Yahoo! JAPAN

プログ・メタル演歌、誕生!? 山本譲二デビュー50周年記念コンサート ファイナル 2025.5.25@ティアラこうとう

YOUNG

山本譲二 2025

山本恭司の音源で幕開け、前川清などサプライズ・ゲスト続々登場

演歌界の巨星・山本譲二(75)が2025年5月25日(日)、ティアラこうとう(江東公会堂)にて『山本譲二 デビュー50周年記念コンサート ファイナル』を開催した。本ライヴは山本のシンガーとしてのキャリアの総決算であり、話題を呼んだ「山本譲二メタル化計画」の集大成。事実、この公演は「演歌とメタルの融合」を試みた、世界でも類を見ない革新的なステージとなった。本稿ではYG的視点からライヴを振り返ってみたい。

杖を突いたお年寄り、ミドルエイジの美麗な女性、その子どもと思しき少年、「山本譲二メタル風Tシャツ」を着たメタラーまで、キャパ1,300人の会場は多様性に富んだオーディエンスで埋め尽くされていた。そんな中、開演前のオープニングSEとして数々の演歌・歌謡曲が流れていたのだが、途中なぜかブラック・サバス「Paranoid」が再生される一幕も。筆者はこの時点で、本公演が単なる演歌のライヴではないことを確信した。

その確信は現実となった。会場の照明が暗転し、ステージ上のスクリーンに山本譲二のこれまでのシングル盤ジャケ写が次々と映し出される。そのバックに流れるのは、大ヒット曲「みちのくひとり旅」のギター・インスト・ヴァージョン。この音源はなんとギタリストの山本恭司(BOWWOW、VOW WOW)が制作したものだったのだ。山本恭司と山本譲二は昨年、ラジオ番組で初めて邂逅。共通点の多さから意気投合し、恭司は依頼を受けていないにもかかわらず、「みちのくひとり旅」のギター・インスト・ヴァージョンを制作するに至った。その音源が、この記念すべきライヴのオープニングに選ばれたという形だ。演歌独特の歌唱法“こぶし”を存分に利かせた恭司のギターに、オーディエンスは早くも酔いしれている模様。主役の登場前から客席のペンライトが点灯し、左右に揺れるという現象さえ引き起こしていた。

オープニング映像が終わると、本日の主役=山本譲二がステージに登場。白山タカシ(g)、白山力丸(g)親子率いるバンドのバックアップにより、「花も嵐も」「浪漫-ROMAN-」など演歌・歌謡曲スタイルの楽曲を歌い上げていく。この日の山本の喉は絶好調で、逞しい低域と野太いハイ・トーンで会場を揺さぶるほど。改めて、山本の歌唱にはロックを感じさせるパワフルさがあることに気付かされた。

山本譲二

その後、スペシャル・ゲストとして前川清(ex.内山田洋とクール・ファイブ)、堀内孝雄(ex.アリス)、川中美幸が登壇。山本のデビュー50周年を祝う言葉と、それぞれの歌を披露。彼ら彼女らが出演することは事前告知されておらず、山本本人も知らないサプライズだった模様。「これじゃあ俺が歌う時間がなくなるよ!」と苦笑する微笑ましいシーンもあった。

山本、堀内孝雄、前川清(右)

川中美幸(右)

続くパートは、山本本人によるギター弾き語りコーナー。故・石原裕次郎の「北の旅人」、菅原洋一の「今日でお別れ」といったカヴァー曲、自身の孫・雅也君に送る「恋しき孫よ」といった楽曲をゴダン製ギターを弾きながら披露。失礼を承知で言えば、これがとにかく上手い! その指さばきは演歌の創始者・古賀政男の演歌ギターの系譜にあり、時折挿入されるマイナー・スケールの下降フレーズなどはフラメンコ・ギターやメタル系ギター・ソロを思わせる手触りもある。思えば山本はデビュー前の下積み時代、各地のクラブで弾き語りをしてきた経験の持ち主。この手のことは朝飯前なのだろう。いつかYGで「山本譲二の演歌ギター・テクニック講座」をレクチャーしてほしいと思ったほど。ちなみに、山本の歌声とギターの音色は会場の天然リヴァーブによってふくよかさを増し、優しく観客を包み込むようなアンビエント感を生み出していた。

