かに大人にとって「困った状況」を減らすことができるという意義があります。今回は「母親のストレスの原因である困った状況を減らすために」という文脈で「理解」と「適切な対応」についてお話をしました。

しかしA君の例に見るように、「理解」と「適切な対応」は、それ以上に子ども本人が「その子らしく」生きられるようにする、という意味で、この上なく、重要なことなのです。子どもの「その子らしさ」を実現するために「理解」と「適切な対応」を、ということを最後に声を大にして言いたいと思います。

ーーーーーーーー
今回は、「発達障害の特性のある子どもを育てる母親への支援」の中から、「子育ての困難についての支援」について原哲也先生に解説していただきました。「発達障害の特性のある子」を育てるお母さんが、一人の人間として自分らしく生きられるよう、子育てのストレスを軽減する方法を教えていただきました。次回は、「発達障害の特性のある子を持つことによる精神的負担への支援」について、原先生にうかがいます。

原哲也
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事・言語聴覚士・社会福祉士。
1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。

2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。

著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。

原哲也先生へのご相談を募集

コクリコでは、原先生の連載で取りあげるご相談を募集しています。お子さんの発達障害、発達特性、療育、家族の関わりについてなど、お悩みをお寄せください。

くわしくはこちら https://cocreco.kodansha.co.jp/general/present_event/sPFh8

「発達障害の子の療育が全部わかる本」原哲也/著

わが子が発達障害かもしれないと知ったとき、多くの方は「何をどうしたらいいのかわからない」と戸惑います。この本は、そうした保護者に向けて、18歳までの療育期を中心に、乳幼児期から生涯にわたって発達障害のある子に必要な情報を掲載しています。必要な支援を受けるためにも参考になる一冊です。

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