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シェイクスピア初挑戦の草彅剛に訊く! “稀代の悪役”シャイロックを、いかに楽しみながら演じきるか!?

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草彅剛

ドラマに映画にバラエティにと、軽々とジャンルを越えて活躍の場を広げ続けている草彅剛。演劇作品にも精力的に取り組んでおり、ここ数年だけでも『アルトゥロ・ウイの興隆』(2020、2021~2022)や『シラの恋文』(2023~2024)などの話題作に出演し舞台役者としても高く評価されている。

その草彅が、誰もが知る名作『ヴェニスの商人』でシェイクスピア作品に初挑戦することになった。演じるのは稀代の悪役ともいうべき、高利貸しのシャイロック。演出を手がけるのは、草彅とはこれが初顔合わせとなる森新太郎だ。共演には、野村周平、佐久間由衣、大鶴佐助、長井短、華優希、小澤竜心、忍成修吾といった、華やかかつ実力ある演技派の面々が揃った。

初めての挑戦、初めての顔合わせ等、“初めて”が多い新鮮な現場になりそうなこの座組で、果たしてどんな方向に新しいシェイクスピアが誕生するか、期待感は高くなるばかり。
この作品でもおそらくまた見たこともない顔を披露してくれそうな草彅に、走り出したばかりのこの作品について、話を訊いた。

ーー今年は稲垣吾郎さんも香取慎吾さんも、舞台のお仕事をされていらっしゃいましたね。草彅さん含め、定期的に演劇と向き合う姿を拝見できるのは、とても嬉しいです。

小さい頃から板(舞台)の上に立ってきましたから、環境的にも僕らの場合はDNAに刻まれているようなところがあるのかもしれませんね。

ーー劇場は、直接お客様とも会える場所でもありますし。

そうですね、とても大事な場所だと思っています。

草彅剛

ーー映像作品、バラエティなどさまざまなジャンルのお仕事をされている中で、草彅さんご自身としては舞台のお仕事のどういうところに魅力を感じているんでしょうか。

舞台は、自分と一番向き合える場所という気がします。ドラマも映画も、自分と向き合うという意味では同じなんですが、でも舞台だと2回目はないじゃないですか。つまり一度、幕が開いてしまえば何があっても「ストップ、ちょっと待って、もう1回やらせて」ということはない。まあ、ドラマも本当はそうなんですけど、それでももし間違ったらもう1テイクできるわけで。そういう意味では、舞台ならではの緊張感というものがありますよね。昨日は言えたセリフが今日はなぜ間違ったのかなとか、自分に問いただす時間というものも増えるし。本当なら、それは他の仕事も同様で、そうであるべきなんですけれども。だけど人間って、僕なんかは特にそうなんですが怠け者なので(笑)、つい楽なほうに流されてしまう。ドラマだと、どこかで「もう一回やらせてくれるから」なんて思ってしまいがちだけれど、舞台の場合は日頃の生活とか自分の思考とか、そういうところから正してくれる感覚があるんです。

ーーでは、日常生活から変化があったり?

はい、変わりますね。食べるものや睡眠時間も気をつけるようになりますし。

ーー体力をしっかり保つために。

そうそう、体力温存は大事です。だから僕にとって舞台の仕事は、僕自身が生きていく上でもめちゃくちゃ大切なことをいつも学ばせてもらっているところでもあります。

ーーそういう想いがあるということは、今後もコンスタントに舞台には出続けたいと思われている?

そうですね。人の前でナマで表現することは、この世界に入って一番の核になる部分でもあると思うので。映像や歌もやらせていただいていますが、この仕事を続けていくならできる限り舞台には立ち続けていきたいなと思っています。そこに重きを置くことが、僕の人生の一番の物語になるような気がします。とか言ってて、急に気が変わって立たなくなるかもしれないですけどね(笑)。だけど実際に、いつかは絶対に立てなくなる時がやってくる。やはり健康で元気があり、身体がしっかり動かないと、板の上には立てないですから。まあ、もしかしたらベッドに寝ているだけの役というのもあるかもしれないけど。なんてことも考えますし、自分にとっては一番いろいろ挑戦できる場所でもあるので、こうやって突き詰めて考えると一番大事な仕事なのかもしれない、とも思います。

草彅剛

ーーそして、今回はいよいよシェイクスピア作品に初挑戦することになりました。

初めて挑戦することには、楽しい要素をいつもたくさん感じられるので、新しい舞台に取り組めること自体がまずは楽しみです。『ヴェニスの商人』は、ネットでいろいろ検索して調べているところなんですが、映画化もされているんだけれど、まだしっかりは見ていなくて。だけどシェイクスピアさんが400年くらい前に書いた脚本を、こうやって今現在も演じ続けられているのは魅力があるからで、それはもちろん僕自身も感じています。その作品を今、この時にやるというのは僕にとっても、観てくださるみなさんにとっても意義深いものになればいいなと思ったりもして。でもまだ今は、いろいろと自分の中で考えて楽しみながら何かを構築しているような、そんな段階ですね。