pic:尾谷幸憲

その後、バンド編成での「奥入瀬(おいらせ)」を挟み、山本とバック・バンドはステージの袖へと退場。そしてモニターから謎のギター・ソロが流れてくる。そう、東洋一のメタリカ公認トリビュート・バンド:HATTALLICAの登場だ! 山本譲二とHATTALLICAのコラボレーションは昨年の「言論の自由」(J&J feat. HATTALLICA with 長谷川太一名義)に始まり、その後も山本がHATTALLICAのライヴに表敬訪問するなど、良好な関係が続いていた。本公演の事前会議では、山本が真っ先に「HATTALLICAとやりたい」と発言していたともいう。その結果、本公演ではHATTALLICAのみのライヴ・パートが設けられるという、メタル大盤振る舞いの状況となった。ところが公演の数ヶ月前、「言論の自由」のアレンジを担当したギタリストのKirz Hammettががんを患い、闘病生活に…。一時は参加が危ぶまれたが、主治医の熱心かつ計画的な治療が功を奏し、今回全面参加することができたという。

そんなストーリーが刻まれたHATTALLICAのステージは、本公演における「演歌とメタルの融合」の序章とも呼べる内容だった。彼らは「Lux Æterna」「Master Of Puppets」「Enter Sandman」「Battery」といったメタリカの名曲群をメドレー形式で矢継ぎ早にプレイ。演奏がハイ・クオリティなのは当然だが、オーディエンスのサポートもあまりに感動的だ。当然のことながら、観客の多くは山本譲二ファン、演歌ファン、歌謡曲ファンである。にもかかわらず、彼ら彼女らは「Enter Sandman」に合わせて七色のペンライトを振っているのだ。こんな光景は、本家メタリカのライヴでも絶対に見られないだろう。さらに「Master Of Puppets」は山本の孫・雅也君からのリクエストだった模様。すでに山本一家がメタルに染め上げられていることも判明した。

メタルなブレイクを挟んだ「みちのくひとり旅」

そして山本がステージに合流すると、山本with HATTALLICAによるメタル・アレンジ版「人は旅人」「ローリング・ストーン」がプレイされる。ともにオリジナルは歌謡曲的な編曲が施されていたが、ここではヘヴィなリフと重厚なリズムによって新たな楽曲として生まれ変わっていた。特に、作詞:秋元康、作曲:後藤次利による「ローリング・ストーン」はミドル・テンポのヘヴィなハード・ロックに生まれ変わっており、’80年代のスコーピオンズあたりがやっていてもおかしくない仕上がり。会場にいた往年のメタラーたちも興奮気味の様子だ。

HATTALICA

メタル・アレンジ楽曲×2が終わった段階で、山本は女性ギタリストのSAKIをステージに呼び込む。アー写でもおなじみのドレス姿で登場したSAKIは、男性色の強いステージに一輪の花のように咲き誇り、存在感は抜群だ。ちなみにSAKIの参加は実は公演の約1ヶ月半前に急遽決定したとか。ソロ・ギタリストとしてのキャリアを邁進する彼女にとって別のフィールドでプレイすることは新たなチャレンジだったはずだ。

この編成で披露したのが、昨年リリースの「言論の自由」。音楽業界に旋風を巻き起こした「山本譲二メタル化計画」によって制作された楽曲である。このナンバーをライヴで演奏するのは、もちろん初めてのこと。ステージには静かな緊張感が漂っており、オーディエンスもそれを固唾を飲んで見守っている。そんな中、ステージの袖からあの声が聞こえた。「おい! ちょっと待った! やめろ! やめろ! 俺にも歌わせろ!」。登場したのは吉幾三。「俺ら東京さ行ぐだ」「雪国」などで知られるシンガー・ソングライターであり、「言論の自由」を作詞・作曲・歌唱した山本譲二の盟友である。この日、吉は当日のリハーサルには参加しておらず、実はいつ会場入りしていたのかも不明な状況。そのため、本番前の山本は相当気を揉んでいた様子だった。それだけに、吉の顔を見た瞬間に山本の表情がほころぶのも当然。会場のオーディエンスもやんややんやの大歓声である。

