『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』川口敬一郎監督インタビュー|「好きだからこそ、汚したくない聖域に敢えて踏み込んだ覚悟を見ていただきたいなと」
2025年1月12日(日)より、TVアニメ『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』が好評放送中!
悪の組織「秘密結社ゼツエンダー」に立ち向かう5人の戦士「絆創戦隊キズナファイブ」。その最終決戦で浅垣灯悟/キズナレッドは、仲間たちの想いを胸に「絶縁王」と相打ちとなった…かに思われたが、目覚めるとそこは異世界だった。真っ赤なヒーローは冒険者となり、新たな仲間たちと共に今日も戦い続ける。
「戦隊ヒーローが異世界に転移する」という斬新な切り口で描かれる本作。加えて、キャスト・スタッフには御本家ゆかりの方々が数多く出演・参加しており、特撮ファンからも大きな注目を集めている。
アニメイトタイムズでは、川口敬一郎監督へのインタビューを実施。アニメと特撮を股にかける演出のヒミツについて、たっぷりとお話を伺った。
【写真】川口敬一郎監督が明かす『異世界レッド』のヒミツ【インタビュー】
川口監督を『異世界レッド』へと導いた絆
──先日、シリーズ構成の冨岡(淳広)さんにお話を伺ったところ、川口監督は筋金入りの特撮好きだとか。いつ頃からご覧になっているのでしょうか?
川口敬一郎監督(以下、川口):一度も卒業したことがないんですよ。戦隊に関しては、全作品を観ています。東京ドームでやっていた「NARIKIRI WORLD(なりきりワールド)」にも行ったんですけど、歴代の変身アイテムが並んでいるコーナーの一番古いものが『高速戦隊ターボレンジャー』だったので、「これは自分の方が沢山持っているな」と(笑)。
──「NARIKIRI WORLD」超えですね(笑)。特に影響を受けた作品についても伺いたいです。
川口:『五星戦隊ダイレンジャー』です。放送枠が25分とは思えないテンポ感というか。限られた尺の中で展開を詰め込む構成が魅力的でした。
──その頃から、映像作品としての構成を分析されていたんですね。
川口:少し生意気な見方かもしれませんが、そういう楽しみ方をしていました。ただ、もちろん普通におもちゃも買っていましたよ。
──今作のオファーを受けた際の心境はいかがでしたか?
川口:実を言うと、「異世界モノは今一番やりたくないな……」と感じていて、最初はお断りしようと思っていたんです。ただ、冨岡さんが自分を推薦してくださっていると聞いて、「とりあえず話は聞こう」と。
──冨岡さんの存在が決め手だったのですね。
川口:冨岡さんとは以前、とある方の誕生会でお話したことがありまして。その時に「いつか一緒に仕事したいですね」と話したことを覚えてくださっていたんです。その後で原作を読んでみると、絆がテーマになっていて「これも絆かな」と思いました。そういう流れで監督をやることになったんです。
受けるからには「しっかりやらねば」と思いつつ、最初は「やっぱり難しいな」と思いました。というのも、実写をそのままアニメに起こすのって難しいんですよ。自分自身好きだからこそ、アニメで特撮っぽい演出をやることがあまり好きじゃなくて。そういう意味では、「何で好きじゃないんだろう?」ということを考えながら、この作品を作っていた感じですね。「作り手が楽しんでいるだけ」という見え方にならないようにしたいなと。
「映像論としてはアニメ寄りになっているはずです」
──原作を読んだ際の印象や魅力的に感じたポイントをお聞かせください。
川口:「中吉先生は特撮がよっぽどお好きなんだな」とすぐに分かりましたし、「なるほどな」と思う部分が沢山ありました。中吉先生との顔合わせで色々な資料を見せていただくと、異世界側の資料よりキズナファイブ側の資料の方が多かったんですよ(笑)。実際にお話してみても、しっかりと物語を作る力がある方だと感じました。「これは引き受けてよかった」と心から思いました。
──特撮やオモチャの要素が詰め込まれた作品ですが、特に川口監督が見ていて「これはすごいな」と思った部分はありますか?
川口:「絆」というキーワードを軸に、色々な要素がリンクしている点です。物語はもちろんなんですけど、キズナレッドの武器や敵側のデザインもディティールまで考えられています。
──アニメの演出を作り上げるうえで、こだわったのはどんなところですか?
