日本のドローン関連ビジネスの現実[春原久徳のドローントレンドウォッチング]Vol.84
ソニーのドローン「Airpeak S1」が2025年3月末での販売終了から、国内のドローンビジネスの安定成長を考える
今月、ソニーのAirpeak S1が2025年3月末で販売終了というニュースが流れてきた。
https://www.drone.jp/news/20241105104234102496.html
一部のメディアに対し、ソニーは「ドローン事業撤退」ではないというコメントを出しているが、次のモデルの計画が出されないままに、現行モデルの販売終了は事実上、機体本体の事業の大幅見直しということであろう。
CES2021で華やかに発表し、2021年の年末から販売になり、3年間で販売終了ということになった。3年間での事業計画上の販売見込み台数が大きく及ばなかったということだろう。
ドローン関連ビジネスの区分け
ドローン関連ビジネスにおいては、筆者が2016年から執筆している「ドローンビジネス調査報告書」(インプレス)でも、機体本体関連、サービス関連、その他周辺サービスの3つで構成し、その市場規模を算出している。
日本のドローン機体メーカーの状況
機体本体関連は、機体メーカーと機体メーカーに部品を提供したり、場合によっては製造委託を受けたりしている企業がそこに含まれているが、やはり中心になるのは機体メーカーであろう。
国内の機体メーカーのビジネス状況を把握するために重要な指標は日本での出荷台数になるだろう。
これは以下のコラムでも書いたように、現状では年間5万3千台のドローンが出荷されており(正確にいうと機体登録をされており)、その内、35,000台程度がDJI、DJI以外の海外機体メーカーが5,000台程度、国産メーカーおよび研究開発などの自作機が10,000台程度となっている。
https://www.drone.jp/column/2024052114164888450.html
日本の機体メーカーのビジネスを理解するために、もう少し内訳をみてみたい。その参考になるのは、日本で1番最初に株式上場をしたACSLの財務報告書となる。 (必ずしもどのメーカーもこの通りではないが、近い形態になっていることが想像される。)
以下の表は、ACSLの決算説明資料ベースに筆者が作成した。
※21年3月期第3四半期以降は連結財務諸表における数値、それ以前の四半期については単体財務諸表における数値FY21/03までの決算期は4月から翌年3月まで。
FY21/12は4月~12月の変則決算。FY22/12以降の決算期は1月~12月
今回の四半期決算の数字を元に作成しているが、以前に発表された資料によると、FY17は売上156百万円、FY18は売上370百万円ということなので、ACSLは2018年12月に上場しているが、売上は偏りがあるが、今期は過去最高の売上高になりそうだ。 (このうち、今期の17億円はインドパートナー企業に対して地上走行ロボットの調達・供給を行うプロジェクトということで、必ずしも現在のACSLの事業に直結しておらず、来年度も継続するかに関しては不透明であり、この数字を除くとFY24は390百万円ということでFY18と同程度の水準になっているのは気になるところだ。)
もう少し詳細をブレークダウンしてみよう。 内容を大きく分けると、実証実験、プラットフォーム機体(PF2など)・SOTEN・その他用途特化型機体、その他に分かれている。いわば、実証実験、機体販売、その他の項目に分かれている。 その割合をグラフに示したのは以下となる。
2018年末の上場までにおいては、実証実験と機体の売上が入れ違いになるような形であったが、FY20以降実証実験の割合が大きくなった。これはこの頃から政府が中国機排除の姿勢を打ち出すとともに、国産化の流れが起き、ACSLが上場などに伴う知名度や信頼性の向上により、ドローンユーザー企業やサービス企業において、ACSL機体の評価といったところに繋がったからだと推測される。
しかし、その実証実験の流れがその後の機体販売(特にプラットフォーム機体)につながっていっていないのは、実証実験の結果、運用導入に至っていないということだろう。
また、FY21のその他を占めるのは、NEDOの国プロ3億円程度(SOTENのプロジェクト)となっており、その国プロの支援によりSOTENが2021年12月から販売開始されており、翌FY22にはSOTENが645台納品される形で機体販売の売上が上がっている。しかし、このSOTENもFY23は101台、FY24は51台(予測)とその後定着していない。 (その他にも、色々とこの財務報告の数字から伺い知ることが出来る。例えば、実証実験の1件当たりの平均は591万円程度だったり、プラットフォーム機体の平均単価は344万円程度だったり、SOTENの平均単価は156万円程度だったり。)
そして、ACSLのFY19からFY24に至るまでの営業利益は以下の通りだ。
日本でのドローン関連の上場一番手のACSLでさえ、この数字の推移は日本のドローン機体メーカーの厳しさを表している。
上場し公表されているACSLの数字を分析してみた。必ずしも、ACSLとは一致していない部分も多いとは思うが、日本のドローン機体メーカーの状況を鑑みることは可能だ。
まず、多くの機体メーカーの内容の分類としては、ACSLと同様に、実証実験、機体販売、その他の項目と分かれている。
実証実験やその他(国プロなど)は単年度(もしくは3年程度)のもので売上として定着していくものではない。機体メーカーとしては機体販売の売上をきちんと伸ばしていく必要がある。 当然、DJIや海外機体に関しては、この機体販売の数字が日本においては中心となっている。
