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戦後80年!節目の夏に観ておきたい終戦前後を扱った日本映画5選「この世界の片隅で」…

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2016年11月12日 アニメーション映画「この世界の片隅で」劇場公開日

1945年8月15日から数えて、今年は戦後80年に当たる。この節目の夏に観ておきたい日本映画というテーマで、終戦前後の日本を題材にした作品を選んだ。いずれも名も無き一兵卒や一般市民を主人公にしたものばかりである。戦争は多くの人々を巻き込んで阿鼻叫喚の地獄へ突き落とす。ここに挙げた5本は、いずれも戦争の悲惨さを伝え、後年に至るほど評価が高まっていった作品ばかりである。

​​激動の昭和史 沖縄決戦(1971年 / 監督:岡本喜八)


​​太平洋戦争末期の沖縄戦の壮絶な戦い
日本の降伏決定までの24時間を描いた岡本喜八監督の『日本のいちばん長い日』(1967年)が大ヒットして以降、東宝では毎年夏に “東宝8・15シリーズ” として太平洋戦争を題材にした戦争映画を制作、1972年の『海軍特別年少兵』まで計6作品が作られた。その第5弾である『激動の昭和史 沖縄決戦』は岡本監督が再びメガホンを取り、太平洋戦争末期の沖縄戦の壮絶な戦いを日本側の視点から映像化している。

1945年、大本営は本土防衛強化のため、主力の第9師団を沖縄から引き上げ、同年4月より米軍の沖縄上陸作戦が始まった。映画では沖縄戦の日本軍が、ただただ一方的に負けていくだけの様相が描かれている。悲惨な集団自決のシーンをはじめ、壕に隠れていた女学生を追い出す日本軍、歩けなくなった患者に青酸カリを与えて自決させる医師など、おぞましいシーンが次々に現れる。米軍が火炎放射器を洞窟に向け、中から民間人女性たちの悲鳴が聞こえなくなるまで火を放つ場面、老婆が戦車に向かって一心不乱に沖縄民謡を歌い踊る場面に至っては、もはや言葉もない。ここまでカタルシスもスペクタクルもない戦争映画は空前絶後だろう。

戦中派と呼ばれた岡本監督は、実際に陸軍予備士官学校で終戦を迎えている。軍人のみならず民間人も巻き込んだ救いのない物語には、戦争体験者ならではの強烈な反戦メッセージを感じさせる。岡本監督をリスペクトする庵野秀明監督は、本作を最も数多く観た映画に挙げている。

ひろしま(1953年 / 監督:関川秀雄)


​​原爆投下の記憶も生々しい時期に作り上げた映像
1945年8月6日に起きた広島への原爆投下を描いた作品は、アニメ及び実写化もされた『はだしのゲン』をはじめいくつもあるが、民間人の生々しい惨状を描いた作品に、関川秀雄監督の『ひろしま』がある。

何しろ終戦のわずか8年後、1953年の制作である。実際に被爆した子どもたちの手記『原爆の子〜広島の少年少女のうったえ』を原作にしており、中高生を含む一般の広島市民など約8万8,500人がエキストラとして参加。被爆し逃げ惑う群衆のシーンを凄まじい迫力ある映像で生み出しているほか、急性被曝の症状に苦しむ姿を、実際の被爆者が演じている。

ことに、爆心地に近い太田川の、阿鼻叫喚の惨状は約30分に渡って再現されており、担任教師役の月丘夢路や女生徒たちが次々に倒れていく姿や、焼け爛れた人々の群れは衝撃的で、原爆投下の記憶も生々しい時期によくこれだけの映像を作り上げたものである。この映画は海外で高い評価を受けたが、日本では内容の一部が反米的だと大手の映画会社が上映を拒否、長らく幻の映画とされていた。2019年にNHKEテレ(教育テレビ)で全国放送されたほか、現在ではソフト化もなされ、配信で観ることもできる。

陸軍(1944年 / 監督:木下惠介)


戦地に赴く息子を思う母の情は不変のもの
太平洋戦争中の日本映画界は、戦意高揚のための国策映画が盛んに作られていた。『ハワイ・マレー沖海戦』(1942年)など、現在でも評価の高い作品もあるものの、ほとんどのプロパガンダ作品は顧みられることがない。だが、その中でも確実に、現代の人々の胸を打つ傑作が『陸軍』だ。監督の木下惠介は戦後に『二十四の瞳』(1954年)や『楢山節考』(1958年)などの名作を生んだ松竹の大監督。本作の公開は終戦の1年前、1944年。福岡のある一家の3代に渡る物語を通して、幕末から日清・日露の両戦争、上海事件を経て日中戦争へと連なる歴史が描かれる。

