【笠岡市】北木島DAIDAIGO!GO!〜 笠岡産ダイダイを使い笠SHOP探究班 高校生が開発したクラフトコーラ
岡山県立笠岡商業高等学校には、部活動や生徒会活動などではなく、有志の生徒と先生で構成されている「笠SHOP(カサショップ)」というグループがあります。
その笠SHOP探究班が、1年以上の開発期間を経て完成した笠岡産橙(ダイダイ)を使ったクラフトコーラが、「北木島DAIDAIGO!GO!(ダイダイゴーゴー)」です。
メディア向け新商品クラフトコーラの発表会をおこない、その後笠岡市のふるさと納税返礼品に登録されるまでになりました。
高校生たちの希望と挫折と努力がミックスされたクラフトコーラ物語の始まりです。
北木島DAIDAIGO!GO!メディア向けの新商品発表会
最初に、岡山県の笠岡市役所分庁第4の2階 大会議室で2024年(令和6年)9月10日(火)に開催されたクラフトコーラの発表会のようすを振り返りましょう。
笠SHOPの探究班のメンバー(2024年9月発表会時 全員3年生)と、サポートをする笠岡商業高校の東義信(あずま よしのぶ)先生や赤岩康弘(あかいわ やすひろ)校長先生が発表会の準備を進めたあと、新商品発表会が始まりました。
新商品発表会スタート
発表会の司会進行は、笠SHOP探究班 副代表の矢部実緒(やべ みお)さんと、クラフト部の山本愛珠(やまもと まなみ)さんが担当です。
最初に笠SHOP探究班 代表の定岡杏奈(さだおか あんな)さんが、新商品発表会の主催者として挨拶をしました。
「本日はお忙しいなか、私たち笠SHOP探究班が開発をいたしました新商品クラフトコーラの発表会にお集まりいただきまして誠にありがとうございます。
私たちは昨年度ビジネス系コンテストで発表した内容のコーラを商品化したいという思いで、プロジェクトを2024年4月より進めてまいりました。そしてようやく完成し、本日ご披露することになりました。よろしくお願いいたします」
赤岩校長先生の挨拶が続きます。
「毎日暑いなか、生徒たちは商品開発に熱い思いで取り組んできました。
生徒の商品に対する、そして地元笠岡に対する熱い思いを聞いてください。生徒たちにはパッションがあります。ぜひその情熱も聞いてください。よろしくお願いいたします」
筆者も夏休み中に生徒の皆さんがクラフトコーラの原液を作っているようすを見学しました。暑いなか、真剣に取り組んでいる生徒の皆さんの姿に、本気度を感じたのを思い出します。
新商品クラフトコーラ「北木島DAIDAIGO!GO!」の紹介
新商品発表会でお披露目されたクラフトコーラは「北木島DAIDAIGO!GO!」と命名されました。
笠岡市北木島の「ダイダイ」を使ったクラフトコーラです。容量は200mL、価格は税込550円。
まずは500本限定です。
クラフトコーラ「北木島DAIDAIGO!GO!」のラベルデザイン、そして特徴などの説明が続きます。
「北木島DAIDAIGO!GO!」のラベルデザイン
ラベルデザインについては、デザイン部長の松井天伽(まつい てんか)さんから。
ラベル用のデザインでは、ダイダイをモチーフとしたロゴを中央部分に配置し、上側を空、下側を海とすることで、前後の奥行きが表現されたものになっているそうです。
商品のキャッチコピーは「甘くてほろ苦い青春の味」。
クラフトコーラの味と開発をした皆さんの青春のイメージを表現したとのことです。
「北木島DAIDAIGO!GO!」のラベルデザインは、笠岡市地域おこし協力隊の山本周史(やまもと ちかふみ)さんのアドバイスを受けながら、探究班デザイン部のメンバーが作りあげました。
「北木島DAIDAIGO!GO!」の特徴
クラフトコーラ「北木島DAIDAIGO!GO!」の特徴の説明は、クラフト部長の馬塲彩乃(ばば あやの)さん担当です。
クラフトコーラは笠岡産のダイダイを使用して作られていて「酸味と苦味、そして甘みの三つが絶妙にマッチした奇跡の一杯」との説明がありました。
クラフトコーラの原液は、フードコーディネーターとして活動している笠岡市地域おこし協力隊金藤光路(こんどう こうじ)さんが代表を務めるキッチンラボ101で製造。作った原液に炭酸水を充填する作業は、倉敷鉱泉株式会社にお願いしています。