ーー作品の印象としては、たとえばどんなことを感じていますか。

ネットで調べてみると、シェイクスピアさんはこの作品を当初は喜劇として書いていた、みたいなことがぽろぽろと出て来るんです。でも、女性が男装して裁判をするところとか、ちょっとエンタメが入ってるじゃないですか。要するに、シャイロックのことをみんなが戒めながら彼のことを笑ってるようなところもあるから、そういうところを喜劇という捉え方で当時は上演されていたのかもしれない。でもシェイクスピアは実のところは「ユダヤ人のシャイロックのことをみんなそうやって笑ってていいの? それは倫理的に正しいの?」って、匂わせていたのかもしれないですよね。ん? なんだか今っぽい言い方でしたね、匂わせ、って(笑)。今では当たり前のことですけど、この物語の時代的にはお金を貸し借りする時に利子や利息を取るなんて、人としてありえないと思われていて。そう考えると、どの時代から見るかで捉え方が違ってくるから、そこもなんだか面白いですよね。それもあって、今この時代にこの作品を上演する、というのは何か意味がありそうで。いろいろなことを匂わせる感じで(笑)、やりたいなと思いますね。

ーーそもそも、シェイクスピア作品についてはどんなイメージをお持ちでしたか。

僕、若い時に『フォーティンブラス』(1995年)という舞台をやっているんですが、フォーティンブラスって『ハムレット』の登場人物の名前なので、シェイクスピアをちょっとはかじっていたんだな、ということを思い出していたところなんです。『フォーティンブラス』自体は大部屋の売れない役者の話で、ちなみにこの舞台の縁でのちに、つかこうへいさんと出会うことになるんですけどね。僕がまだ20歳くらいの時で、感じるものはたくさんあったんですけど、でも当時の僕にはちょっと難しすぎて遠い存在なような気もしていました。それが最初にシェイクスピアに触れる機会ではあったんですが、それ以降はまったく音沙汰がなくて、今回ようやくその扉が開くわけです。縁がやっと回ってきて、それでいろいろと自分で勉強していくうちに忘れていたそういう昔のことを思い出したりもして。なんだか、ワインが発酵してくるような感じもします。

草彅剛

ーー振り返ると、若い頃と今とでは感じる部分も違ってきたりしていますか。

まあ、それはそうですね。あの作品がほとんど初舞台みたいなものでしたから。でもその後、おかげさまで舞台もかなりの場数を踏ませていただきましたし、得るものもこの年齢になればたくさんありましたし。そう考えると、この『ヴェニスの商人』のシャイロック役を、というのは僕の中でこれまで演じてきたさまざまな役が発酵したりしてきた、今だからこそ演じられるものなのかもしれないな、と思っています。

ーー草彅さんは、これまでも何度か悪役は演じられてきていますね。ご自身は悪役を演じることについては、どう思われていますか。

楽しいですよ。日頃は言えない言葉が言えたりしますし。そういう楽しさは、役を演じる醍醐味でもありますね。日常とかけ離れたことをできる、というのが悪役を演じる一番の楽しみです。どこまで自分は悪くなれるか、そこが挑戦でもあります。

ーーシャイロックに共感できるところ、ご自分と似ているところはあったりしますか。

あまり言うなと言われているんですが、実は僕、台本では自分のセリフしか読んでいなくて。だけど調べれば内容はわかるし、真相はどうでもいいわけで。といっても、ただ適当にやっているんじゃないんですよ! よく役づくりをどうしているか、とかみなさんおっしゃいますけど、それより大事なのはいかにお客さんに向けてセリフを届けるか。それはつまりいかに大きい声を出すか、とかも含め(笑)、とにかくお客さんに楽しんでもらうことが一番大事なことですからね。だから別に僕と役の共通点とか、そんなことはどうでもいいんですよ。必要なのは、劇場で作り出す日常とは違う世界にお客さんを誘うことが大事であって。というか、共通点とか特にないですし、それを探そうとも思わないし。演出の方や監督さんにそこが大事だから探してくれと言われれば、探しますけど。そもそも、厳密にはわからないですよね、ユダヤ人の苦しさだとか、400年前に書かれたこの戯曲の本当のところは。考えるときりがないので、僕はあまり難しく考えず挑もうかと思っているんです。何もない僕ですけど、何かあるように見せるのが演技でもあり。いいんですよ、ある意味ハッタリでも(笑)。共演者のみんなや、舞台装置も美術さんが、着るものだって衣裳さんたちプロの方々が、きっとうまいことやってくれるでしょうから。あとは自分が必死になって、いかになりきれるかを今回も楽しめればいいなと思っています。

