ネガティブさに悩む人へ、それは「脳本来の性質」です【内田恭子さんとはじめる「マインドフルネス」】
内田恭子さんの「ここからはじめるマインドフルネス」
NHK『すてきにハンドメイド』テキストでは、フリーアナウンサーとして活躍を続ける内田恭子さんによる心ゆるむ「マインドフルネス」エッセイを好評連載中。
コロナ禍でマインドフルネスに出会い、その魅力を伝えたいと、マインドフルネストレーナーとしての活動をスタート。暮らしにマインドフルネスを取り入れて、いつも頑張る頭や心、そして体を少し休めたい。そんな方たちに、連載を通じて役立つ気軽なスキルをお届けします。
連載第5回をWEB特別版として公開します。
#5 ネガティブって悪いこと?
夜なかなか寝つけないとき、ありますよね。いつもはベッドに入るとすぐに寝てしまう私ですが、夜中にふと目が覚めると、もう大変。今、何時なんだろう? 一人、もんもんとしながら過ごす深夜の数分間。すぐにまた寝られればよいのですが、それができないと、いよいよ時計を見てしまう。4時か……、あと2時間しか眠れないじゃない。明日は一日中仕事なのに絶対疲れるよなあ。朝起きられるかな。睡眠不足で、仕事うまくいくかなあ。Aさんって初対面だけどいい人かなあ。怖い人だったら嫌だなあ。あ、Bさんのメールに返事したっけ。この間も連絡遅れちゃったし、だらしない人って思われちゃうかなあ。
そんな頭の中の声を吹き出しにしたら、アリのように小さな文字がひしめいているはず。しかもそのほとんどが、やらねばならないこと、不安なこと、心配なこと……。いわゆるネガティブ思考が占めている。皆さんも似た経験、あるのではないでしょうか。
こういった、同じようなことを繰り返し考え続ける状態を「ぐるぐる思考」とも言います。そして、この「ぐるぐる思考」のとき、脳はたいていネガティブなことを考え出します。でも、だからと言って、私は思考がネガティブなんだ、なんて落ち込む必要はありません!
本来、私たちの脳はネガティブ・バイアスという性質を持っています。これにより、よい経験よりも悪い経験を記憶しやすく、強く意識しやすくなっているのです。実は、このネガティブ・バイアス、人間が進化の過程で身につけた大事な特性。敏感に危険を察知し避けることで、命を守ってこられたわけです。脳って賢いのですね。けれども、私たちを守ってくれるはずのネガティブ・バイアスが、ときに私たちを必要のない不安や心配のループに陥れる原因にもなっているのです。
そもそもどうして私たちは、ネガティブがダメで、ポジティブはいいと思ってしまうのでしょうか。マインドフルネスのセッションでも「マインドフルネスを実践するとポジティブ思考ができますか?」という質問がよくあります。世の中がやたらとポジティブを推していたり、ポジティブは明るくてネガティブは暗いなんてイメージがあったりするからかもしれません。けれども、ネガティブバイアスが私たちにとって必要なものであるように、ネガティブな思考も生きていく上では必要なものなのです。
マインドフルネスでは、バランスが大切な要素だと考えています。まずは今、自分がどういう状態にあるかを知る。そして、ポジティブとネガティブ、どちらかに偏り過ぎてはいないか。そこに気づいて、バランスを整えていきます。 えー、気づくなんて簡単じゃない? なんて思っていませんか(笑)。けれども冒頭のように、夜眠れず次から次へと思考が浮かんでくるときに、私、今ネガティブループにハマっていると気づくのは、なかなか難しいことです。なぜなら、思考のほとんどは無意識に生まれているから。
その無意識に、意識的に気づく。これも、マインドフルネスのスキルの1つです。運動や楽器の練習と同じように、瞑想(めいそう)などを通じて、自分自身を客観的に見るトレーニングをしていく。すると、無意識にしていた意識に気づけるようになっていくのです。思考を客観的に見られるようになると、何が事実で、何が自分の頭の中で作り出した意識か少しずつわかるようになります。
「あと2時間しか眠れないじゃないか」は事実。でも、「疲れるかも」「起きられるかな」「だらしないと思われちゃうかも」は勝手に頭が生み出した思考。ふだん私たちは、その区別さえできず、気づかないうちに頭の中をネガティブなことでパンパンにして、自分で生み出した思考がまた新たなストレスの要因となっているのです。ネガティブな思考が出てきたら、まずはそれに気がつくこと。そしてちょっと立ち止まって、「これって事実? 自分で作り出したもの?」と客観的に分析してみる。そうすると、ほとんどのネガティブ思考は事実ではないとわかり、手放してもいいと思えるかもしれませんね。
もし今度、ネガティブ思考のループがやってきたら、「私、今ネガティブ・バイアス中!」と声に出してみましょう。言葉にすることでループに陥っていくのをストップでき、思考にとらわれている自分を客観的に見るきっかけになるかもしれません。
「ネガティブ・バイアス」、お守りの言葉として覚えておいてくださいね。
(用語解説)
ネガティブ・バイアス
心理学用語。ポジティブな出来事や情報よりも、ネガティブな出来事や情報のほうに注意を向けやすく、また、それがより強く長く記憶に残る現象を指す。
◆トップ写真・プロフィール写真提供/内田恭子
◆バナーイラスト/山本祐布子
プロフィール
内田恭子(うちだ・きょうこ)
フリーアナウンサー、マインドフルネストレーナー。慶應義塾大学を卒業後、フジテレビアナウンス室に入社。退職後、フリーアナウンサーとして活躍するかたわら、マインドフルネスに出会う。ヨーロッパ最古のマインドフルネスセンターであり国際基準となっているIMA(Institute for Mindfulness-Based Approaches)認定MBSR・MBCT-L(Mindfulness-Based Cognitive Therapy for Life)講師。日本マインドフルネス学会正会員。
内田さんが主宰する「kikimindfulness」
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