川口:全体的な部分になりますが、特撮パロディというよりはニチアサっぽい感じを出したいと思っていました。
例えば、キズナレッドの変身アクションは小川輝晃さんに殺陣を作ってもらって、鈴村展弘監督に撮影とカット割りまでやっていただいた映像を基に作成しています。ロトスコープではないんですよ。ロトスコにすると、実写をアニメに落とし込む過程でキレが失われると言いますか。今回はアニメーターに実写映像を観てもらって、そのうえでタイミングを取るというやり方にしています。その結果、アニメならではのキレのある変身ポーズになっていると思います。
──アニメならではの表現を残すという部分も意識したと。
川口:そうですね。やっぱりキャラクターと現実の人間の動きって、ちょっと違うんですよ。実写では静止している場面でも動きがあるじゃないですか。アニメの場合は完全に止まってしまうので、その辺りのメリハリは大切にしました。加えて、変身アイテムに関しても、実際に商品が出そうな見せ方になっていて。音声も頑張って録ってもらいましたし、特撮モノで変身ベルトが長く映っている場面とか。それらをどこまでやればいいのかも含めて、こだわった部分ではあります。
──「あるある」を見せるにあたっての塩梅というか。
川口:厳密に決まっているものではないので、最終的には自分を信じて、「自分の好きなタイミングが正しい」と思うしかなかったです。今回は音響監督も兼任させていただいたので、音の付け方も考慮しながら映像の尺は決めていました。先ほども言った通り、映像論としてはアニメ寄りになっているはずです。
──アニメ化にあたっては、川口監督から「『絆創戦隊キズナファイブ』のエピソードを膨らませたい」という提案をされたと伺っています。
川口:それはぜひやりたいと思いました。特に第08話ですね。
冨岡さんに「キズナファイブだけの話をやる、スペシャル回が欲しい」という話をしていて。脚本も「特撮にゆかりのある方にお願いしたい」という流れから、なんと井上敏樹さんにお願いできることになりました。お忙しい中、正直「よくOKしてくれたな」と思っています(笑)。
実は絵コンテの段階でも、お話を膨らましたんです。井上さんに「少し変えてもいいですか?」と言ったら、「いいよいいよ」と快諾してくださって。「じゃあ、ここはこうしますね」というやり取りもさせていただいたので、すごく楽しい時間でした。他のアニメを作っている時では味わえない経験だったと思います。
「もしも商品化されるなら?」という視点
──「握手カリバー」や「縁結ビームガン」などのデザインについて、設定制作の裏話があれば教えてください。
川口:その辺りはデザイナーの谷口欣孝さんにお願いしました。『シャドウバースF』という作品で仕事をさせて頂いていたのですが、元々玩具のデザインなどもやられている方です。中吉先生が考えた絆モチーフの武器に「商品化されたらこうなる」という視点で説得力を持たせてくれました。谷口さんはアイデアマンなので、こちらが何を言わずとも、色々と考えてくれます。それが本編のディティールアップに繋がっている気はしますね。
──「マキシマム・キズナカイザー」登場シーンを演出するうえで意識していることはありますか?
川口:ビースト5体合体ということで、特撮ファン的にも燃える場面だと思います。やっぱりサテライトさんと言えば『アクエリオン』ですし、3Dのノウハウはすごいですよね。ロボシーンはムービーが上がってくるたびに「いいねー!」と言っていました。第01話のアバンでマキシマム・キズナカイザーを登場させたのも、アニメオリジナルとして盛り盛りで頑張ったシーンです。
──シナリオを書かれた冨岡さん自身も完成した映像を観て驚いたとお話されていました。
川口:あはは(笑)。シナリオにも細かいことは書かれていなかったので、好きにやらせていただきました。
──そして、第07話からは新たなヒーローとして、アメンが登場します。アメンの演出ではどのような部分にこだわっていますか?
川口:アメンは「平成ライダー」っぽい雰囲気もありますし、変身アイテムも違うので、そこは良い意味でテコ入れ感があるんじゃないかなと。アメンの変身ポーズも小川さんに考えていただきましたけど、やっぱり戦隊とは少し違います。「違う作品のヒーローが出てきた」というイメージでやらせていただきました。
──アメンならではの要素、フォームチェンジについてはいかがでしょうか?