日本の機体メーカーは以下の農薬散布機体を中心に展開しているメーカーを除けば、機体販売でなく、実証実験やその他(国プロなど)を中心に売上をたてている企業が大半だ。
日本の農薬散布機体メーカー:ヤマハ、MAZEX、ROBOTIX JAPAN、NTT e-Drone これ以外の機体メーカーは、年間100台の台数に大半は至っていない。
仮に1台単価が200万円だとした場合、100台で年間売上2億円となり、この後、中国DJI以外のインド、台湾、韓国(場合によってはウクライナ)といった海外製の機体メーカーの台頭が著しい環境の中、恐らく機体メーカーとしての存続は、この程度の台数では開発リソースや仕入れコストの関係で難しいだろう。(最低でも1,000台、年間20億円程度がボーダーラインとなってくるだろう。)
日本の機体メーカーの状況がこんな中で、そこで採用される部品に関しては、これ以上の厳しい状況となっている。 (もっと単価が低いこともあり、販売数は年間1,000どころか、年間10,000でも足りず、年間100,000ぐらいをミニマムの数字に掲げている部品も多い。)
これは日本のマーケットだけでなく、海外マーケットに目を向ける必要がある。 (しかし、この部品の世界においても、現状は中国が強い市場だ。特にバッテリー、モーター、カメラ、ジンバル、フライトコントローラーなどは中国が圧倒的に強い。)
日本のドローンサービス関連の状況
ドローンのサービス関連に関しては、大きくは2つに分かれる。オペレーションサービスとアプリケーション・ソリューションサービスだ。
そして、その内容も機体メーカーと似た形になり、実証実験、アプリケーション・ソリューション販売、その他の項目と分かれている。
オペレーションサービスは実証実験などの時に採用されるケースが多く(1日1人あたり10~30万円程度のケースが多い)、実際に日常的な運用が始まると、こういったオペレーションコストをかけることは出来ないため、内製化していく形となる。
また、ドローンサービス関連においても、機体メーカーと同様で、実証実験やその他(国プロなど)は売上として定着していくものではなく、アプリケーション・ソリューション販売の売上をきちんと伸ばしていく必要がある。
多くのドローン利用のシーンにおいて、既に実用化しているシーンは以下に示しているが、まだまだドローンの利用可能性は大きいものの、多くは実証実験や進んでいても運用検証といったステージにある。
既に実用化 ()内は使用機体
農薬散布(DJI/クボタ、ヤマハ、MAZEX、ROBOTIX JAPAN、NTT e-Droneなど)屋根点検(主にDJI)太陽光パネル点検(主にDJI)一部インフラ点検(DJI、Skydioなど)土木測量(工事進捗)(主にDJI)レーザー測量(DJI、国産機体など)
ここに挙げたように既に実用化されている分野においても、その使用機体はDJIとなっている。 また、それ以外、物流ドローンに関しては、採算性の検証が終わっておらず実用化に苦戦しており、最近ニュースで見る機会の多い防災ドローンも、何か事態が起こったときにテンポラリーに予算がつく形となっており、実装まで至っていない。
ドローンビジネスを立ち上げていくために
2015年以降、国プロという形で政府や自治体はドローン活用を拡げていくための予算措置を多く行ってきた。黎明期において、その予算措置があったために動き出したものもあったが、かなり多くの部分が、実証実験を実施し報告書の提出の後は雲散霧消してしまったものも多い。それは当事者としての反省もある。
今までの予算措置の中で、効果のあったものをいくつか挙げながら、今後の参考にしていきたい。
一つが、i-Constructionである。i-Constructionはこのコラムの2016年Vol.06で取り上げた。
https://www.drone.jp/column/201601131904313904.html
i-Constructionそのものがどのくらい当初の目的に沿う効果が出ているのかは不明ではあるが、この取り組みの中で、道路工事などの土木の現場において、ドローンでデータを撮る習慣が形成されていったことは現在の土木測量や工事進捗といった分野での実用化に結び付いている。
ここでの重要なポイントはドローンの活用の結果に対しての支援ということだろう。これは2017年4月1日に施行された改正FIT法により義務化された50kW以上の太陽光発電の保守点検・維持管理も同様だろう。
これは例えば、インフラ点検であったり、洪水や地震の危険区域のデータであったり、農地データであったり、山林データであったり、各種DXの動きと合わせ、このデータを取得の義務化といった部分に当初、補助金や助成金を入れるという形で定着を図ることで、実用化につなげていくことができるだろう。
もう一つが、農薬散布機にあったような購入の補助金・助成金である。これは当初、農家だけが利用可能であったが、現在では農家以外の散布事業者なども利用可能になっている。
これも実用検証を行っている分野においては、導入推進にむけての効果が期待される。
また、運用局面における安全性の向上のためには、後回しにされやすいセキュリティ対策や運用管理やメインテナンスといった部分に関しても、一定の運用安定性が確保される間は、こういった支援があるとよいだろう。
各ドローン関連企業は、自省も込めて、補助金や助成金に頼らない経営体制を築いていくためのステップを着実に踏んでいく必要があるだろう。