「それじゃあやるか!」「おう、やろう、兄弟!」。そんな2人の掛け合いで「言論の自由」はスタート。HATTALLICAとSAKIの圧倒的な音響的“圧”に乗せて、絶叫し始める山本と吉。歌われるリリックは、シニア世代の心の叫びとも取れる吐露、ポリティカルなメッセージだ。そしてブレイクでは、Kirz HammettとSAKIがギター・ソロ・バトルを展開。終盤では、SAKIの叫びにも似たアーミング音が会場に響き渡り、山本は「俺はメタルに生きるぅ〜〜!」とロング・トーンのスクリームをキメる。それは山本が50年間培ってきた歌唱力、吉の多彩な才能、メタラー組であるHATTALLICAとSAKIの演奏が見事に融合した瞬間だった。会場にいたメタラーたちはヘドバンをし、演歌ファンたちはペンライトを激しく振り続ける。そんな奇跡の現場だった。

吉幾三(左)

山本とHATTALLICAがステージを捌けると、次は吉幾三ソロのターン。大ヒット曲「酒よ」、フランク・シナトラやビリー・ジョエルを思わせるピアノ・バラード「You Were There ~あなたが居たから~」と続き、その後は山本が再びステージへ。吉が作詞・作曲を担当した「妻よ…ありがとう」「いつまでも…沖縄 OKINAWA」「揚子江」を情感たっぷりに歌い上げていく。中でも「妻よ…ありがとう」では山本の妻・悦子さんが登壇。サビのリリック「俺のこの手、離すな」のとおり、山本の腕をぎゅうっと握りしめている姿には多くの観客が心を揺さぶられたに違いない。

この時点で公演は2時間25分を超えていた。だが、まだ“あの曲”が残っている。そう、1981年のチャートで22週にわたりベスト10入りし、『第23回日本レコード大賞 ロング・セラー賞』を受賞した「みちのくひとり旅」だ。この曲をプレイする直前、山本はステージにHATTALLICA のKirz HammettとSAKIの2人を再び呼び込んでいた。そして演奏が始まると、オリジナル版でも聴けるイントロのギター・ソロをKirzとSAKIの2人はハーモニーで奏で始める。これもまたメタルと演歌の融合か。いや、正確に言うのであれば演歌にメタル・ギターを導入した瞬間とも言えるだろう。ジャンルを超えた共演がステージで展開されていく。

その瞬間、事件は起きた。「みちのく〜」の1stヴァースが終わった直後、突然、バックのドラムとギターが走り出す。なんとあの名曲にメタル的なブレイクダウンが挿入されているではないか! 当然、KirzもSAKIもあらん限りのテクニックで弾きまくり、ヘドバンまでするという異常事態。そして2人のギター・ソロに導かれるように原曲どおりの「みちのく〜」の2ndヴァースが始まるのである。この展開はもはやプログレだ。いや、これは世界初の「プログ・メタル演歌」の誕生ではないか? 演歌界の巨匠は短期間の間、ここまで進化してしまった……さすがに筆者も驚愕せざるを得なかった。

SAKI(左)、山本、Kirz Hammett(右)

一世一代の「みちのく〜」を披露後、山本の師匠である演歌界の大御所・北島三郎のビデオ・メッセージが流れる。その後、山本自身の人生をリリックに込めた「山本譲二物語」を熱唱し、50周年記念公演は幕を閉じた。

HATTALLICAのソロ・パート、山本+HATTALLICAによる既存曲のメタル・アレンジ、吉幾三も合流した「言論の自由」、プログ・メタル演歌とも言える進化を果たした「みちのくひとり旅」などによって、確かにメタルと演歌は完全な融合を果たした。このジャンルを超えた野心的な試みは、日本人にしかできないメタル表現と言えるだろう。そもそも山本は、2025年5月時点で75歳だ。我々がその年齢に達した時、彼と同様の熱量で新しいチャレンジができるのだろうか? そういった意味でも、山本には尊敬の念しか湧かない。さらにコンサート後、驚愕の事実も判明している。本公演の山本は、「言論の自由」の前後からイヤーモニターのトラブルで自身の歌がほぼ聴こえない状況だったらしい。この状態でライヴを完走するとは恐るべし。これが芸能生活50周年の経験、重みなのだ。改めて演歌歌手という存在の偉大さを見せつけられた筆者であった。