炭酸水の充填が完了した瓶に笠SHOP探究班のメンバーがラベルを貼り完成です。
「ダイダイのまち笠岡」へ
クラフトコーラ「北木島DAIDAIGO!GO!」に使用されているダイダイは、笠岡市の北木島では一家に1本は植えられていて、レモンを絞る要領で使われているそうです。
そのダイダイに注目して、笠SHOP探究班のメンバーはクラフトコーラを作りあげました。
笠SHOP探究班は笠岡市を「ダイダイのまち」として盛り上げていきたいと語ります。
ここまでが、2024年9月10日(火)に開催されたクラフトコーラの発表会の内容です。
「北木島DAIDAIGO!GO!」は、笠SHOP探究班の熱意と創造性が詰まった一品として販売がスタートしました。
「北木島DAIDAIGO!GO!」の完成へ向けて
「北木島DAIDAIGO!GO!」が完成するまでの道のり、そして今後の展開などを、探究班代表の定岡杏奈(さだおか あんな)さん、副代表の矢部実緒(やべ みお)さん、会計部長の守屋日南子(もりや ひなこ)さんに聞きました。
「北木島DAIDAIGO!GO!」の開発は、苦労の連続だったそうです。どのようにして商品完成までこぎつけたのでしょうか。
ダイダイを使ったクラフトコーラの開発に着手するきっかけは、笠岡市の北木島を訪問したときの体験のなかにありました。
北木島産のダイダイとの出会いから開発へ
北木島に住んでいるかたから「ダイダイを絞って牡蠣(かき)にかけて食べるのが普通」という話を聞き、レモンではなくダイダイを使うことに強い興味を抱いたのがすべての始まりでした。
探究班のメンバーはその後「ダイダイを活用して何か新しい商品が作れないか」と考えるようになり、さまざまなアイデアを模索。
実現シートというツールを使い、企業のかたや探究班のメンバーとアイデアを出し合った結果、入浴剤や香水、料理、お菓子、飲み物といった案が挙がりました。
最終的に、北木島のダイダイを活用した飲み物の新商品を作ろうと決めたものの、レモンや柚(ゆず)といった競合する柑橘類との差別化が大きな課題でした。
課題をクリアするために柑橘類を使った飲み物を調査するなかで、偶然「クラフトコーラ」の存在をインターネットで知ります。
そして、クラフトコーラが柑橘類を主成分としていることを知った探究班のメンバーはあることを発見します。
それは「ダイダイを使ったクラフトコーラはまだ存在しない」という事実。
ここに他のクラフトコーラとの差別化の可能性を感じ、ダイダイを使ったクラフトコーラの開発に取り組むことを決意したのです。
試作が思うような味にならず開発中止の危機
開発チームである探究班メンバーによる本格的な開発が始まったのは、笠岡市地域おこし協力隊の山本周史さんの協力を得た2023年4月頃でした。
山本さんは、元広告代理店勤務。東京で多くのイベント運営や企業の商品企画開発に携わっていました。
これらの経験をもとに地域おこし事業を手がけています。
開発チームはまず、スパイスや砂糖を調整しながらクラフトコーラ原液の試作を重ねました。試作は生徒だけで進めます。
最初の試作品は「飲めたものではない」クラフトコーラ。開発チームの士気は大きく低下しました。
「味の問題」は定岡さん、矢部さん、守屋さん、三人ともが口をそろえて挙げる最大の課題でした。
開発初期の試作品では、スパイスの風味が強すぎたり、ダイダイの苦味や酸味がバランスを崩したりと、チーム全員が納得できる味にはほど遠い状態。
諦めず何度も試作にチャレンジするものの「何がおいしくないのか」がわからなくなり、スパイス自体の品質やダイダイの状態を疑うこともありました。
どうしても納得いく味にはならない…
クラフトコーラの開発をもう中止するしかない…
開発チームは追い込まれます。
試行錯誤のすえ納得のクラフトコーラ原液が完成
思うような試作品が作れず「もう開発を中止するしかないか」とチーム全体が考えていたときに、笠SHOP探究班担当の東義信先生がチームのメンバーに声をかけました。