川口:御本家へのリスペクトと言いますか……原作のイメージを引っ張りつつ、これに関しても「商品化されるとしたら?」という視点を膨らませています。例えば、アメンバッグルがどういう商品になるか。変身前は肩にかけているけど、変身後は背中に回るようになっていて、これが良い感じに「平成ライダー」のオモチャっぽいと思います。
絆が絆を呼んだ、奇跡のキャスティング
──本作では音響監督も兼任されている川口監督。メインキャストそれぞれのキャスティングについてもお聞かせください。
川口:今回のキャスティングは最初にテープオーディションをやらせていただき、その中から数人にスタジオオーディションをお願いするという形式でした。
井藤(智哉)くんはテープで聞いた時の第一印象から「灯悟だな」と。とはいえ、これまでの出演経験もほとんどなかったので、主役で呼ぶには「大丈夫かな?」という懸念する声もあったんです。ただ、個人的には周りを経験のある方で固めれば、大丈夫じゃないかなと思っていて。「主役は井藤くんでいきたい」という意見を通してもらいました。本人がそれを感じたかは分からないですけど、井藤くんは灯悟という役を全うしてくれたと思っています。
──井藤さんにとっては、初のレギュラー作品でもありますよね。
川口:そうですね。最初のアフレコ現場では、ずっと緊張していました。最初に録ったのが第01話のアバンだったので、いきなり中田譲治さんやキズナファイブのベテランキャストたちとの掛け合いじゃないですか。「こっちも緊張するよ!」というメンツと堂々と渡り合っていて、「若いのにやるなぁ~」と関心しました(笑)
──イドラ役の稲垣好さん、テルティナ役の田中美海さん、ロゥジー役の大野智敬さんについては、いかがでしょうか?
川口:イドラはヒロインと思いきやツッコミ担当だし、ヨゴレ役でもあって。可愛さを出しつつ、面白さも要求される部分があります。その辺りを稲垣さんが上手にやってくれました。
テルティナは基本的に可愛らしい感じですけど、「昔は荒れていた」という設定があって、お芝居でもそういう雰囲気を匂わせてくれていました。ちゃんと原作を読んでくれているんだなと。
大野くん(ロゥジー)に関しては、この作品の前に御一緒した作品でスケベなキャラクターをやっていたこともあり、テープオーディションで聞いた時に「大野くんってイケボも出せるんだ!?」って(笑)。僕の中にはそのイメージがなかったんですよ。イケボをやりつつも、ギャグにも振れるんだと驚きました。そういう意味でも大野くんに対しては、ムチャブリが多かったかもしれません。アフレコは全体的にすごく楽しかったです。キズナファイブ側のアフレコは、自分自身がTVで観ていた憧れの方たちですからね。
──特撮ファンには堪らないキャスト陣ですが、そもそもどういった経緯で実現したのでしょうか?
川口:音響制作を担当した東北新社さんが頑張ってくれた結果ですね。こちらの要望をよく聞いてくれましたし、要望以上に押さえてくれました。「この方も呼べそうですよ」と言われて、「マジで!?」みたいな。今回は小川さんが変身ポーズを考えてくれた流れから、「特撮ヒーローご出身のキャストで声優もやっている人がいるよね」とか。
キズナブルー(万丈寺流)の声は松風雅也さんに担当いただきましたけど、「他のメンバー呼べますよ」と。第08話に松風さん以外の4人も出ていただいたのは、そういう流れがあったからです。
アニメ作りは絆がほぼ全て
──音楽に亀山耕一郎さん、音楽制作に日本コロムビア、更に挿入歌にも特撮ゆかりの方々が参加されています。川口監督から見た音楽面での注目ポイントをお聞かせください。
川口:そもそも今回音響監督を担当したのは、音楽のつけ方や曲の発注に関して、こちらの要求を言いたいと思っていたからなんです。そこで『SKET DANCE』以来、十数年ぶりになりますが、「この作品は音響監督もやりたい」という話をしました。