山本譲二デビュー50周年記念コンサート ファイナル 概要

日程:2025年5月25日(日)
会場:ティアラこうとう 大ホール(江東公会堂)
ゲスト:吉 幾三、HATTALLICA
スペシャル・ゲスト:前川清、堀内孝雄、川中美幸、SAKI(ギタリスト)
詳細:山本譲二デビュー50周年記念コンサート ファイナル | ティアラこうとう | 公益財団法人 江東区文化コミュニティ財団

セットリスト

1. オープニングムービー~みちのくひとり旅(山本恭司Ver.)
2. 花も嵐も
3. 夢街道
4. 旅の終わりはお前
5. そして、神戸(前川清)
6. 東京砂漠(前川清)
7. 恋唄綴り(堀内孝雄)
8. ひとりで泣くなよ
9. 時は流れても
10. 望郷しぐれ
11. 仁川エアポート(with 川中美幸)
12. 北の旅人(ギター弾き語り)
13. 今日でお別れ(ギター弾き語り)
14. 恋しき孫よ(ギター弾き語り)
15. 奥入瀬(おいらせ)
16. METALLICAメドレー(Lux Æterna~Master Of Puppets~Enter Sandman~Battery)(HATTALLICA)
17. 人は旅人(メタルアレンジ with HATTALLICA)
18. ローリングストーン(メタルアレンジ with HATTALLICA)
19. 言論の自由(with 吉幾三、HATTALLICA、SAKI)
20. 酒よ(吉幾三)
21. You Were There~あなたが居たから~(吉幾三)
22. 妻よ…ありがとう
23. いつまでも…沖縄 OKINAWA
24. 揚子江
25. みちのくひとり旅(メタル風ブレイク入り with Kirz Hammett、SAKI)
26. 北島三郎ビデオメッセージ
27. 山本譲二物語(with Kirz Hammett、SAKI)

公式インフォメーション
山本譲二 公式ウェブサイト

(レポート:尾谷幸憲 Yukinori Otani pix: Tomoko Hidaki)

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. 3点の猛攻を牽引する2号2ランHR含むマルチHで1軍再昇格へアピール!小林誠司に負けじと甲斐拓也/岸田行倫が争う巨人スタメンマスク争いに割って入る存在になるべく打撃の調子整える好打者とは!?

    ラブすぽ
  2. ビルカール・サルモンが『ブリュット レゼルブ』をバージョンアップ、新アイテムの名は『ル レゼルブ』

    ワイン王国
  3. しつこくかまってくる兄に、弟猫がとった"可愛すぎる反撃方法"…思わず笑顔になる瞬間が反響「たまらん」「機敏すぎるw」の声

    ねこちゃんホンポ
  4. 山形出身店主が作る心温まる中華そば♪三宮駅直結『中華蕎麦 神山』がオープン! 神戸市

    Kiss PRESS
  5. レイクトラウトの聖地・中禅寺湖で縦軌道ルアーが炸裂

    つり人オンライン
  6. 「鉄分」は身近な食材で手軽に摂取できる!自分にあった鉄食材を見つけるためのヒント

    毎日が発見ネット
  7. シューズやキャンプ用品などを手掛けるロイヤルが民事再生法を申請 負債額は約93億円

    セブツー
  8. 1100人のママが回答!学校や園などの役員・係になって実際どうでしたか? <ママのリアル調査>

    ママスタセレクト
  9. 3点の猛攻呼ぶ先制適時打で支配下登録へアピール!増田陸/門脇誠を脅かす存在になるべく打撃の調子さらに上げる巨人期待のロマン砲とは!?

    ラブすぽ
  10. 削りの新境地 31日から陶芸展 伊賀市の田中さん

    伊賀タウン情報YOU