草彅剛

ーー今回の舞台ではどんなことが得られそうか、楽しみなことなどは。

共演者の方々がほぼ初めての方ばかりで、しかも若い方も多いので、そこがまず楽しみです。初めての人と一緒にお芝居をやるのは、本当に面白いですから。僕もすっかり立派な大人になっちゃったんで(笑)、最近はどこの現場でもだいたい僕が年上で、監督さんや演出家さんも年下の割合が高くなってきました。だけど、年齢なんて関係ないなとも思うんですよ。自分より若い方からも、得るものがとても多いので。今回はその点もすごく楽しみにしています。

ーー共演者の中で、特に気になる方とかいたりしますか?

みなさん、気になりますよ(笑)。野村(周平)くんはゲストとして番組に来てくれたりしたけど、佐久間(由衣)さんは初共演だし。あ、春海(四方)さんとは何度もご一緒したことがありますね。ほかにも僕より若い方たちが大勢いらっしゃって、きっとすごくエネルギッシュだろうし、それぞれセリフ量もあるから、そういう若い方たちの発するセリフやパッションをたくさん浴びたいなと思っています。もちろん先輩方もいますけど、ほとんどがみんなピチピチで威勢がいい(笑)。そういう方たちの、この舞台にかける情熱みたいなものを、余すことなく観客の方々にセリフを通してどんどんぶつけてもらいたい。僕も刺激を受けたいですよ(笑)。自分の若い時を見てるような、ね。そんな期待もしています。だって、そうやって周りから刺激を拾っていかないと、おそらくこのシャイロックという役は演じきれないんじゃないかと思うので。やっぱりみんなと化学反応を起こして役と役とでぶつかり合って、コミュニケーションのキャッチボールをして、そうやってみんなで役を作っていけたらなと思うんですよ。……って、なかなかいいこと言うな、俺!(笑)

ーーそう思います(笑)。ちなみに舞台の本番中、これは必ずやっているというルーティンってありますか?

そうだなあ、毎日、カレーそばを食べています。カレーそば、大好きなんです(笑)。だから、劇場の近所のそば屋さんをいつもリサーチしてもらっていて、もしカレーそばがなかったらお願いして作ってもらったりもして。だから、劇場近くのカレーそばの旨い店には詳しいですよ!

ーーこの舞台は草彅さんが座長になるわけですが、座長として特に意識していることはありますか。

本番中に、旨いうなぎ弁当を差し入れるくらいじゃないですか。慎吾ちゃんが好きなうなぎがあって、それを自分も食べたいから差し入れするんですけどね。ほかにも人気のあるお弁当を差し入れすると、みんなから愛される座長になれるので。すべて、舞台は差し入れですよ。そこは任せてください。

草彅剛

ーーみんなの士気をあげようと、いろいろ気遣われているんですね。

いや、気は遣わないです。というか、そもそも僕が本当に座長なんですかね? いや、座長はきっと春海さんだよ、春海マインドが大事なんですよ!

ーーじゃ、裏座長が春海さんで?(笑)

まあ、それでもいいですけど。じゃ、表だっての座長は僕で、本当の裏座長は春海さんということにしておこう!(笑)

ーー(笑)。今回、演出の森新太郎さんとは初顔合わせですね。お会いされた時は、どんなお話をされたのでしょうか。

先ほども言いましたが、僕がネットで『ヴェニスの商人』を調べてみて僕なりに考えたこと、つまりシェイクスピアは喜劇として書いたのかもしれないとか、そういうことを話したら「剛くん、勉強してますね、賢いですね!」と褒めてくださったので、いい人だな、うまくやっていけそうだなと思いました(笑)。何でも肯定してくれて、すごく話しやすかったから、きっといいものが作り上げられるんじゃないかなと。ファーストコンタクト、第一印象はお互いにすごく良かったんじゃないかと思います。まあ、これまでも大体、どんな演出家さんともうまくやっていけるほうなんですけどね。世渡り上手だし、反抗とかしないんで(笑)。

ーーこのあと、森さんの取材もあるんです。森さんに、何かご要望とかあるようならお伝えしますよ(笑)。

いや、もう森さんは好きなようにやってくださればいいだけですけどね。それこそ僕は座長を務めますけど、森さんが先頭に立っていてくれれば僕らはみんなついていきますから。ぜひ、いろいろとディスカッションしながら、僕も真摯に役と向き合っていきたいと思っています。稽古、本番と長丁場になりますが、舵取りをどうぞよろしくお願いします! と伝えておいてください(笑)。

草彅剛



ヘアメイク=荒川英亮   スタイリスト=黒澤彰乃

取材・文=田中里津子    撮影=福岡諒祠

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