「最後にもう1回だけやってみよう。それでダメだったらやめよう」
この言葉を受けて、チームのメンバーは最後の試作品を作ることを決めました。
東先生はこのときのことを回想します。
「みんなもう雰囲気が悪いんですよ。このままではもうダメだなと思いました。これではビジネスコンテストにも勝てない。もうやめたいと言う生徒もいたし。でも、なんとかやる気になってほしいと思いながら話しました。
もう1回作ると決めてからは、スパイスを調整したり砂糖の量を変えたりなど、相当生徒のみんなは努力をしていましたね」
スパイスについては、匂いや味が「気持ち悪い」と感じられるほど強く、これを大幅に減らすという思い切った決断が必要だったそう。
ダイダイの風味をどのように生かすかという課題もありました。初期段階では、スパイスや他の成分が強すぎて、肝心のダイダイの風味がほとんど感じられない状態でした。
これらを解決するために、スパイスをすべて取り除いた状態からスパイスや酸味のバランスを調整しながら試行錯誤した開発チーム。
運命の最終試作では、さらにスパイスの配合や甘さを調整した結果、初めて「おいしい」と言えるクラフトコーラ、ダイダイの風味がしっかりあるクラフトコーラが完成したのです。
試作品は、1Lの原液があっという間になくなるほどの人気となり、開発チームのやる気は一気に上昇。
この成功が「新商品の開発を続けていこう!」という姿勢を再び高める大きなきっかけとなりました。
完成したクラフトコーラは、地元のイベントで初めて販売されました。
来場者からは「おいしい」「また飲みたい」といったポジティブなフィードバックが相次ぎ、開発チームの大きな自信になります。
同時に、アンケートを通じて集めた改善点をもとに、さらなる味の調整をおこないました。
このプロセスを経て、現在のクラフトコーラが完成したのです。
北木島DAIDAIGO!GO!を多くの人に飲んでもらいたい
クラフトコーラ北木島DAIDAIGO!GO!を最初に届けたいのは地元・笠岡の人々だそうです。
「地元の人に飲んでいただき、そこから地方へ、西日本、日本全国、最終的には世界に広がっていければ」
三人は「北木島DAIDAIGO!GO!」を「笠岡のすべてを詰め込んだ一杯」と表現しました。
「クラフトコーラを通して笠岡を存分に楽しんでいただけたら」と笑顔で話します。
笠岡市へのふるさと納税寄附でもらえる返礼品に「北木島DAIDAIGO!GO!」は正式に登録されました。
2025年1月から出荷開始です。
クラフトコーラの今後
クラフトコーラの開発を手がけた三人は高校卒業を控えていますが、このプロジェクトは次の学年に引き継がれ、さらに発展していくことを願っています。彼女たちの思いを聞きました。
「クラフトコーラの作り方を後輩たちにしっかりと伝えていきたい」
というのが、三人の共通の願い。クラフトコーラの製法を後輩たちが習得し、安定して生産できるようになった後、さらに新しいチャレンジをしてほしいと語ります。
「ダイダイを使った別の商品を開発してほしい」
ダイダイの可能性をさらに探究し、飲み物だけではなく、菓子や調味料などの新たなジャンルへの挑戦もしてほしいと話しました。
「ダイダイ以外の素材を使った新しい商品も開発してほしい」
笠岡の他の特産品を活用してさらなる商品展開を図ることで、プロジェクトの幅が広がることを三人は望んでいます。
おわりに
笠岡商業高校 笠SHOP探究班の3年生が取り組んだクラフトコーラ「北木島DAIDAIGO!GO!」の開発は、単に商品を作るだけでなく、一人ひとりの成長につながる貴重な経験だったことでしょう。
「諦めそうになったときに、この経験を思い出してもう一度踏ん張りたい」
「挫折しそうになったときに、仲間がいたからこそここまでやり遂げられた」
「続けることで新しいものが見えてくる」
取材をした三人はこのように話します。
挑戦を乗り越えた自信や継続することの重要性は、これから進む道において大きな支えとなるでしょう。
『笠岡市をダイダイのまちとして盛り上げていきたい』
地域の特色を生かしたビジネスプランに挑戦する笠岡商業高校 笠SHOPの今後に期待したいと思います。