プロパガンダ作品のはずが、終盤に差し掛かると映画は思いもよらぬ展開をみせる。1944年、息子の出征が決まり博多を発つその日、一度は見送らないと決めた母親(田中絹代)は、思いを抑えきれず出征の隊列を追って、我が子の姿を見つけ、涙を流しながら並走する。この一連のシーンはほぼ一切のセリフがなく、カメラは母の姿を追い続けるように10分間の長回しで撮影し、そこに一個連隊の行進が被さるダイナミックな演出を施した。ところがこのシーンが問題となった。

『陸軍』は陸軍省後援の情報局国民映画のため、感傷的な描写は御法度だった。このラストシーンが当局の不興を買い、木下監督は終戦まで仕事を干され、一時期故郷に帰ったという。
だが、戦地に赴く息子を思う母の情は不変のもの。決して “お国のために立派に死んで来い” とは言わないのだ。ラスト10分の長回しで “軍国の母” の真の思いを描き、戦争の真っ只中で反戦の意志を映像に収めた木下監督のメッセージは、戦後にその価値が理解されるようになった。また、ラストシーンの行軍は実際に出征する博多連隊の兵士たちが出演、多くは南方戦線で戦死したという。

野火(2015年 / 監督:塚本晋也)


戦争の悲惨さを伝えるストレートなメッセージ
舞台は第二次世界大戦末期のフィリピン・レイテ島。日本軍の敗戦が濃厚となる中、肺病にかかった主人公の兵隊が島を彷徨い歩くうち、同胞たちの悲惨な末路を目の当たりにするという、この世の地獄を描いた作品。原作は大岡昇平。

飢餓と孤独で次第に理性を失っていく日本兵たち。極限状態の人間を描き、グロテスクなシーンもいくつかあるが、戦争の悲惨さをストレートに伝えているという意味では、目を背けずに観て欲しい。主人公の田村一等兵は、監督の塚本晋也自身が演じた。俳優としても活躍している塚本は、本作でも渾身の演技を披露。他にもリリー・フランキー、中村達也、森優作など、キャストたちの強烈な存在感もリアリティを与えている。

塚本監督は『鉄男』(1989年)、『バレット・バレエ』(1999年)、『ヴィタール』(2004年)など、ダークな映像美で世界的評価も高く、鬼才の名を欲しいままにしてきた。30代の頃より『野火』の映画化を模索し続け、終戦から70年を経た2015年に本作を完成させている。

自主制作ながら、毎年終戦の日が近づくと、全国の映画館でアンコール上映が行われており、今年も多くの劇場で本作を観ることができる。『野火』は1959年に市川崑監督により最初の映像化がなされた。映像手法の違いこそあれ、どちらも戦争の悲惨さを伝えるストレートなメッセージがある。甲乙つけ難い傑作なので、観比べてみるのもいいだろう。

この世界の片隅で(2016年 / 監督:片渕須直)


​​穏やかな映像の中、静かに反戦を訴えてくるアニメーション作品

戦争を描いた日本のアニメーション映画では、スタジオジブリ製作、高畑勲監督の『火垂るの墓』が名高いが、アニメ作品からもう1本選ぶとしたら、片渕須直監督の『この世界の片隅で』を推したい。

原作はこうの史代による漫画作品。太平洋戦争が激化する1943年、ヒロインのすずに縁談が持ち込まれ、その相手である広島県呉市出身の周作と結婚、新生活に入る。戦時下の物資不足、窮乏する食生活にも、すずは持ち前の明るい性格と知恵を駆使し、周囲の人々に受け入れられていく。

戦時中の人々の日常が丁寧に描かれているが、後半、戦火が激しくなると、すずも空襲で右手を失い、人格が変わってしまったかのように、激しい一面を見せるようになる。原子爆弾で焼け野原になった広島の惨状、終戦の玉音放送。急展開する出来事と登場人物たちの反応。名も無き一般市民たちが非常時に何を考え、どんな行動を取ったのか。穏やかな映像の中、静かに反戦を訴えてくる。

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