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後世に名を成す彼らは「あの日」をどう迎えたのか?【昭和20年8月15日 文化人たちは玉音放送をどう聞いたか】

NHK出版デジタルマガジン

後世に名を成す彼らは「あの日」をどう迎えたのか?【昭和20年8月15日 文化人たちは玉音放送をどう聞いたか】

作家、映画監督、俳優、音楽家、歌舞伎役者、マンガ家……鋭敏すぎるほどの感性を持ちあわせた者たちは、「あの日」をどう生きたのか。
総勢135人の敗戦体験を、膨大な資料にもとづいて描き出した『昭和20年8月15日 文化人たちは玉音放送をどう聞いたか』の「はじめに」を公開。
これは、もうひとつの「日本のいちばん長い日」だ。

中川右介『昭和20年8月15日 文化人たちは玉音放送をどう聞いたか』

『昭和20年8月15日 文化人たちは玉音放送をどう聞いたか』はじめに

 戦争が終わり80年になる。当時10歳だった人も90歳となり、「あの戦争」を知っている人も少なくなってきた。しかし、あの「昭和20年(1945年)8月15日」のことは、多くの人が文章にして遺している。戦争と戦後、あるいは天皇制について語るとき、この日は無視できない。それだけではない。あの時代に生きたすべての日本人にとって、「8月15日」は最も記憶に残る日のようだ。

 この本は、著名人135人の「8月15日」を集めたものである。

 この日は「日本のいちばん長い日」としても知られている。映画にもなったそのタイトルの本では、御前会議など政府と軍の中枢での出来事が書かれているが、本書は、それとは無縁の作家やマンガ家、映画人、演劇人、音楽家といった文化・芸能の分野の著名人たちの「いちばん長い日」である。

太宰治(終戦時36歳)は、玉音放送を聞いて「ばかばかしい」と繰り返した

 有名ではあるが、彼らは一般庶民と同じように空襲の被害を受け、疎開し、家族を失い、家を失って、あるいは出征していて、8月15日を迎えた。「あの日」は、朝から「正午に重大放送があるから必ず聞くように」と、警察や役所などから知らされ、日本にあるすべてのラジオから「あの声」が流れた。聴取率100パーセントに近かっただろう。
 だが、放送があることを知らない人もいた。汽車で移動中で聞けなかった人もいた。次の日まで、敗戦を知らなかった人もいた。聞いた人に共通するのは、「よく聞き取れなかった」「何を言っているのか分からなかった」ということで、「これから本土決戦だ」と思った人も多い。
 すでに語り尽くされている日ではあるが、戦後80年の節目に、改めて、当時生きていた人びとのリアルな記録をもとに再確認してみようというのが、本書の意図である。

 四部構成だが、部によって若干、スタイルが異なっている。
 第一部は作家たちで、デビュー前の青年たち(多くが出征中)、すでに作家として活躍していた世代とに分けた。

林芙美子(終戦時41歳)は、疎開先の長野県・角間温泉で童話を書いていた

 第二部は映画人、第三部は演劇と音楽の舞台人で、それぞれが所属していた映画会社や劇団単位となっている。第四部は1945年に未成年だった人たちで、音楽家・映画人、マンガ家、作家の三章に分かれている。いずれも当人名義による自伝・回想録、随筆を参照・引用して「8月15日」にどこにいて、「玉音放送」をどう聞いたかを記したが、なかにはその場にいた他の人の証言をもとにしたものもある。

小津安二郎(終戦時42歳)は、戦争に負けたら切腹すると息巻いていた軍人たちが何もしないのを冷静に観察していた

 目次や巻末の略歴をご覧いただき、気になる人から読んでいただいても、まったくかまわない。
タイムマシンに乗って、1945年8月15日へ旅した気分になっていただきたい。幸いにも、この日に戻っても、もう空襲はないので(一部ではあったようだが)、危険はないと思う。

本書に登場する文化人(135人)

第一部 今日も明日もペンをとる
第一章 若者たち
三島由紀夫/司馬遼太郎/井上靖/松本清張/水上勉/円地文子/瀬戸内寂聴/大岡昇平/阿川弘之

第二章 文豪たち
川端康成/大佛次郎/菊池寛/林芙美子/宇野千代/宮本百合子/石川達三/太宰治/谷崎潤一郎/永井荷風/横溝正史/海野十三/江戸川乱歩

第二部 国敗れて、映画あり
第三章 東宝
森岩雄/黒澤明/今井正/高峰秀子/志村喬/山本嘉次郎/原節子/山田五十鈴/長谷川一夫/三船敏郎/円谷英二

第四章 松竹
城戸四郎/五所平之助/佐々木康/並木路子/高峰三枝子/田中絹代/上原謙/加山雄三/笠智衆/佐野周二/マキノ正博/木下惠介/小津安二郎

第五章 大映
永田雅一/市川右太衛門/片岡千恵蔵/丸根賛太郎/嵐寛寿郎/阪東妻三郎/伊藤大輔/稲垣浩

第三部 それぞれの幕間
第六章 演劇・音楽
島田正吾/古関裕而/菊田一夫/古川ロッパ/天津乙女/春日野八千代/岩谷時子/越路吹雪/ミヤコ蝶々/森光子/淡谷のり子/笠置シヅ子/服部良一/山口淑子/朝比奈隆

第七章 新劇
中村伸郎/山本安英/木下順二/杉村春子/千田是也/東山千栄子/村瀬幸子/滝沢修/宇野重吉/沢村貞子/丸山定夫/徳川夢声/土方与志

第八章 歌舞伎
初代市川猿翁/六代目尾上菊五郎/七代目尾上梅幸/十七代目中村勘三郎/初代中村吉右衛門/初代松本白鸚/初代中村錦之助/十一代目市川團十郎/二代目尾上松緑/六代目中村歌右衛門/十四代目守田勘彌/初代水谷八重子/二代目中村鴈治郎/坂田藤十郎/十三代目片岡仁左衛門/四代目中村雀右衛門

第四部 遅れてきた少年たち
第九章 未来の音楽家、映画人たち
小澤征爾/岩城宏之/芥川也寸志/武満徹/吉田喜重/篠田正浩/大島渚/大林宣彦/深作欣二/高倉健/岡田茉莉子/有馬稲子/岸惠子/美空ひばり

第十章 未来のマンガ家たち
手塚治虫/藤子不二雄Ⓐ/楳図かずお/さいとう・たかを/石ノ森章太郎/松本零士/わたなべまさこ/赤塚不二夫/ちばてつや/白土三平/水木しげる/やなせたかし

第十一章 未来の作家たち
大江健三郎/石原慎太郎/井上ひさし/五木寛之/野坂昭如/星新一/小松左京/筒井康隆/田辺聖子/阿久悠/黒柳徹子

中川右介

1960年生まれ。作家、編集者。
早稲田大学第二文学部卒業。出版社アルファベータ代表取締役編集長(~2014年)として、音楽家や文学者の評伝などを編集・発行。自らもクラシック音楽、歌舞伎、映画、マンガ、野球など多様な分野で旺盛な執筆活動を続ける。著書に『クラシック音楽の歴史』(角川ソフィア文庫)、『冷戦とクラシック』(NHK出版新書)、『昭和45年11月25日』(幻冬舎新書)、『江戸川乱歩と横溝正史』(集英社文庫)、『オーナーたちのプロ野球史』(朝日文庫)など。

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