盛大な“こじらせ時代”を過ごした映画好きは悶絶!『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』
「アイ・ライク・ムービーズ」
秋頃に書店に並んだ某シティボーイ雑誌の、ファッション誌らしからぬ表紙に思わず目を留めた人は少なくないだろう。“レンタルビデオ屋で働いている”という10代らしき男子がスナックを手に物憂げな表情で佇む姿は、いわゆるボンクラ的バイブスでは片付けられない不思議な魅力を放っていた。12月27日(金)より公開の映画『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』の主人公、ローレンスである。
2003年のカナダが舞台の『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』は、人間関係がうまくいかず行く先々でトラブルを引き起こす映画好きな高校生ローレンスが主人公の青春コメディ。17歳のローレンスを演じる個性的なこの男子は、若手俳優でラッパーとしても活動しているらしいアイザイア・レティネンくんだ。
本作はカナダの新星チャンドラー・レヴァックによる長編デビュー作で、脚本には彼女の自伝的要素が含まれているという。トロント国際映画祭を皮切りに熱狂的な評判を呼んだ本作は、バンクーバー映画批評家協会賞で最優秀カナダ映画賞など4部門を受賞した。
共感性羞恥をしばき倒した先にある成長物語
カナダの田舎町で暮らすローレンスは映画が生きがいの高校生。社交性がなく周囲の人々とうまく付き合えない彼の願いは、ニューヨーク大学でトッド・ソロンズから映画を学ぶこと。唯一の友達マットと毎日つるみながらも、大学で生活を一新することを夢見ている。
ローレンスは高額な学費を貯めるため、地元のビデオ店「Sequels」でアルバイトを始め、そこで、かつて女優を目指していた店長アラナなどさまざまな人と出会い、不思議な友情を育む。しかし、ローレンスは自分の将来に対する不安から、大事な人を決定的に傷つけてしまい……。
お気に入りの映画館で観たい、明日のインディー映画の希望
90~00年代の悶々とした青春映画を好み、かつ地方都市出身だったりすれば本作はなおさらドンピシャだろう。そして映画ガチ勢こじらせ男子ローレンスの言動に共感性羞恥を刺激されまくり、しかし彼の成長を通して大きな感動を得られるはず。
なにかと軽視されがちなカルチャーの文脈ディグをオタク語りと揶揄することなく、そして当時⇔現在の自分が時代を超えて語り合うかのような、普遍的な成長物語として丁寧に優しく描いてくれたことに感謝すら覚える。『ゴーストワールド』の明らかな影響はありつつ、『スーパーバッド 童貞ウォーズ』は経由しない2020年代らしいアップデートが施されている点も見事だ。
人生の一定の時期を映画鑑賞に費やした経験のある人ならば、本作の予告編を観ただけでピンときたのではないだろうか。その予感は“アタリ”なので、インディー映画の豊かな未来を再び感じさせてくれる本作を楽しむべく、お気に入りの映画館に足を運ぼう。
『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』は2024年12月27日(金)より全国順次公開