音楽を日本コロムビアさんに担当いただいたのも良かったですね。挿入歌は絶対に作ってほしくて、『絆創戦隊キズナファイブ』の主題歌とマキシマム・キズナカイザーの挿入歌を発注リストに書きました。「マキシマム・キズナカイザーのテーマ(歌もの、串田アキラさんとか)」みたいな(笑)。その時点だと実現できるかは分からなかったのですが、大人の皆さんが調整してくれました。
そして『絆創戦隊キズナファイブ』の主題歌は、速水けんたろうさんの息子さんである隆成さんに担当いただきました。「それっぽい人に歌ってほしいけど、現役の方は難しいよな」という状況で、隆成さんをご提案頂いて、ピッタリな方にお願いできたなと思っています。あとは、「作詞を藤林聖子さんにやってほしい」というのもこちら側のリクエストだったんですけど、「頼んでみましょう!」という感じで。「これは音響監督をやった甲斐があるぞ」と思いましたね。劇伴も全体的に本家の要素がふんだんに盛り込まれていると思いますし、曲の付け方も意識して観てもらえると嬉しいです。
──川口監督が楽しそうに音楽を発注している様子が目に浮かびます。
川口:発注もですが、音楽メニューを作るのってすごく楽しいんですよ。みなさんにもやってみてほしいです。音を消した状態で見て、「ここでこういう曲がほしい」とか。実際の特撮では、本編で流れない挿入歌も多いですが、自分としては「必ず流したい」という思いがあって。今回は結構本編で歌ものをかけていますけど、次があるなら、もっと作って欲しいです。全部本編にかけますので!コロムビアさん頼みます!!
──最後に、川口監督にとっての“絆”についてお聞かせください。
川口:アニメはひとりで作るものではないので、常に色々な人の助けを借りています。アニメ作りは絆がほぼ全てと言えますね。
今回も「とある作品のオールラッシュの現場にいたんですよ」と言われたり、総作監(総作画監督)の方と大昔に会っていたことが分かったり。何て言うんでしょう……初めて仕事をしていても繋がっていて、そういったことが後から明かされていく。「自分も長くこの業界で仕事をしているんだな」と実感する瞬間があります。加えて、サテライトさんとお仕事をするのは初めてだったので、新たな絆が生まれた気もしています。
──お話を伺う中で、そういった絆が連鎖して、このアニメが出来上がっていると感じました。
川口:そうですね。個人的には異世界モノに飽きている人、特撮に興味が無い人、逆に「特撮は好きだけど、アニメになるとどうなの?」という人にこそ、観ていただきたい作品です。個人的にも好きだからこそ、汚したくない聖域に敢えて踏み込んだ覚悟を見ていただきたいなと。ですので、辛口コメント……はヘコむから止めてほしいですけど(笑)、感想はどんどんいただきたいです。最終回まで楽しんでいただければと思います。
[インタビュー/小川いなり]
作品概要
あらすじ
世界征服を企む悪の組織《秘密結社ゼツエンダー》。
その野望に立ち向かう、絆で結ばれた5人の戦士たちがいた。
そのヒーローの名は、《絆創戦隊キズナファイブ》!!
キズナファイブの5人は、遂にゼツエンダーとの最終決戦へ。
壮絶な戦いの中で傷付いていく仲間たち。
4人の想いを背に、《キズナレッド》は単身《絶縁王》へと挑む。
激戦の果てに敵と相打ちになるレッド。
命を落とした―――かに思われたのだが、気が付くとそこは《未知の世界》だった!
異世界でも困った人々を救うため、真っ赤なヒーローは冒険者となり今日も戦う!
《異世界×戦隊ヒーロー》でおくる、絆の最強英雄譚!!
キャスト
浅垣灯悟/キズナレッド:井藤智哉
イドラ・アーヴォルン:稲垣好
テルティナ・リズ・ワーグレイ・アヴァルロスト:田中美海
ロゥジー・ミスト:大野智敬
ラーニヤ:白石晴香
アジール・アヌマ・ククジャ:古川慎
シャウハ・シェムハザール:白石涼子
アブダビ:吉野裕行
ヴィダン:鈴村健一
万丈寺流/キズナブルー:松風雅也
飛星エミリ/キズナイエロー:菊地美香
堅岡修二/キズナグリーン:土田大
愛沢ツカサ/キズナピンク:小宮有紗
二階堂天理/キズナシルバー:M・A・O
(C)中吉虎吉/SQUARE ENIX・異世界レッド製作委員会
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